九話
――「ねえ、今の君の力って、こんなものなの?」
まだ完全には収まりきらない土煙の中で、澄んだ声があたりに響く。
ブラムは無傷で立っているフェイを見て表情を一転、驚きに顔を歪める。
「な、何をした!なぜ無傷で立っていられる!」
「何を言ってるんだい?君こそ、この程度の魔法で僕を傷つけれるとでも?」
「――っ!うるさい!ちょっと手加減してやれば図に乗りやがって!【火の中級魔法 フレイムランス】!」
空中に火の槍が数本出現し、フェイに襲い掛かる。
「【水の中級魔法 ウォーターランス】」
フェイの周りに出現した水の槍が火の槍にあたり、完全に相殺される。
……否、水の槍は勢いを衰えさせずにそのままブラムに襲い掛かった。
「ぐはっ!」
ブラムに直撃し、うめき声をあげながら膝を地面につく。
「くっ、ばかな……」
「ねえ?」
「!!」
突然声をかけられたブラムは、痛みをこらえながらフェイを見る。
「君はこの五年間何をしていたんだい?君は中級魔法こそ使えてるけど、魔力の練りが弱いために魔法自体の威力も弱い。大方、自分より力のないものをいじめて、悦に入っていたんでしょ?」
「だまれ!今のは属性の相性の問題だ!【火の中級魔法 フレイムランス】!」
「無駄だよ、【火の中級魔法 フレイムランス】」
フェイの炎の槍は、ブラムの火の槍を飲み込む。
「なっ!」
「これでわかったでしょ?君は自分の力を過信し過ぎてたんだよ……」
「うるさい!」
「っ!」
ブラムは声を荒げながらフェイを睨みつける。
「お前は昔から、そうやって偉そうに説教しやがって!」
「……」
「いつも!いつも!いつも!いつも!……母さん達から俺とは比べ物にならない程の愛情を受けやがって!」
「……あんなものは、愛情なんかじゃないよ……」
そう、精霊契約に失敗しただけで家を追い出す人が、愛情なんか注ぐわけがない。
あんなのはただの、親の欲目でしかない……。
「だまれ!もって生まれたお前にはわからないだろ!俺がお前のことをどれだけ憎んでいたか!」
「それが、僕を殺させた理由かい?」
「――っ、……ああ、そうだよ!」
「……なるほど、通りで君の魔法が弱いわけだ」
「何だと!?」
「自分より強いものは排除し、自分より弱い者を嬲って喜ぶ……。そんな奴の魔法が強いわけがない……」
フェイは無表情にそう言った。
だが、その瞳はどこか悲しげな感じだった。
「ふふふふ……ははははは!」
――突如、ブラムが気が狂ったように笑い出した。
「お……お兄様?」
ブラムの豹変ぶりに不安を感じたのか、エリスが声をかける。
だが、ブラムの目にはフェイしか映っていなかった。
「俺が手に入れた力が、ただの魔法だけだと思っているのか!」
「……いいや。精霊術師しか行使できない魔法があることは知っているよ」
「そうだ!お前が……全てにおいて俺に勝っていたお前が唯一手に入れられなかった力が!!」
「お兄様!それはお止め下さい!!」
ブラムが何のことを言っているのか理解したエリスが止めに入る。
「うるさい!」
「きゃっ!」
ブラムが、腕をつかんだエリスを振り払う。
「お前に見せてやるよ……。そして、思い出させてやる!魔術師では精霊術師に勝てないということを!!」
「……こんなところで使うつもりかい?今更だけど……」
「俺はボネットの人間だ!何をしても許されるんだよ!」
突如、ブラムの周りの魔力が高まる。
『――我と契約せし気高き精霊よ』
『汝、我が魔力を糧とし大いなる力をここに示せ! 』
『――顕現せよ、フレイムウルフ!!』
――その場に、燃え盛る炎を身にまとった狼が現れた……。