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戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
四章 消えない記憶
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百二十話

「――頼む。一生のお願いだ!」


 授業が終わると同時に、ゲイソンは実技室を後にしようとしたフェイを呼び止め両手を合わせて頭を下げた。

 何となく予想はしていたことだったので、フェイはさして驚くことはない。

 だが、


「あんた、【エンチャントボディ】のテストの時もフェイ君を頼ってなかった?」

「生徒同士、互いに切磋琢磨するのは大切なことだと思うぜ、俺は!」

「あんたとフェイ君の構図は切磋琢磨なんかじゃないと思うけど。教わる側の都合のいい屁理屈よ」

「――ッ」


 さしものゲイソンもアイリスの言葉に反論は出来ない辺り、本人も自覚しているらしい。

 しかし、プライド以上に夏休みが補習でつぶれるなんてことだけは何としてでも阻止したいらしく、ゲイソンは再度フェイに頼み込む。


「なっ! 俺ああいう細かい制御苦手なんだよ! フェイは得意だろ? 教えてくれ、このとおりだ!!」

「いや、わかった、わかったから! 生徒会もあるから付きっきりってわけにはいかないけど、それでいいのなら。というか、後三日しかないんだけど」

「時間は無情にも過ぎていく。悲しいな、フェイ」

「ゲイソンが授業をきちんと受けていたら今頃苦労しなかったんだけどね」


 ゲイソンが何やら悟ったようなことを言ったが、フェイは何の慈悲も与えない。

 自業自得、というやつだ。


「おい、フェイ」


 そうやってゲイソンといくらか会話を続けていると、実技室の扉の方からアーロンの声が聞こえてきて、フェイたちはそちらを向く。


「生徒会の活動だが、暫くないらしい。――それだけだ。伝えたからなっ」


 短く用件だけを伝えて、アーロンはすぐさま姿を消した。

 どうやら、彼も忙しいらしい。


(生徒会の活動がない、か)


 勿論、フェイにとってはありがたいことこの上ない。

 説明する手間も省けるし、気を遣わなくてもいいからだ。

 もしかすると、自分が王城を出た後、アルフレドがレイラたちに何か言ったのかもしれない。

 どうあれ、これで懸念事項は消えた。

 例え廊下ですれ違ったとしても知らないふりをして声を掛けなければいい。

 そもそも、生徒会の活動をなくす時点で向こうもわざわざ干渉してくることはないだろう。

 あるいは、干渉するなと言われているだろう。


「フェイ!」

「…………」


 何やら期待に満ちた表情でフェイを見つめるゲイソン。

 その瞳に込められた意味など、聞く必要もない。


 小さく息を吐いてから、フェイはゲイソンに向き直ってやれやれといった声色で応える。


「わかったよ。三日間付き合うよ。ただし、途中で投げ出すのは許さないからね」

「お、おう! ありがとよッ!!」


 このゲイソンの笑顔が不思議と憎めない。

 これが人柄というやつなのか……いや、違うか。


 髪をぐしゃぐしゃっとしながら、フェイはゲイソンとの練習に付き合うことにした。


 ◆ ◆


「別に、アイリスやメリアまで残らなくてもいいのに」


 教室に荷物を取りに戻ってから再び実技室へと来たフェイは、一緒についてきたメリアとアイリスを見てそう呟いた。


「私はこいつの無様な姿を見たいだけよ」


 と、アイリスはゲイソンを親指で指しながらにひひっと笑いながら言う。

 それに突っかかるゲイソンを華麗に無視しながら、フェイはメリアを見る。


「わ、私は完璧というわけではないので……。少しでも高めておかないとって」


 あたふたとしながら、メリアはフェイを見てそう口にした。

 意外にも――というと失礼かもしれないが、メリアはすでに【ファイアーボール】を50m先の的に当てることが出来る。

 幼い頃よりフェイの影響を受けて魔力操作を鍛錬に鍛錬を重ねて磨き上げてきたため、この手の制御能力には光るものがあった。


「メリアは昔から努力してきたからね。今回のテストも無事に合格できるでしょ」


 フェイは特に深い意味はなく、何気なしにそう言い放っていまだ言い争うゲイソンとアイリスの元へと向かい、いい加減練習を始めようと仲介する。

 そんなフェイの背中に、メリアはぼそりと、


「――私は、レティス殿下と違って才能がないから……」


 そう呟いたのだが、ゲイソンたちと言い争っているフェイの耳には届かなかった。


 ◆ ◆


「一応念のため確認なんだけど、【ファイアーボール】をこぶし大にすることはできるよね」

「…………」

「あー……、うん。ゲイソン、補習って毎日あるわけじゃないからまぁ遊ぶ日も多少はあるよ。多少は」

「おい、フェイ! 俺が不合格になること前提で話してんじゃねぇよ!!」

「どう考えたって補習確定みたいなところでしょっ! 何!? ゲイソンは授業中何やってたの!?」


 ゲイソンに向かって、フェイは心の声を思いのままに叫ぶ。

 実際後三日で魔法をこぶし大に調整し、尚且つそれを的に当てるなんてのは難しいほぼ不可能といっていい。

 最低限魔法をこぶし大にすることは授業中にできるようしたはずだが、それが出来ないというゲイソンは一体何をしていたのか。

 そう思うのは当然だ。


 その問いに、ゲイソンは一呼吸おいて低い声で答える。


「――アーロンの説教を受けてた」

「そのまま夏休み中も説教を受けるといいよ。本当に」


 半眼で睨みつけながら、フェイは冷たく言い放つ。

 傍らに立っていたアイリスでさえ、絶句し、メリアは信じられないものを見るように目を見開いている。

 三人の視線を受けて、ゲイソンはうぐっ……と気圧されながら、フェイに向かって、静かに床に両手両ひざ額の全てをつけたのだった。

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