十話
精霊には大きく分けて三タイプある。
一つ目は獣型タイプ。
二つ目は人型タイプ。
そして三つめが獣型にも人型にもなれるタイプ。
獣型はランクが低い精霊に多く、契約者に従順で扱いやすいが、力は人型より劣る。
人型はランクが高い精霊に多く、知能も人と同じくらいあるため扱いにくいが、獣型よりはるかに強い力を持つ。
獣型にも人型にもなれるタイプの精霊は最上級以上の精霊にしかおらず、ほかの二タイプよりはるかに強い力を持つ。
ちなみに、ランクは強い順から帝級~最下級あり、帝級は各属性に一体しかいない。
『――顕現せよ、フレイムウルフ!!』
近づいただけで燃え尽きてしまいそうなほどの熱を出す炎を身にまとっている狼……。
中級精霊…フレイムウルフ。
精霊が召喚されたことに、周囲の生徒たちは慌て始める。
「おい、あれ中級精霊だぜ!」
「まじかよ……」
「誰か先輩……いや、生徒会の人呼んで来い!」
普通の先輩では止められないと判断した生徒が、強力な精霊を使役している人が多く所属している生徒会の人を呼ぶように言った。
そんな周囲の反応とは違い、フェイは落ち着いている。
「どうだ、これが俺の契約精霊だ!土下座してその女を渡して去るなら、許してやってもいいぞ!」
「遠慮しとくよ」
「へっ、クールぶって居られるのも今のうちだ!【火の下級精霊魔法 フレイムニードル】!」
フレイムウルフのしっぽがフェイのほうを向き、そこから火の針が無数に発射される。
……下級精霊魔法か……。あの魔法は出来れば使いたくないし。
身体強化でよけるか……。いや、後ろにいるメリアにあたる。
「【水の中級魔法 ウォーターウォール】」
フェイの目の前に滝上の壁が現れ、火の針を完全に防ぐ。
火の針が地面にあたったところは地面が焼け、クレーターのようなものが出来ているところからも、この魔法の威力がわかるだろう。
だが、それを受けてなお……完全に防ぐフェイの魔法に周囲からは感嘆の声が上がる。
「ばかな、中級魔法で下級精霊魔法を完全に防ぎきれるわけが!」
「ブラム、君はここにいる人を巻き込むつもりなの?」
「ふん、知るかよ。弱い奴はやられるだけなんだよ!」
「そう……。そういえば、どうして中級精霊魔法を使わなかったんだい?」
中級精霊の場合、最下級~中級精霊魔法まで使える。
だがブラムは、中級ではなく下級を使った。
「本当は、もう魔力が限界なんでしょ?おとなしく降参したら?」
「だまれ!俺はブラム=ボネット!俺が負けるわけがない!!」
「……君は、つくづく愚かだね……」
「うるさい!そこまで言うなら見せてやる!【火の中級精霊魔法 フレイムアロー】!!」
先ほどの精霊魔法より二回り以上大きくなった炎の矢が、またもやフェイに襲い掛かる。
その矢は、先ほどフェイが展開した水の滝を突き抜ける。
「死ねえ!!」
……やむを得ない、あれを使うか。
「【水の上級魔法 ウォーターウェーブ】!【系統外魔法 ――】」
フェイによって展開された水の波が引き起こした轟音によって、フェイが言ったもう一つの魔法名までは聞き取れない。
水の波は炎の矢を完全に飲みつくし、ブラムは波にさらわれ身体を木にぶつける。
「がっ!」
フレイムウルフはまだ立ち続けているが、身にまとっていた炎は一回り小さくなっている。
驚くことに、フェイの行使した水の波は、ブラムとフレイムウルフ以外誰にもあたっていない。
「な……なぜお前が上級魔法を使える……」
「何でって、五年前には中級魔法を使えてたんだよ。今上級魔法が使えても、不思議じゃないでしょ?」
「それにしてもおかしいだろ!上級魔法で中級精霊魔法が防げるなら、とっくの昔に魔術師は精霊術師に勝っている!」
「僕が行使した【ウォーターウェーブ】は普通の【ウォーターウェーブ】より、規模が小さいんだよ」
「それがどうした!」
「意味、わからないかな?」
僕がブラムにそう尋ねると、後ろでメリアが「あ!」と声を上げた。
「んっ、メリアはわかったみたいだね。まぁ、昔から魔法について勉強してたからね」
「あっ、はい!」
嬉しそうに返してくる。
「どういうことだ!」
木に体をぶつけて痛いはずなのに、大声でどなりつけるように聞いてくる。
「魔力を圧縮して、魔法の規模は小さくする代わりに、狭い範囲に高威力の魔法を使ったんだよ」
「そんなこと、できるわけ!」
「僕が魔力操作に長けているのは知ってるでしょ?」
「くっ、まだだ!」
「もう、やめときなよ。もう魔力は残ってないでしょ?」
「だまれ、おいクソウルフ!さっさと魔法をうて!!」
しかし、フレイムウルフはピクリとも動かない。
「な、なぜだ!」
「むだだよ。しばらく君の精霊は動かない」
「何をした!」
「これは僕が作った、そして僕しか行使できない魔法、【系統外魔法 エレメンタルコントロール】この魔法は精霊の動きを一時的に止めることができる」
「そんな魔法があるわけ!」
「まぁ、この魔法にはいくつか制限があるけどね。この魔法が使えるのも、あの時精霊契約に失敗した理由があるからこそ……なんだけどね」
「どういう意味だ!」
「さあね。さて、どうしようかな……。本来なら君をこのまま眠らせる予定だったんだけど、さすがに僕も怒っててね。多少のお仕置きは必要かな?」
「何をするつもりだ!俺はボネット家の……」
「【土の初級魔法 ロックボール】」
ブラムの頭上に土の球が数個出現しブラムの頭に直撃する。
「ぐっ!」
「じゃあね。【ロックボール】」
今度は一個だけ出現した。
ただし、出現場所はブラムの、男ならだれもが持っている弱点の上なのだが……。
「や、やめろー!」
……見事に当たった。
「――っ!」
ブラムは声にならない悲鳴を上げ、その場に倒れる。
それと同時にフレイムウルフも消える。
……周りにいた男子生徒は全員あそこを押さえた。
「いったそー」
「ちょっとだけ同情するな……」
「あれ?なんだか僕、悪者みたいになってる?」
遠くから生徒会の人が来ている気配を感じたので、その場から立ち去ろうとすると、後ろから声がかけられる。
「あの、フェイお兄様……」
フェイはエリスを一瞥し、
「エリスさん。僕はもうあなたの兄ではありませんよ……」
と言って、その場を去った。
「お兄様……」
エリスは悲しそうにフェイの背中を見つめていた……。
「ふう、今日は結構魔力使ったなあ……」
帰宅してフェイはベッドに倒れこむ。
そのまま、寝てしまった……。
――ビッー
フェイはベルの音で意識が覚醒した。
時計を見ると、帰宅してから四時間近くたっていた。
「こんなに寝ちゃったのか……」
ビッー
再びベルが鳴る。
こんな時間に誰だろうと思いながら、玄関のドアを開けると……
「あの、フェイ様。今夜泊めてもらえませんか?」
恥ずかしそうにうつむいているメリアが立っていた……。