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戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
四章 消えない記憶

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百十三話

 ボネット家に殺されかけ、ラナと森で出会った日から一年後。

 つまりはフェイが八歳になったばかりの日のことだ。

 森の奥へと、何かに呼ばれるようにして突き進み、そこで彼はフリールたちと出会い、契約を交わした。

 その日は興奮のあまり気にすることはなかったが、数日してフェイは一つの疑問を抱いた。

 何故帝級精霊と契約を出来た自分が、あの時、七歳の時に最下級精霊とすら契約をすることが出来なかったのか。

 フェイがそんな疑問を抱くのは至極当然のことであった。

 あの時契約出来ていたなら、自分は裏切られることなどなかった。家族に殺されかけることなどなかったと。


 そしてその疑問は己の契約精霊、フリールたちに向けて言葉となって口から出ていた。

 フリールたちもラナからフェイの事情を聞いていたが故に、口ごもる。

 彼女たちは知っていたのだ。フェイが何故最下級精霊と契約できなかったのかを。

 だが、フェイが何度も知りたいと言ったから、彼女たちは悲痛な表情を浮かべてその疑問に答えた。


 ◆ ◆


「――フェイの魔力を、下級の精霊は耐えることが出来ないの」


 低い声で、フリールはアルフレドに向けて呟く。

 ただ真実を告げる。


「耐えることが出来ない?」


 アルフレドは髭を弄りながら聞き返す。


「フェイの魔力量とその純度に耐えられないのよ。私でさえ、抑えきるので精一杯なのよ? ましてや最下級精霊がフェイの魔力に耐えられるわけがないのよ。例えるなら、生まれたばかりの赤子に酒を飲ませるようなものよ」


 フェイの内包する魔力量は間違いなく人類最高峰と言える。

 何せ、五体もの帝級精霊と契約できるほどだ。その純度も申し分ない。

 そして七歳の時、精霊契約において相手は最下級精霊であった。

 最下級精霊程度の器ではフェイの魔力を入れきる事が出来ず、溢れ出してしまう。

 もし最下級精霊がフェイと契約を結ぼうとしたならば、きっとその精霊は存在ごと消滅しただろう。

 そのことを感じた最下級精霊は、みながフェイとの契約を拒絶したのだ。


 これが、フェイが精霊契約に失敗した理由。


 誰よりも才能を持ちながら、落ちこぼれとして扱われる。

 何と皮肉なことかと、フェイはそれを聞いたとき己の運命を呪った。己が持つものに怒り、その理不尽さを嘆いた。


 こんなものを望んでいたわけではないと。これほどまでに強大な力が欲しかったわけではない。

 ただ少しばかりの力さえあれば。家族の期待に応えられる程度の才能が欲しいと、そう願っていただけなのにと。


 まだ、まだ自分に才能が、力がなかっただけであれば、それで諦めもついただろう。

 だがフェイはこの真実を知って思うのだ。

 何故。何故。何故――と。

 何故力を持ちながらこれほどまで理不尽な人生を歩まなければならないのだ。何故家族に捨てられなければならないのだ。

 そうして一時期、負の感情に飲み込まれていた。


 だからフェイは、ブラムやエリス、その他多くの精霊術師を羨む。


 才能があり、力があり、そして家族に望まれる存在。


 フェイがかつてそうありたいと願っていた理想の姿。


 戦慄の魔術師と呼ばれていた頃の自分は、己の力を誇っていた。

 だが今は、誇る事などない。むしろその力を呪いのように感じている。

 だからフェイは力を持っていることに優越感を抱いてなどいない。


 ゲイソンやアイリス。Eクラスと過ごして、魔術師たちを下に見ることなど一度たりともない。むしろ彼らを心の底から羨ましいとさえ思っている。


 気付けば、手のひらに爪が抉りこんで、わずかに血がにじみ出ていた。


 そんなフェイのことを、アルフレドは痛ましげに、目を細めて見つめる。


「しかし、そうなってくるとそなたにはこのまま魔術師として通ってもらうことになってしまうが……。貴重な時間を悪戯に浪費するのはあまり望ましくないのだが」

「陛下。一つお聞きしてもいいでしょうか」

「? 構わぬが、いかがした」

「私と一緒に海底遺跡へ調査を行った他の者へは、どうご説明なさるつもりですか」


 フェイと一緒に海底遺跡に行った者たち――つまりはレイラたちはあの海が凍った現象と、そしてフリールの存在を認知している。

 であれば、そんな彼女に対する疑問が湧き上がるのは避けられない。


「それなのだが……あの者達には隠し通すことができまい。だから、正直に話すしかないと思っておる」

「失礼ながら陛下。それではもはや隠し通すことは不可能かと」


 特にブラム。彼は絶対に何かをしでかすに決まっている。

 そうなればもはや隠すことすら意味のないことだ。


「ふむ……。正直なことを言うと、そなたには帝級精霊の契約者として、今後精霊学校に通ってもらえると助かる。だがそれをすると混乱を招くのも確かだ」

「…………」

「少し時間をくれぬか。この問題は今すぐに答えを出せるほど軽いものではない。ひとまずそなたと一緒に調査に向かった者達へは、黙秘によって時間を稼ぐことにする」

「……分かりました」


 頭を下げる。


 アルフレドの言った通り、帝級精霊に関することは早急に対処すべきだが、すぐさま結論を出せるというものでもない。

 取りあえず精霊学校のない夏休みの間に結論を出し、長期休暇に入るまではいつも通り通うようにと言われて、フェイたちは王の間を出る。


 その後、王城にて待機しているレイラたちとは会わない方がいいだろうという判断で、フェイたちはトレントの操る馬車に乗ってディルク男爵領へと帰っていく。


 アルフレドはその夜のうちに、諸外国への書状をしたためた。

 すなわちそれは、人類同盟の招集を意味していた。


 フェイを中心に、世界の歯車が回り出した――。

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