閑話 純粋なガラス玉 前編
「はぁ……」
早朝、生徒会室にため息が漏れる。
今この部屋にいるのは生徒会副会長のセシリア=ボネットと生徒会会長のレイラ=マレットの二人だけだ。
赤みがかった綺麗な長髪のレイラ=マレットが、セシリアからため息が漏れたのに気付き、目を通していた資料から目線を上げセシリアを見る。
「セシリアさん、どうかしましたか?」
「会長……いえ、何でもありません」
「そうですか。ところで、先ほどから何を見ているのですか?」
「あの、今年の新入生の資料を」
「……ああ、フェイ=ディルク君のですか?」
資料を机の上に置き、手で顔の前に垂れていた髪を耳にかけながら、優雅な仕草で紅茶を飲むレイラ。
そんな彼女を、驚きで満ちた表情で見るセシリア。
「なぜ、私が見ていた生徒の資料がフェイ=ディルク君のものだと分かったんですか?」
「生徒会長である私が昨日この学校で起きたことを知らないとでも?」
意地の悪い笑みを浮かべながら言われ、セシリアは反論できなかった。
「それで、弟君とは話せたのですか?」
レイラの口から「弟」と出たことに、驚くセシリア。
「――っ!そこまで知ってるんですか?」
「ええ、学園長に口止めはされていますが」
「そうですか……」
「あ、大丈夫ですよ。あなたが彼を殺そうとしていなかった事は分かっていますよ、エリスさんも含めて」
「なぜ、そう思うのですか?」
「かばんの中に殺そうとした人の写真を大事そうに入れておく人はいませんよ」
「!!」
顔を真っ赤にしながら慌てるセシリア。
それをにやにやしながら眺めるレイラ。
「それで、彼と話したのですか?」
「いえ……」
「なるほど、先ほどの溜息は死んでいると思っていた想い人が生きていたのになかなか話す機会がないことに対するものですか」
「お、想い人って……違います!」
「冗談ですよ」
「会長、からかってますよね」
「ええ」
しれっと真顔で返したレイラを睨むセシリア。
「今日彼が登校したのを確認後、呼び出しましょうか?」
「いえ、その、声をかけにくいと言いますか……」
「あなたが何もしていないなら許してくれると思いますよ。私が数年前にボネット家で行われたパーティーに出席した際彼を見ましたが、幼いながら礼儀正しく、とても好印象でした」
「でも……」
会いたいと思っていても心の中で萎縮しているセシリアを見てため息をつくレイラ。
「……そういえば」
「はい?」
「私、フェイ=ディルク君に話があるので、昼休みにでも生徒会室に連れてきてくれますか?」
「えっ?」
「ああ、それと、私は少しほかにも用事があるので数分遅れると思いますので、二人で生徒会室で待ってて下さい」
「その……」
何が言いたいのか理解できないセシリアは、「説明してください」と言った目線をレイラに送る。
それを理解したのか、レイラが独り言のようにつぶやく。
「その数分間で、二人で何を話しててもいいですよ。もう一度言いますが、私は数分遅れるので」
レイラが何が言いたかったのか理解したセシリアがレイラに感謝の声をかける。
「ありがとうございます、会長!」
「しっかり弟君と話すんですよ」
そう言い終え、セシリアがかばんの中からフェイの写真を取り出してうれしそうに笑っているのを見て、レイラはほほ笑みながら資料に再び目を通し始めた。