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戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
三章 縋りついたその先に
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九十四話

 合宿地に到着したフェイたちは、レイラの指示でひとまず近くの洋館に荷物を置くことにした。

 二人一部屋で部屋分けは自由だそうだ。

 ただし、男女は別で。

 その条件で、フェイは自然にゲイソンと同室になることになった。


「へ~、結構広いんだな」

「合宿の宿泊所といっても、マレット公爵家が建てたものだからね」


 部屋に入る瞬間に、ゲイソンはそんな感想を漏らした。


「今日はまだ魔法の鍛錬はしないんだろ?」

「うん。この後は海で遊ぶらしいね。鍛錬自体は三日間だけだね。最終日は自由時間らしいし」

「海で遊ぶったって何するんだ?」

「さぁ? 話によれば泳ぐらしいけど。泳げない人は泳げない人で砂浜での遊びもあるらしい」

「泳ぐ、ねぇ。俺は海で遊ぶの、これが初めてなんだぜ?」

「僕もだよ、というか、今回きた人の大半がそうなんじゃないかな?」


 そもそもアルマンド王国はマレット領以外に海に面しているところはないのだから、必然的に海に行く機会がそれ以外の地域に住む人は皆無に等しい。

 ただ、泳いだことがないのかと言われればそれはまた別の話だ。

 田舎だと湖で泳いだりすることもある。

 貴族ともなればプールを所有している家もあるくらいだ。


「ところで最終日だけどよ、予定がないなら一緒にどこか散策しねえか?」


 荷物を置き終えて、一息ついたところでゲイソンが唐突にフェイにそう声をかけた。


「あー……、最終日はちょっと……」


 最終日は、今回の真の目的と言ってもいい遺跡の探索調査が控えているのだ。

 ゲイソンと一緒に過ごすわけにはいかない。

 すると、フェイのやりにくそうな表情を見てゲイソンはニッと意味ありげな笑みを浮かべた。


「あー、はいはい。モテる男はつらいねぇ。分かった分かった、俺は他の奴らと適当に何かしとくぜ」

「モテる……? ゲイソン、何か勘違いしていない?」

「してねえしてねえ。お前、何やら王女殿下とも仲良いからな、なるほどなるほど」


 絶対何か思い違いをしているだろうとフェイはため息を吐きながらうな垂れた。

 この後、海でのことにすぐさま思考を転じたゲイソンに詰め寄る機会はなく、まぁ勘違いをしてくれるのなら都合がいいかとフェイは諦める。


 昼食の時間が来るまでの間、フェイはゲイソンと取り留めもないことで談笑して過ごした。


 ◆ ◆


「ハァ、ハァ、……ッ」


 翌日。

 合宿本番に突入し、フェイたちは早速鍛錬を始めていた。

 昼に入るまでの間、フェイたちは砂浜を全力で走っていた。


「たくっ、これに何の、意味が……ッ」


 フェイの横で走っていたゲイソンが不満そうに愚痴を漏らす。


「体力をつける目的があるって、さっき学園長が言っていたじゃないか。砂浜は砂に足を取られるから余計に体力を使うって……」


 フェイはそう返しながら周りを見た。

 さすがに六十人が全員同時に走ると危ないので、三十人ずつに分かれ、午前と午後で入れ替わる。

 今、他のグループは魔法の鍛錬をしているだろう。

 概ね、この三日間は半日は体力面の強化、そしてもう半日が魔法の強化に費やされる。

 とはいえたったの三日間でそこまで劇的に体力がつくわけがない。

 今後、合宿を終えてからもトレーニングを続けるかどうかは生徒の自主性による。

 あくまで今回の合宿の目的は、トレーニングの方法を生徒たちに教え、それを今後も行うことを促すことにある。


 ……と、遺跡調査の隠れ蓑のために急に行われた合宿にしてはそれらしい話になっているから不思議だなとフェイは内心で苦笑いを浮かべる。


「ていうかよ、これ、結構きついぜ……」


 ゲイソンは息を荒げながらフェイに助けを求める。

 生身で走っているわけではなく、【エンチャントボディ】を行使しているのだ。

 ゲイソンの体には黒いオーラ……魔力が纏わりついている。


「しんどいものだよ、鍛錬っていうのは」

「それは分かってるけどよ、さすがにこの状態で三十分走りっぱなしってのは……」

「ほんと、あんたは口だけで根性がないわね」

「アイリス、またか……」


 いつの間にか横についていたアイリスがゲイソンに対して煽るような言葉を放った。


「は、はんっ! 根性根性って、てめぇの方が脳筋じゃねぇか!」

「何ですって!? 自分が体力がないのをそうやって言い逃れるあんたはほんっと最低ね!」

「なんだと……!?」

「なによぅ!?」

「…………」


 フェイはゆっくりと足に力を込める。

 そしてそのまま、二人にばれないようにペースを速めて、ゲイソンたちを置いていった。


(本当、あの二人はどこでもすぐに喧嘩するなぁ。昨日もしていたし。一周回って仲がいいんじゃないかとさえ思えてくる……)


 あそこまで喧嘩する相手がいないフェイにとっては少し不思議に思えてしまう。


 それから一時間ごとに十五分の休憩を挟むサイクルを午前中は続けた。


 メリアやエリスたちも走っている中で、レティスは【エンチャントボディ】がまだ使えない分、休み休み行いながら、フェイを追った。


 そして午前の練習も終わり、昼食をはさんで午後の練習へと移っていく。

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