俺の気持ちを知っていたのんちゃん
のんちゃんの心の奥に何かが引っかかっている。
そんな気がする。
それは本当に昨日のことなのか?
俺はそこが分からないまま、昨日の事をきっぱりと言った。
まずはここからだ。
「あ、ああ。先生にいちゃいちゃって、言われたけど、そんな事はしていない」
「そんな事じゃないよ。もういい」
どうやら、外したようだ。のんちゃんの心の奥に引っかかっているものは。
だとしたら、何なんだ。俺には分からないし、このままでいい訳もない。
「何がもういいんだよ。全然よくない」
「だって、まーくんは江崎さんの事が本当は好きなんじゃない!
私、分かってたんだから。でも、あの時、好きな人はいないって言ってくれて、私の事かわいいって言ってくれて、うれしかったんだから。
まーくんが江崎さんの事好きなのは、私の思い違いだって、信じたかった。
そして、まーくんを私だけのものにしたくて、したくて。
なのに」
のんちゃんの言葉に反論する事はできなかった。
のんちゃんは俺の本当の気持ちを知っていたんだ。それでも、俺を信じようとしてくれていた。
俺はのんちゃんにかける言葉さえ、思いつかず、ほんの少し呆然としてしまっていた。
のんちゃんの瞳から、涙があふれ出した。
「否定もしないじゃない。
好き同志なら、さっさとくっついちゃえばいいのよ」
のんちゃんは叫ぶようにそう言ったかと思うと、制服の袖で涙をぬぐい、非常ドアの扉を開けて廊下に飛び込んで行った。
閉じるドア。
慌てて、俺も中に入ろうとドアの取っ手に手をかけた瞬間、カチャリと言う音がした。
ノブを回しても、ドアはピクリとも動かない。
締め出された。
ドアを叩いて、廊下にいるかも知れない誰かに開けてもらう。
一瞬浮かんだ選択肢だったが、すぐに取り消した。
すぐ近くに誰かがいると言う確証もないし、大きな音で叩けば何事かと思われてしまう。
すぐに浮かべたもう一つの選択肢を実行に移した。
非常階段を駆け下りる。
地上に降り立った時、授業開始のチャイムが鳴った。
マジやばい。
ペースを上げ、全力疾走して、教室を目指したが、先生はすでに教壇に立っていた。
ドアを開けて、教室に入ってきた俺をぎろりと睨んだ。
俺は視線をそむけた。
目を合わせたくなくて、そらした訳ではない。
のんちゃんの事が気になって、のんちゃんの席に目を移したのだ。
「もう授業は始まってるんだぞ。何をやっていた」
「すみません。ちょっと、トイレに行っていて」
ちょっと恥ずかしいが、これ以外にない。
そんな事より、のんちゃんが席にいない。
「先生、藤田もいないようですけど」
「うん?」
怪訝な視線を先生から、向けられた。
自分も遅れてきたこの状況で、もう一人教室にいない藤田の事をたずねるのは怪しすぎる?
「お前ら、何かあったのか?」
「あ、いえ。俺以外にも藤田もいないなぁって、思っただけです」
そう言いながら、自分の席を目指して歩き始める。
「藤田は体調が悪いとかで、保健室だ」
背後から先生の声が聞こえてきた。
今すぐ、俺も保健室に行って、話をしたいところだが、さすがにそれは怪しすぎる。
しかたなく、そのまま自分の席を目指す。
玲奈はぷいっと横を向いたままで、俺を見ようとしていない。
のんちゃんは言った。
好き同志なら、さっさとくっついちゃえばいいのよと。
玲奈は俺の事を好きなのか? 中里の態度を見て、俺もそう思った。
だが、玲奈の態度だけがその考えを否定させる。
俺はよく分からないまま、席についた。




