表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
三章 縋りついたその先に
106/199

九十八話

 水中を突き進む巨大な泡。

 人六人が入れるほどに大きなそれは一直線に沖に沈む建造物を目指していた。

 水の中を歩く不思議な感覚は、何とも言えない気持ちにさせる。

 とは言え、まだ陽が出ていないため海中はひどく暗い。

 昼間に入っていれば綺麗と思うかもしれない光景も、今はとてつもない恐怖を抱かせるものだった。


「【ライト】」


 何を言うでもなく、フェイが明かりを提供する。

 周囲が僅かに明るくなる。

 そうして数分歩いていると、いよいよ見えてきた。


「あれが……」


 誰からともなく呟きを漏らす。

 確かに異質だ。

 海底に沈む巨大な建造物。

 沈むという表現はもはや適当ではない。

 それは確かに、そこに建てられている。


 石造りの、一種の城のように見える建造物は、海底から生えているように見える。

 外から見る限り、恐らく地下もあるのだろう。

 そして何より、


「なるほど、これが結界ですか」


 レイラは結界の手前で立ち止まり、そう言った。


 暗い海底の中でもはっきりと分かる闇を纏った結界。

 空間を遮断した球状のそれが、建造物の周りにあった。


 接近して、泡の中に結界の一部を入れて手で叩く。

 硬い。

 見かけよりも遥かに。


「なるほど……、確かにこれは魔法でないと壊せないでしょうね」


 レイラは冷静にそう分析する。


「僕が壊しますよ」


 誰が破壊するかとレイラが視線で皆に問うた瞬間、フェイが即答する。

 それに誰も異論を唱えない。

 フェイは結界に手を添える。

 レイラたちはてっきり魔法を放ち破壊するものと思っていたが、フェイはそうしない。

 結界を壊す方法をフェイは別に知っているのだ。


「…………」


 結界に添えた右手からフェイの魔力が溢れ出る。

 だが、何の変化も起きず、レイラたちがそれを訝しんで声を掛けようとしたところで、唐突にそれは起こった。


「「「「「!」」」」」


 ぐにゃりと、結界の壁がフェイの手の添えられた場所を中心に溶けだした。

 その光景に思わず目を見開くレイラたちに、フェイは冷静に告げた。


「さあ、早く中に入りましょう。海水が入ってしまいます」

「え、ええ……」

「……っと、【クレイシールド】」


 全員が入ったのを確認して、フェイは土の壁で今さっき開けた穴を塞ぐ。

 レイラは無言で【エアレジオン】を解除した。


「海中なのに息ができる……」

「結界が水を遮断しているのでしょう。それよりもフェイ君、今のは?」


 エリスの呟きに応えながら、レイラはフェイに問いを投げた。


「あぁ、結界に干渉してあの部分の支配権を奪ったんですよ。使用者の魔力からの干渉がなくなればその箇所の結界は原形をとどめることが出来ませんから」

「そ、そんな簡単に……」


 こともなげに言い放つフェイ。

 彼が口にした言葉にレイラたちは顔を引き攣らせる。

 他人の行使した魔法なり結界に干渉しその支配権を奪うなど、言葉にすれば簡単だが実際は困難極まりない。

 一体どれほどの魔力と高度の魔力制御技術が必要なのか。

 そんなもの、力尽くで破壊した方がはるかに簡単だ。


「と、とにかく行きましょう。本来であれば探索なので二手に分かれたいところですが、水中ですから。万が一にことがあったとき分かれていると対処が遅れますので、ここは一緒に行きましょう」


 レイラの指示に他の五人は頷く。

 丁度、レイラたちのいる正面に、中へと誘う入り口があった。


 ◆ ◆


 カツーン、カツーンと、建物内を探索する集団の足音が響き渡る。

 前をレイラとグレン、間にブラムとセシリアを挟み、後ろをフェイとエリスが警戒するという布陣で突き進んでいた。

 外見はそれなりに年季を感じさせるものだったが、中はそれに反して整っている。

 中に潜入して二、三分経ったが、今のところ特に異変もなく、何も見つからない。


 とはいえ、この場にいる誰もが何かあると確信し、魔力を常時放出できるように警戒していた。

 当然だ。

 こんな海の底に、結界の張られた謎の建造物。

 そんなものの内部に何もないなんてことは信じられない。


 警戒を厳にしながら突き進む。


「……!」

「二方向に分かれていますね。どうしますか?」


 ここで、左と右に道が分かれている。

 それを見て、フェイはレイラに聞いた。

 顎に手を当てて、レイラは道の先を見る。


「左側の道を行ったところにすぐ、下に降りる階段が見えませんか?」

「…………、確かに」


 黒縁メガネをくいっと指で上げながら、前のめりになりつつ目を細めて左の道を凝視したグレンがレイラの言葉に頷く。


「こういうとき、大抵地下に何かあるものですが、どうしますか?」


 危険があるであろう場所に向かうか、それとも先に他の場所を潰しておくか。

 レイラの質問に各々は考える。


「どうせ地下にもいかないといけないんだ。先に行けばいいだろ」


 ブラムが不遜な態度で言い放つ。

 確かに彼の言う通りだ。

 危険なところを先に見ておいた方がいいかもしれないし、そうではないかもしれない。

 結局、どちらが正しいとも限らないのだ。


「そうですね……、では、左側の道に向かいますか?」


 ブラムの言葉に頷きながらレイラは再度聞いた。

 フェイたちも決めかねていたため、そのことに特に反対意見を述べることなく、左側の道を進むことが決まった。


「ふん!」


 自分の提案が通ったことにブラムは優越感に似た感情に浸りながら、セシリアたちの背中を追った。


「……!」

「これは……」

「……っ」


 階段を降りて地下に入った瞬間、フェイたちはそれぞれ同じ反応を見せた。

 つまり、思わず手で口を覆ったのだ。

 地下の空間は黒い靄で満ちていた。

 それが臭ったわけでも、何かしらの異物感や不快感を抱いたわけではないが、それでも彼らは本能的に口を覆った。

 間違いなくこの奥に何かあると、そう確信して一同はさらに力強く足を前に踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ