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戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
四章 消えない記憶

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百十九話

「あー……」


 翌日。精霊学校に登校したフェイは、校舎に入り、教室に向かいながら疲れ切ったような声を漏らしていた。

 朝から早々に何故こんなに疲弊しきっているのかと言えば、屋敷を出る前にフリールがフェイについていくといって聞かなかったのだ。

 それを何とか説得し、宥めてようやく精霊学校に着いた。

 そして精霊学校に着くと同時に、新たな心労がフェイを襲う。

 それが、レイラたちと会った時のことだ。


 王城では一度も顔を合わせることなく早々に立ち去ったわけだが、精霊学校ではそうはいかない。

 フェイが一生徒であったならば別だが、彼は生徒会補佐会に所属しているのだ。

 必ず放課後顔を合わせるに決まっている。


 そんな憂鬱なオーラを周囲にまき散らしながら、いよいよ教室に辿り着き、ドアを開けて中に入る。


「おはよう……って、あれ? ゲイソン、今日は早いね」


 教室に入ると同時に視界に入ったゲイソンを見てフェイは驚きに満ちた声色で声を上げた。


「よぉ、フェイ。何か今日起きた瞬間嫌な予感がしてよ。いてもたってもいられなくなって仕方なしに登校したんだよ」

「へぇ、嫌な予感……ね」


 ゲイソンと言葉を交わしながらフェイは自分の席に腰掛ける。

 丁度その横で会話していたアイリスとメリアも、フェイと挨拶を交わしてから、会話に繋がる。


「そう言えばフェイ君、合宿の帰りにいなかったけど、どうかしたの?」


 アイリスが純粋に気になったと言った感じで問い掛けてきた。


「そうそう、フェイも見たか? 辺りの海が凍ってたんだぜ」

「あー……、うん。見たよ。生徒会の人たちと帰ってたから、アイリスたちとは会わなかったんだよ」


 ゲイソンの話題に同意しながら、アイリスの問いに答える。

 答えるといっても、当然ながらそこに真実はない。


 何としてでも話題をそらしたいフェイは、何か他にないかと考える。


「そういえば、もうすぐ夏季休暇だね。ゲイソンたちは何か予定があるの?」


 はっとして、フェイは思いついたことを口にする。この話題にゲイソンは特に食らいつくはずだ。

 そして案の定、ゲイソンは食いついた。


「俺はまだ特に何も決まってねぇけど、そうだフェイ! どこか遊びに行かねえか?」

「えー、遊びにって例えば?」

「ちょっと、フェイ君とは私たちが一緒に遊ぶのよ? ねぇ、メリア」

「そ、そうですね……!」


 そこにアイリスが絡み、メリアを巻き込んで。

 朝の休み時間を潰すには十分すぎる話題だった。

 そうして長期休暇について互いに語らい、朝の時間はすぐに過ぎていった。


 ◆ ◆


 本日最後の授業は実技だ。

 夏休み前ということで教師陣も最後の追い込みに入り、座学などはペースがさらに早まり、ゲイソンに至ってはもはや限界と言った感じだ。

 そんな中で体を動かす実技は彼らにとってみればいいストレス発散の場だ。

 意気揚々と、気力十分にゲイソンたちは実技室へと向かう。


「今日はなにやるんだ?」

「この間の授業の続きだよ。的に魔法を当てるやつ」

「あーあれな」

「どこかのおバカさんが話を全く聞かずに馬鹿みたいにでかい魔法をぶつけて誇らしそうにしていたあれね」


 フェイとゲイソンの会話にいつも通りアイリスが割り込み、ゲイソンを煽る。

 一学期の終盤になってくれば、フェイももう慣れた。

 この二人のやり取りを止めることなく、足にわずかに力を込めて歩く速度を上げる。

 こうして二人から距離を取って無視すれば、気付けば口喧嘩が終わっているのだ。


 案の定、実技室に到着したころには二人の口論は終わっていた。


 既に実技室内には土でできた的が設置されていた。


 以前、土でできた的に【ファイアーボール】を当てるという至極単純な内容の授業。

 その授業において、ゲイソンはEクラス担任のアーロンの魔法はこぶし大にしろという説明を聞かずに巨大な【ファイアーボール】をぶつけて怒られたのは記憶に新しい。


 今日もそれをするらしい。


 授業の始まりを告げるチャイムが鳴ると同時にアーロンが実技室に顔を出す。

 ――と、いつもならば点呼を取った後早速授業を始めるのだが、アーロンは解散とは命じなかった。


「あー、もうすぐお前らが心待ちにしているであろう長期休暇に入るわけだが……」


 長期休暇。

 その言葉を聞くと同時に生徒たちは一斉に表情を明るくする。

 そんな生徒たちの表情を見て、アーロンは意地の悪い笑みを浮かべながら告げる。


「そう簡単に休みを貰えると思うなよ。当然、実技テストをやるからな」


 しーんと。実技室内の空気が凍る。

 フェイは、横にいるゲイソンを見やる。

 すると、彼は頭を抱えてぶつぶつと呟いていた。


「これか。朝の嫌な予感はこれか。俺ってすげぇ、マジすげぇ。俺の第六感目覚めてるぜ……」


 などと、現実逃避を始めていた。


「ゲイソン……」

「やめろ! そんな慈しむような目で俺を見るんじゃねぇ! ちぐしょう、朝夏休みの話をしたばかりだってのによ!」


 嘆くゲイソンを横目に、フェイはアーロンを注視する。


「急だが、三日後に行う。幸いこれまで何度も授業でやったからな。出来ない奴はほとんどいないだろう。試験内容は知っての通り50m先の的をこぶし大の【ファイアーボール】を放ち、当てる。合格条件は十回中七回当てることだ。この条件を満たさなかった者はめでたく夏休み返上で俺と補習だ。なぁ、ゲイソン」

「な、何で俺を名指しするんすか……」

「聞かなくてもわかってるだろ?」

「…………」

「いや、ゲイソン。そこは否定しようよ」


 アーロンの言葉に押し黙ったゲイソンを見て、フェイは顔を引きつかせながら思わずそう言葉を発した。

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