俺が誤解する原因の一つ
放課後。
一気に解放感がみんなを包む。
今まで、何か重い物をしょわされているかのようだった生徒たちの顔が、一気に明るさを取り戻している。
俺は石橋の家に行く事にはなったが、掃除当番と言うものにもあたっていた。
教室の後ろに置かれた灰色のロッカー。
グレーとは言わない。灰色。グレーだとちょっとかっこいい音だからだ。
そこに入っている掃除道具を取りに向かう俺の前に中里がやって来た。
「秋本、今日の掃除当番なんだけどさ。ちょっと、都合悪いんだよね。
玲奈を代わりに置いて行くから、よろしくね」
中里がにこりとしたかと思うと、自分の後ろに連れてきていた玲奈を押し出すようにして、俺の前に差し出した。
俺としては、今はあまり玲奈と関わりたくない気分なので、玲奈から目線は逸らして、一歩引き下がった。
「な、な、何で、押し出すかなぁ」
玲奈はちょっと慌て気味に中里を見た。
「いいけど」
俺はそう言って返した。
中里は玲奈と掃除当番を代わる事がしばしばある。
俺はロッカーからほうきを取り出して、玲奈に差し出した。
「はい」
玲奈は何も言わず、俺からほうきを奪い取るようにして、立ち去って行った。
「照れちゃってるのかもよ。
じゃあ、玲奈の事、よろしくね」
中里はそう言って、くるりと反転して立ち去って行った。
そうなのだ。あのタイムカプセルの中にあった玲奈の手紙。
それを今も信じたのはこいつのこう言う態度が原因の一つだ。
手紙の中身を読んだ時、中里の態度が意味しているものを、玲奈が俺の事を好きで、俺たちを引っ付けようとしていると理解してしまったんだ。
それが、そもそもの誤解だったと言う事か?
中里のこの態度は単に、中里の性格によるもの。そう言うことなんだろう。
なんだか、むしゃくしゃして、ロッカーの扉を思いっきり閉じた。
教室の中に響いた金属音。みんなの注目が集まった。
玲奈も白い目を向けた。
「暴れていないで、ちゃんと掃除してよね」
これは玲奈のいつもの調子だ。
俺の事が好きなら、こんな態度はとらんよな。
「まーくん。どうしたの? 何か怒ってるの?」とか、優しく言ってくれるはずだ。
全く、俺の一人合点。寂しいじゃないか。
「分かってるよ」
そう言って、俺がロッカーから離れはじめると、玲奈はさっさと俺から離れて黒板の前まで移動した。
よく考えてみれば、もしも中里が気を利かしたんなら、こんな時だって、玲奈は俺の横あたりで微笑み、お喋りしながら一緒に掃除をするはずだ。
そうでないと言う事は、やっぱ、俺の勘繰りすぎだったんだ。
よくよく考えれば、俺はまるっきり平均的な男子生徒。
つまり、特徴が無い。
そんな俺が妄想を抱いていたと言う事だ。
短い夢だったが、胸がわくわくしたのは事実だ。
いい夢を見させてもらったと諦めるしかない。