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戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
三章 縋りついたその先に
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百一話

「は……っ!」

「グァアァ!!」


 フェイと黒い精霊。

 狭い廊下で、既に五分以上対峙していた。

 魔力の放出を持ち前の魔力制御で極力抑え、無駄な消費を抑える。

 そうして、フェイは息を荒げながら接近しては相手の攻撃を回避し、接近してはを繰り返す。

 だが、そうして攻撃の機会を窺えども、黒い精霊は一向に隙を見せてはくれない。


 ちらりと、フェイは後ろを窺う。

 もうすでに結構な時間が経っているのにもかかわらず、エリスは一向に戻ってこない。


(もしかして、向こうでも何か起きているのか……?)


 そんな嫌な可能性が浮かび上がり、後ろを何度も見てしまう。

 そんな注意散漫なフェイに攻撃が当たらないわけがなかった。


「がはっ!」


 鞭が腹部に完全に入り、その反動でフェイは地面を跳ね転がる。

 痛みに耐えながら、フェイはすぐさま立ち上がり、炎の壁を展開して黒い精霊の放った黒い矢のような攻撃を防ぐ。


「くそっ、お前に構っている時間はないんだ!」


 人目がない今なら大丈夫だろう。

 何より、エリスたちが気がかりだ。


「速攻で決めさせてもらう……」


 今まで抑えていた魔力を一気に解放する。

 そして紡ぐ。


『――我は汝と契約せし者 汝の力全ての行使を認められ、委ねられし者』


 フェイが詠唱の一節を紡いだ瞬間、黒い精霊が目の色を変えて、先ほどまでとは比較にならない量の攻撃を放ってくる。

 それを炎の壁を何重にも展開することで防ぎながら、フェイは続ける。


「ぐっ……、『我は傲慢にして不遜 その力を以て、我に降りかかるあらゆる厄災を祓う者なり!』」


 建造物の狭い廊下の中で、フェイの魔力が黒い靄を吹き飛ばすように、吹き荒れる。


『我は水の執行者 与えられるは氷雪の剣』


『触れる者全ては氷へと転じ、あらゆる氷を統べる帝剣よ 今此処に、我はそれを求めん!!』


 詠唱を終える。

 フェイの目の前の空間が裂け、氷のかけらが溢れ出る。

 そこにフェイは、迷うことなく右腕を突っ込み、その剣の名を呼ぶ。


「【アイスソード】!」


 透明で、青く、穢れなき一本の剣。

 フェイはそれを力強く握ると、目の前の敵を、黒い精霊を睨む。

 そして息を吸い込み、吐きだすと、フェイは炎の壁を解除して、突っ込む。


「……!」


 フェイの左太ももに攻撃が当たり、ズボンが裂ける。

 それに構わず、フェイは一気に魔力を身体強化に注ぎ込み、さらに加速する。

 鞭を躱し、放たれた攻撃を斬る。

 そうしているうちに、間合いに入った。


「ハァァアァァ!!」


 フェイは地面を蹴って高く跳躍すると、天井すれすれの位置から振り下ろした。

 振り向きながら、黒い精霊を見る。

 一刀両断。

 右半身と左半身がわかれる。

 その傷を塞ごうと、黒い靄が集う。

 だが、氷帝剣はそれを許さない。

 氷帝剣が斬った場所が凍り始め、やがてそれは黒い精霊の全てを凍てつかせる。

 そうして、黒い精霊だった氷はそのまま粉々に崩れ去った。

 それを見送ると、フェイはすぐさまエリスの向かった奥へと走り出した。


 ◆ ◆


「エリスさん、避けてください!」


 レイラの叫び声に反応してエリスは後ろへ跳ぶ。

 そこに、レイラは風の矢を放つ。


「グガァッ!」


 エリスを踏みつぶそうとした巨人の足に当たる。

 が、それは見て取れるダメージは与えられていない。


「やはり、魔法は通じないようですね……」


 レイラが悔しげに呟く。

 既に、今いる部屋のいたるところが窪み、へこんでいる。

 ガラス管は割れ、中で死んでいた精霊は空気に触れたせいかは定かではないが、砂のようになっていた。


「グアァ!」


 叫び声とともに巨人がグレンに殴りかかる。

 それに水の壁を展開することで応じるが、布きれ同然のように突破され、殴られたグレンは壁まで飛ばされ、全身を打ち付けた。


「かはっ!」


 グレンは血を吐きながらそのまま地面に倒れる。


「……ッ! 【ウォーターランス】!! セシリアさん!」

「分かっています!」


 水の槍を数にして十五本。空中に現出させながらレイラはセシリアに指示する。

 そのままレイラは水の槍を巨人に向けて放ちながら、セシリアをグレンの救出に向かわせた。

 パラパラと、攻防を続けていくなかで、天井にもダメージがいったのか。建物の建材が欠片となって、時には巨大な瓦礫となって落ちてくる。


「このままだとまずいですね。ここは海の中。建物が壊れては戦えない……」


 いつの間にか結界を発動させていたアルナ鉱石も壊れたのか、建物の隙間から水が入ってきている。


「うぁぁああぁぁ!!」


 ブラムが狙いも定めず、乱暴にただただ火の玉を放ち続ける。

 魔力を無駄に失う、愚かな行動だ。

 そんなブラムに、巨人が狙いを定める。


「ヒッ……!」


 逃げ腰のブラムは巨人の視線が自分を向いたのを見て、すぐさまエリスを探す。

 そしてそのままエリスの所へと走り出した。


「エリス、防御だ!」

「え……?」

「早くしろ!」

「……っ、【ウォーターウォール】!!」


 自分の後ろに隠れたブラムの指示通りに、エリスは水の壁を展開する。

 だが、巨人の攻撃を防げるものでないことはエリスが一番分かっていた。

 振り下ろされる拳。

 反射的に目を閉じる。

 その瞬間、唐突に爆発音が響き渡り、一向に自分に衝撃が来ない。

 恐る恐る目を開けると、そこには息を荒げながら魔法を放つフェイがいた。

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