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戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
四章 消えない記憶
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百二十一話

「ひとまず今日、明日中に【ファイアーボール】をこぶし大にできないと、とても間に合わないからしっかりやってね」


 文句の付けどころのない見事な土下座を受けて、フェイは覚悟を決めてゲイソンに告げた。

 【ファイアーボール】が発動できる以上、魔力量に問題はない。

 であれば、魔法の発動に使う魔力を凝縮するだけでその魔法の大きさを調整できる。


 土下座から復帰したゲイソンは立ち上がると同時にフェイの指示を真剣な表情で聞く。

 その姿勢を普段の授業から見せていたのなら直前になって焦ることもないのだが、そのことについて言及しても無駄だということは理解したし、何より時間がない。

 色々と言いたいことはあるが、それらはすべてが無事に片付いてからにしよう。


「取りあえず、魔力を凝縮するところから始めよう。魔法は発動しないで、魔力だけを放出して」

「お、おう」


 言われて、ゲイソンは手から魔力を放出する。

 相変わらず黒い魔力――つまりは純度が低い。だから精霊と契約できないのだと、ゲイソンは以前語っていた。


 フェイは、ゲイソンの放出された魔力を、目を細めて視る。

 まだまだ凝縮する余地がある。

 魔力は分散し、流動している。これをもう少し圧縮できればこぶし大の【ファイアーボール】を発動することなど容易であろう。


 だが、一向に魔力は凝縮されない。

 変化があると言えば、うぐぐ……と呻き声をあげるゲイソンの顔が次第に赤くなっていくぐらいのものだ。


「フェイ様」

「ん?」


 顎に右手を添えてどうしたものかと思案してたフェイに、メリアが突然声をかけてきた。


「たぶん、私が魔力を上手に放出できないのと同じかなって。魔力を凝縮するという感覚が分からないと思うんです……」


 フェイの補助のお蔭で魔力を放出する量が日に日に増えているメリア。

 そんなメリアにとって、ゲイソンが自分のように見えたのだろう。


 メリアの言葉で、フェイはなるほど……と再び考え込む。

 そして、一つの方法を思いついて眉を寄せた。

 これをすればあるいはという方法はあるのだが、危険がないわけではない。


「ゲイソン、もしかしたらっていう方法がないわけじゃないんだけど」

「! 何かいい方法があるのか! 何だよフェイ。ならさっさと教えてくれよ」

「いや、今思いついたんだけど、ノーリスクというわけじゃないんだよね」

「何事にも多少のリスクはつきものだろ! 大丈夫、俺はフェイのことを信じてるぜ!」


 親指をぐっと突き立てるゲイソンを前に、フェイは急に自分が難しく考えていたことがどうでもいいように思えてきた。

 一息吐いて、フェイはゲイソンに近付く。


「わかった。ただし、危険だと思ったらゲイソンには気絶してもらうからね」

「……え?」

「何事にもリスクはつきものなんでしょ?」

「…………。フェイの笑みがなんだか怖いんだが」


 微笑みながら淡々と告げてくるフェイに、ゲイソンは顔を引き攣らせる。


「――わかった。俺も男だ、やってくれフェイ!」


 覚悟を決めた――というよりは、自棄になった感じでゲイソンは言い放った。


「うん。ゲイソンは両手の間に魔力を放出するだけで大丈夫。あとは僕が何とかするから」

「何とかって……?」


 困惑しながらも、ゲイソンは言われた通りに魔力を放出する。

 それを見て、フェイは一瞬目を瞑り、開くと同時に両手から魔力を放出する。

 その余波で、室内の気流が乱れる。


「――ッ」

「ちょ、フェイ君の魔力、少し前より多くなってる……?」


 フリールを解放したことにより増加した魔力を抑えていたフェイだが、現在魔力を放出したことで、その抑えがきかなくなる。

 それにより、魔力は手の先からとめどなく溢れ出し、室内を満たしていく。

 少し放出しただけでこれだ。


(……人のことを言っていられないな。僕自身放出する魔力を抑えられていない。まだまだだな)


 自分に失望しながらも、ひとまず今はゲイソンに向き合う。


「お、おい。フェイ、何を……」


 困惑するゲイソンにフェイは小さく呟く。


「大丈夫。ゲイソンに魔力を凝縮するという感覚を覚えてもらうだけだよ」


 そして、何でもないかのように自身の魔力をゲイソンの魔力にぶち当てた。


「――ッ、くぅっ」

「うぉ、ぐぉぉおぉぉ……!」


 フェイは小さく苦悶の声を上げ、ゲイソンは叫ぶ。

 二者の魔力がぶち当たり、反発しあう。

 フェイはそれを押し切って、上下から自分の魔力を放出し、ゲイソンの魔力を押さえつける。

 表情を歪めながら、尚もフェイは魔力の放出をやめない。


「っ、おい、フェイ……!」


 何をしているんだとゲイソンが言おうとしたが、次の瞬間納得する。

 フェイの魔力に押さえつけられて、ゲイソンの魔力が凝縮している。

 つまりは、この感覚を覚えろという事なのだろう。

 そうはいっても、二者の魔力がぶち当たるという状況が長続きするはずもなかった。


 ゲイソンの黒い魔力が暴走を始める。

 すなわち、ゲイソンの意思を無視して体内から魔力が絞り出されていく。


「くっ、こんの……!」


 それを何とか抑えようとゲイソンは足掻くが、無駄だ。

 フェイはそれを見て、微笑みながら語り掛ける。


「ゲイソン、さっき言った事覚えてる?」

「……? おい、フェイ! 今はそんなことを言っている状況じゃ……!」


 確かにと頷いて、フェイは身を低くする。

 そのまま、魔力を纏った右手をゲイソンの腹部に打ち込んだ。


「ぐほぅぁ……!」


 必然、苦悶の声を上げて、ゲイソンは地面へと倒れる。

 それを見届けて、フェイは額に滲み出た汗を拭った。


「フェ、フェイ君えげつないのね……」


 アイリスが若干引いていたが、フェイは聞こえないふりをした。

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