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戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
三章 縋りついたその先に
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九十七話

「ふぅ……」


 夜。

 入浴を終えてから、フェイは一人で洋館を出て、砂浜を歩いていた。

 合宿も終わり、明日はただの自由時間。遊びだ。

 だが、フェイたちは違う。

 むしろ明日こそが本番だ。


(遺跡探索……建造物は海底にあるって言っていたような)


 水中でも呼吸をする魔法はある事にはあるが、半日以上も維持し続けられるかといえばその限りではない。

 未知。

 そこに何があるかもわからない。

 何も知らないこと以上に怖いことはない。


「…………、まぁ、さすがに命に危険が及ぶことはないと思うけど」


 足を止めて、海を見る。

 そのはるか先にある暗黒大陸は、見えない。


「魔族、魔物、魔王……か。精霊の力を借りれない人類の敵」


 彼らは遠い地で、今何をしているのだろうと。

 フェイは唐突に、そんなことを考えた。


「……ッ」


 魔力を灯す。

 純白の、だが一部が僅かに黒ずんだ魔力。

 王都で、謎の男との衝突の後、魔力が僅かに黒く染まったのだ。

 純度が下がっているわけではないのにもかかわらず、だ。


「実害はないけど、何だか気持ち悪いな」


 こぶしを握り、放出した魔力を霧散させる。


 さくさくと、足を進めるたびに砂が奏でる音に耳を傾けながら、フェイは地を見て無言で歩く。


「ん? あれは」


 不意に顔を上げると、その先の砂浜で足を三角にし、身を小さくして座っているメリアの姿があった。


「メリア」

「! フェイ様!」


 フェイが声をかけると、メリアは慌てながら立ち上がろうとする。

 そんなメリアの横に、フェイは座った。


「…………」


 横に座るフェイを見て、メリアは困ったような表情を浮かべる。

 そんな彼女を見かねて、フェイはぽんぽんと、自身の横の地面を優しくたたいた。


「し、失礼します」


 フェイはメリアが座ったのを確認すると、視線を前、海へと移す。

 数十秒の無言が続いてから、フェイが口を開いた。


「ここで、何をしていたの?」

「す、少し風を浴びようかと」

「そうか。僕と似たような感じなんだね……」


 うつむいたままのメリアを横目で見ながら、フェイは続ける。


「今回の合宿、あんまりメリアのトレーニングに付き合えなくてごめんね」

「い、いえ……。フェイ様は、殿下で忙しいでしょうから」

「うん。想像以上、いやこの言葉も正しくはないね。規格外とでもいうか、僕の予想を遥かに超える才能を持っていて、正直つきっきりじゃないといけなかったからね」

「私なんかよりも、凄い才能を……」

「うん?」

「な、何でもないです」


 最後の言葉が聞こえず聞き返したフェイだが、メリアはそれを両手を振りながら誤魔化す。


「そのぅ、フェイ様がよければでいいんですが」

「何?」

「明日の自由時間、一緒に海で遊びませんか? 初日も海で遊びましたけど……」

「あー……、ごめん、明日はちょっと他に予定があるんだ」

「やっぱりレティス殿下と、ですか?」

「へ? いや、違うけど」


 どうしてそうなるのかとフェイは首を傾げながら、彼女にどう説明したものかと思案する。

 だが、フェイがその解を見つける前にメリアが口を開いた。


「いえ、大丈夫です! すいません、フェイ様。変なことを……」


 立ち上がって一歩前に進み、フェイに表情を窺えさせずに海を見る。

 そんなメリアをフェイは無言で見ながらおもむろに声をかけた。


「この合宿が終わってすぐに長期休暇に入るし、どこかに遊びに行こうか」

「え……!?」

「夏休みの間僕はずっと領地にいると思うけど、メリアが来るならいつでも歓迎だよ」

「い、行きます!!」


 メリアは食い気味にそう答えた。

 フェイは柔らかく微笑み返して、静かに海を見る。


 波の音だけが辺りに響き渡った。


 ◆ ◆


 最終日である五日目の早朝。

 まだ陽も出ていない時間に、フェイを含む補佐会と生徒会の計十二人に加えて学園長であるジェシカたちは砂浜にいた。

 他の生徒はまだ眠っている、そんな時間である。


「ここから沖に行ったところに、例の建造物はあります。ただし、連絡ともしもの時のため、そして何も知らない他の生徒が近付かないように、半数はここに残っていただきます」


 ジェシカの指示に従って、二つに分かれる。

 その結果、遺跡に潜入するのは、フェイ、レイラ、エリス、ブラム、グレン、セシリアの六人だ。

 人選の理由は実力もさることながら、良くも悪くも繋がりの深いことだ。


「六人の中の誰かが【風の上級魔法 エアレジオン】を行使して水中を進み、建造物を目指してください」

「その後はどうするんですか? 正直、建造物内の探索中もずっと維持し続けるのはしんどいかと」

「その心配は不要です。遺跡周辺には水がありませんから」

「……? 水が、ない?」

「ええ。結界が張られています。我々は水中から魔法でその結界を一部破壊、水が入りきる前にすぐさま侵入し、中からその穴を塞ぎます」


 事の詳細を説明し終え、フェイたちは準備に移る。

 水中で息をするための魔法、【エアレジオン】を行使するのはレイラということになった。


「では、皆さん寄ってください」


 レイラに、フェイを含む五人は近付く。


「【エアレジオン】!」


 名唱と共に、レイラを中心に六人を覆う球体の風の膜が出来上がる。

 そしてそれを確認して、六人はゆっくりと水中に入っていく。

 風の膜の中に、水は入ってこない。


 そのまま、六人は水中を歩んだ。

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