玲奈との下校
玲奈。勉強はできる。容姿もいい。
胸は平均程度。のんちゃんには負ける。まだ、二人とも、その胸を生で見た事はないが。
玲奈の事を好きだと言う奴の話は過去にも聞いた事がある。
だが、玲奈は性格がきつい。口調もきつい。そんな性格とも関係あるのか、告って、成功した奴はいない。
普段からきつい口調が多いが、俺への口調は今日はいつもよりきつかった。
そんな一日が終わり、玲奈は鞄の中に机の中から取り出した教科書にノートを詰め込んでいる。
俺も同じように、鞄の中に教科書を詰めていた。
「じゃあ、まーくん。ごめんね。今日は部活あるから」
のんちゃんが、俺の前までやって来た。
俺は机の上に置いていた鞄を手に取って、肩に担いで立ち上がった。
「おう。じゃあ、また明日」
「うん」
のんちゃんが、小さく胸のあたりで手を振って、俺に背を向けた。
見送る俺。
教室のドアのところで、のんちゃんは立ち止まると、振り返って、もう一度手を小さく振った。
かわいい。かわいすぎる。
俺も真似して、胸のあたりで小さく振ってみる。
「はっ」
冷たいため息のようなものが、俺の耳に届いた。
玲奈の視線は冷たすぎる。
このままでは、二人の間が険悪になっていきそうじゃないか。
「秋本。今日はのんちゃんと帰れないんだ。寂しいんじゃない?」
中里がにこにこ顔でやって来た。
「別に寂しくはないが」
ちょっと仏頂面で返した。
「あのさ。玲奈と一緒に帰ってくんない?」
「ちょ、ちょっと待ってよ、未生。
突然、何言ってるのよ」
中里の言葉に、俺以上に玲奈が戸惑っている。
「ちょっと今、玲奈、大変なんだよねぇ」
中里は玲奈を無視して、俺に言った。
大変って、何が? そんな表情で中里を見た。
「ちょっと、変な事言わないでよ」
怜奈は中里の邪魔をしようとしている。
「変な奴に後をつけられてるみたいなのよ」
驚きの言葉だ。
「マジなのか?」
「こんな事、冗談でも言える訳ないじゃない」
中里の言葉に、俺は玲奈を見た。
玲奈は困惑顔だ。
「でもね。毎日って訳じゃないし、絶対に私をつけているって確証がある訳じゃないんだし」
玲奈は右の手のひらを顔のあたりで振って、いらない、いらないと言う仕草をしながら言った。
「そんな話を聞いてしまって、知らないふりなんかできる訳ないだろ」
「でも」
「でもなんかじゃない。今日は俺と一緒に帰るからな」
玲奈の危機と知って、ちょっと俺は興奮気味だ。
「よかったね。玲奈」
「もう。未生」
玲奈はちょっと不機嫌そうだ。俺とは一緒に帰りたくない。
そう言うことなのか?
「玲奈の事、頼んだからね」
中里はそう言うと、右手を軽く上げて、じゃあって感じで、俺たちに背中を向けた。
「大丈夫。ほんとーに、大丈夫だから」
中里が立ち去ると、玲奈が俺に言ってきた。
「さっきも言ったけど、そんな話を聞いて」
そこまで言った時、一瞬言葉が詰まった。
好きな玲奈をと言う選択肢。
以前ならありだった。
もっとも、ありだったからと言って、言えたかどうかは別だが。
だが、今はない。ちょっとも寂しい気がするが。
「幼馴染として、ほっておける訳ないだろ」
友達と言うのはちょっと寂しい。俺は幼馴染を使う事にした。
「幼馴染として」
玲奈の表情は一瞬暗くなった気がしたが、すぐにこりとした。
「そだね。じゃあ、送ってもらおうかな」
結局、玲奈と俺は一緒に帰る事になった。
と言っても、二人の間にはそれなりの空間が確保されていて、のんちゃんの時のように制服同士でさえ触れ合う事はない。
その間に聞き出したところによると、その変な奴と言うのは、ストーカーの如く、玲奈の事を駅から自宅近くまで付けて来た事があったらしかった。
どこまで危険か分からないが、そう言う事が何度かあったため、警察には伝えてはいるらしかった。