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戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
五章 戦慄の魔術師と五帝獣
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百四十九話

「――陛下ッ! ボネット家より使者がまいりました! 至急拝謁願いたいとのことです」

「ボネット家が、だと?」


 私室で侍女に着替えを手伝ってもらっていたアルマンド王国国王、アルフレドは突然扉の外から衛兵より伝えられた言葉に眉を寄せた。

 アルフレドはもちろん、アルマンド王国の重鎮たちはボネット家に対してあまりよい印象を抱いていない。

 もちろん、それはボネット家の当主たるアレックスにしても同じことだ。

 そのことをアルフレドは重々承知している。


 必要最低限の交流にとどめていたボネット家。

 そんな彼らが事前に話すことなく急に拝謁を願うなど、今まで一度たりともなかったことだ。

 それほどまでに重要な案件なのだろうか。

 特に、今日は――


「――それは、人類同盟の会議よりも重要なことか」


 そう、今日は人類同盟――つまりは各国のトップが集う日だ。

 フェイが氷の帝級精霊と契約していたことを明かすためにアルフレドが招集した。

 今丁度その出立の準備をしていたところだったのだ。


 アルフレドの問いに、扉越しの声は黙る。

 恐らくは、確認しているのだろう。

 少しして、その回答が示された。


「……重要なこと、だそうです」

「――――」


 アルフレドはその返答に驚き、顔をしかめる。

 人類同盟の会議よりも重要であると、そう答えたからだ。


 アルフレドは時間を確認する。

 まだ、猶予はある。

 今すぐに謁見の場を設け、話を聞くぐらいの時間は残されているだろう。


「ふむ、そこまでのことであれば聞かないわけにはいくまい。準備をしてくれ」

「――はっ」


 扉越しに頭を下げる気配を感じながら、アルフレドは嫌な予感を抱いていた。


 ◆ ◆


「――して、なにがあった」


 場所は王の間に移り、外出用の豪奢な服に身を包んだアルフレドは、眼下で頭を下げるボネット家の使いに向けて問いを投げた。

 アルフレドの顔は険しいものとなっている。

 それは、使いの身なりがあまりにも汚れていたからだ。

 嫌な予感はさらに大きなものとなり、アルフレドの胸中を駆け巡る。

 そしてその予感が正しいものであると――直後、その事実を突きつけられて知った。


「はっ、ボネット家領、およびディルク家領に未知の敵が出現。ボネット家本邸に襲撃を受け――アレックス様が、戦死なされました……ッ!」

「……! い、今何と言った」

「アレックス様が戦死、ボネット家本邸は全壊いたしましたッッ」


 あまりの衝撃に、アルフレドは思わず玉座から立ち上がる。

 その衝撃はこの場にいる大臣などの重鎮も同じで、王の間にかつてない喧騒が湧き上がる。

 よろよろと玉座に座り直しながら、アルフレドは言葉を漏らす。


「……そう、か。アレックス公爵が……」


 決してよくは思ってなかったにせよ、国に仕える臣下が命を落としてなにも思わないわけではない。

 少しの間目を瞑り、故人を想い、哀悼する。

 そうして、少し冷静になると些細な矛盾に気付く。


「……待て、その未知の敵にアレックス公爵が殺されたのならば、一体だれがその後応戦したのだ」


 まさか、いまだに交戦中なのか。

 そんな嫌な可能性が脳裏をよぎる。

 だが、アルフレドは動揺のあまり失念していた。

 その未知の敵が現れたのが、ボネット家領だけでなく〝ディルク家領〟にも現れていたことを。


「未知の敵は、フェイ=ディルク男爵が討ち取られました」


 それを聞き、アルフレドは玉座の背に全身を預ける。

 脱力感。それが彼を襲った。


 そんなアルフレドに、使者は言いにくそうに口ごもりながら――


「その、フェイ男爵の力を、陛下はご存じだったのですか……?」


 アルフレドの反応を見て、そんな疑問を抱いたらしい。

 使者はその顔に恐怖の感情を宿しながら恐る恐る聞いた。


 それでアルフレドはすべてを察した。

 フェイが、氷帝獣の力を使って敵を葬り去ったことを。

 ここまで明らかになってしまえば、もはや国内においてフェイの力についての秘匿など可能なのだろうか。


 これから向かう人類同盟での行動を考えながら、また、ボネット家の今後のことなどを考え込む。

 だが、そんなアルフレドの思考を上回る事実が使者の口よりまたしても放たれた。


「あのような――膨大な力を秘めた精霊複数体と契約していたことを……!」


 複数体。

 それを聞いて、アレックスの死を聞いたときよりもより目を見開いて、


「――複数体だと!?」


 アルフレドは王の間に響き渡る声量で焦りの叫び声を上げた。


 直後、人類同盟の会議への参加を取りやめる旨を、アルフレドは各国のトップへと伝えた。

 自らが集めた会議に欠席をする。

 極めて非常識と言わざるを得ない行為だ。

 だが、そうせざるを得ないほどの事態が、アルフレドをはじめとしたアルマンド王国に襲い掛かった――。


 神童と最強の五柱の精霊。

 彼らが歴史に姿を現すときは、もうすぐそこまで迫っていた。

 望もうが、望むまいが、彼らに停滞はもはや許されない。

 運命という名の濁流は、再び彼らを飲み干さんと荒れ狂っていた。

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