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戦慄の魔術師と五帝獣  作者: 戸津 秋太
三章 縋りついたその先に
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九十三話

 合宿初日の早朝。

 六十名の合宿参加者の生徒が精霊学校の校門に集っていた。

 まだ長期休暇に入っていないため精霊学校では通常の授業が行われるが、合宿参加者は免除される。

 さて、六十名もの移動とあって、校門前には彼ら以外に十数台の馬車が停まっていた。

 これらの馬車は全てマレット家が手配したものだ。

 七公家ともなれば、このくらい造作もない。

 一つの馬車に乗れるのは六人で、生徒たちは各自乗り込んでいく。

 そんな中、一角では緊張した空気が漂っていた。


「えーっと、殿下……」

「何?」

「その、やっぱり僕は他のところに……」

「ダメよ。フェイに魔法を教えてもらうんだから、先生には近くにいてもらわないと」

「先生って……」


 マレット家が用意したものよりもさらに豪華な造りになっている一台の馬車。

 言わずもがな、王城が手配した、王家のものだ。

 中にはレティスとフェイしか座っていない。

 レティスは別に、フェイがくるなら他の人も乗っていいと言ったのだが、そうはいっても王族の人間と同乗出来るほど胆力のある者はいなかった。


 そして、席に空きはあるのだから対面に座ればいいものの、レティスはフェイの横に腰掛けていた。


「あ、でも一応魔力は出せるようにはなったのよ」

「そうなんですか?」

「ええ。お父様がそれくらいは出来るようになっていないと逆に迷惑だろうって」

「そうだったんですか……」


 そもそも、フェイはレティスが魔法を使えるという確信は、数年ぶりの再会を果たしたときから確信していた。

 内包する魔力が視えていたからだ。

 だが、魔力の放出が出来ない人に一からそれを教えるのには中々な時間を要する。

 今回の合宿で一からやっていたならとても間に合わなかっただろう。

 そういう点では魔力を放出できるようになっているのはとてもありがたかった。


「あの、ところで殿下。少し離れてくれませんか?」


 そんなことはさておきと、フェイは顔を引き攣らせながら隣に座るレティスに言った。


「え、に、におう……!?」


 すんすんと、自分の来ている服の匂いを嗅ぐレティス。

 王城にいたとき、寝るとき以外は着ていたドレスは今日は着ていない。

 白を基調とした涼しさを感じさせるワンピースだ。

 もう初夏。風が気持ちいいと感じるようになってきている。

 制服も夏服に変わろうとしている。

 とは言え、もうすぐ長期休暇なので、夏服を着だすのは二学期からになるが。


 と、レティスの仕草にフェイは焦ったように返した。


「あぁ、いやそういうわけじゃなくて……」

「?」


 首を傾げる。


「その、殿下が横にいると緊張するというか、何というか……」


 レティスから目を逸らし、頬を掻きながらのフェイの言葉に当のレティスは呆然と口を開き、そしてすぐさま、


「ふぇ? えぇ……?」


 顔を真っ赤にし、一瞬でフェイの対面に移った。

 そしてそのままレティスは俯きながら、ワンピースをいじいじと触り出す。

 そのまま、会話らしい会話は生まれずに馬車が動き出した。


 ◆ ◆


 それから数時間が経った。

 最初は沈黙が続いていたが車内だが、レティスが魔法についての話題を口にしてからは会話が続いている。

 実技は現地でやるとして、最低限の知識を車内で復習しておこうということだ。

 王城では、貴族の前に顔を出す以外は特にこれといってすることがないレティスは、それ以外の時間を全て魔法関係の本を読み、勉強することに費やしていた。

 そんなレティスの魔法への知識は文句ないものだった。

 だから、車内で実際に行われたやり取りは復習というよりも、応用に近いものだった。


 そんなこんなをしていると、とうとう目的地が近付いてくる。


「このにおい……」

「…………」


 レティスにつられるように、フェイもまた車窓に視線を移す。

 すると、山道を抜けた途端、視界一杯に青が広がった。


「あれが、海」


 フェイも、そしてレティスも海を見るのは初めてだ。

 悠然と広がる海。

 それに思わず息を飲んだ。


「あれ、全部が水なのね」

「ええ。魔法で再現できますかね……」


 一番近いのは【ウォーターウェーブ】だ。

 砂浜に押し寄せる波が酷似している。


「今回の合宿で、色々と新しい刺激が生まれそうですね。特に水系統の魔法は想像が膨らみそうです」

「ふふっ、すぐそうやって魔法のことを考えるのね」


 呆れ交じりに、だがどこか嬉しそうにレティスはフェイの言葉に微笑む。


「殿下は、メリアと同じようなことを言うんですね……」


 フェイは苦笑いをしながら言う。

 と、その瞬間にレティスは表情を硬くする。


「メリ、ア……?」

「幼馴染ですよ。メリアも、僕が風邪を引いたときに、僕は魔法バカだからとか何とか言って魔法の練習をしないように何度も注意をしてきたんですよ」


 結局、彼女の言った通り少しだけ魔力を放出してしまったんですがねとフェイは付け加える。


「…………」

「殿下……?」


 むぅ……と膨れっ面をするレティスを見てフェイは首を傾げた。

 目的地まで数分間。

 出発前とは真逆の理由で沈黙が続いた。

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