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戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
三章 縋りついたその先に
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九十五話

「体の中心に魔力を集めて、そこから体になじませるように、全身に……」


 昼食を終えて、午後の練習に入った。

 午後は砂浜ではなく、マレット領内の施設、精霊学校でいう実技室のような部屋にいた。

 そこで、フェイは部屋の隅でレティスに対して【エンチャントボディ】を行使して見せていた。

 他の生徒の殆どはやはりレティスから距離を取る。


「これが【エンチャントボディ】? 結構地味なのね」

「ま、まあ確かに言ってしまえば魔力を纏うだけですからね。でもこの魔法は色々と重宝するんですよ」

「そうなの? 例えばどういうときに?」

「どういうとき……」


 フェイはレティスに聞かれ、天井を見上げてここ最近に【エンチャントボディ】を使った時のことを振り返る。


 ブラムや、アレックスとの決闘。

 王都で襲ってきた謎の男との戦闘や、キャルビスト村の手前で盗賊に襲われたときなどなど。


「…………。あ、いや、何でもないです」

「……?」


 乾いた笑みを浮かべて誤魔化す。


(そうか、普通に暮らしている分には【エンチャントボディ】なんて使わないもんな……)


 それはつまり、今普通の暮らしが出来ていないということ。

 フェイはため息を吐きながら、レティスに視線を移す。


「では、殿下もやってみてください……」

「あ、ええ……、えーっと、魔力を中心に……」


 目を瞑って、内に秘めたる魔力に意識を向ける。

 当然、実戦に置いて目を瞑るなんてのは自殺行為なのでフェイはしないが、初めてなのだからそれを咎めることはしない。

 【エンチャントボディ】は術師ならば誰しも最初に習う魔法だ。

 魔力の流れを掴みやすく、その上他の魔法よりも遥かに簡単だ。

 が、それ故に【エンチャントボディ】を使えないと他の魔法を使うことはまずできないだろう。


「ん……っ」


 フェイは目を細めて、レティスの魔力の動きを見る。

 体の全身に巡る魔力が体の中心、胸のあたりへと集合していく。

 そして――


「体に、なじませるように……――【エンチャントボディ】!」


 途端、ぶわっと魔力が放出された。


「……!」


 驚愕に満ちた表情で、フェイは目を見開いた。


 魔力は溢れ、流動し、纏わりつく。

 全身の細胞一つ一つに浸透し、活性化させ、強化していく。

 白色の魔力は全身からオーラのように放出されている。


「で、出来た! 出来たわ、フェイ!」


 ぴょんぴょんと、レティスは無邪気に跳びはねる。

 ただその表情には嬉しさしかない。

 が、彼女のそれに反してフェイは呆然としていた。

 いや、フェイだけではない。この部屋にいた誰もがレティスを見て、あっけにとられたような表情を浮かべている。


「す、すごいです! レティス殿下!!」

「え、そう……?」

「ええ! 初の行使で成功するなんて! それに魔力の量、純度も申し分ないです!」


 実際、フェイはこの合宿中に【エンチャントボディ】を行使できるようになればいいと思っていた。

 だが、レティスはフェイの予想をいい意味で裏切った。


 まだ粗削りで、必要以上に魔力を放出しすぎていることを除けば文句はない。

 いや、必要以上に放出できる魔力があるのは、ある種才能の一種だ。


 勿体ないなと、フェイはそんなことを思った。


 もし、彼女の才が十全に発揮できていたら。

 もし、数年前から魔法の鍛錬をしていたなら。


 そんなことを思う立場ではないと思うが、それでも思わずにはいられない。

 責任の一端が自分にある以上、その償い……と言葉にするには重すぎるかもしれないが、それでもせめて彼女の力を発揮するのに力を惜しむことなく貸さなければ。


 彼女の才能を目の当たりにして、フェイはそう決意した。


「あれ……?」


 不意に、レティスが纏っていた魔力が消え去り、体から力が抜ける。

 そしてそのまま倒れこもうとする。


「殿下!」


 そんな彼女の背中に手を回し、支える。


「ふぅ……、魔力を使い過ぎたみたいですね。少し休憩しましょう」

「え、ええ、そうね……っ」


 心配の色を見せるフェイとは違って、疲れを見せながらもレティスは顔を真っ赤にする。


 レティスを壁にもたれかかせてから、フェイはほっと安堵の息を漏らし、そして自身の鍛錬のために魔力を放出する。

 レティスはそれを楽しそうに見つめた。


 そんな二人を、メリアは遠目から見つめていた。


 ◆ ◆


「……的な感じで、殿下は本当にすごかったんだ」

「へぇ、そりゃすげえ。今日が初日なんだろ? 魔法を使うの」

「うん……」


 その日の夜。

 洋館の浴場でフェイとゲイソンは語らっていた。

 頭を回し、肩をもみながらゲイソンは気の抜けた声を漏らしながら、フェイの言葉に耳を傾けていた。

 浴場にはこの二人しかいない。

 というのも、二人――ゲイソンとフェイ、そしてアイリスやメリア、レティスたちの五人は鍛錬を行った部屋の掃除をしたのだ。

 ジェシカの、学ぶ者はまず学んだ場所を綺麗にすること!という一言で、合宿を行う三日間当番制で海沿いの施設とその部屋を掃除することになったのだ。

 レティスは王族であるが、彼女の特別扱いしないでの一言で、関わりのあるフェイと一緒に掃除をすることになった。


「【エンチャントボディ】だけではなく、最下級魔法の【ファイアー】までも使えたなんてなぁ……。普通、【エンチャントボディ】だけでも何日もかかるだろ? 習得するのに」

「うん。まあ普通は習い始めるのがまだ五歳とか、それ以前のことも多いから長くかかってしまうんだけど。それでも年齢を考慮してもこれだけすぐに習得できるのは、やっぱり殿下には凄い才能があるよ。もしかしたら精霊とも契約できるかもしれない」

「精霊と契約ね……。でもよ、フェイ。いくら王族だからって、あんまり王女殿下にばっかり構い過ぎるなよ?」

「? あぁ、うん、分かってるよ。ゲイソンたちも一緒に鍛錬しよう」


 フェイの一言で、ゲイソンは頭を押さえながら長いため息を吐いた。


「フェイ、お前はほんっと、何もわかってねえな!」

「え、な、何が!?」


 ザバっと勢いよく湯船から立ち上がり、ゲイソンは浴場を出ていく。

 それをフェイは首を傾げて見ていた。

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