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何かをぶつけようとしている感じだ

 次の日の朝。

 俺は教室で自分の席に座って、のんちゃんが来るのを待っていた。

 結局、昨日はあれから連絡は取れないまま。俺としては、気が気じゃない。


 のんちゃんは普段から遅い。

 ちらりちらりと教室の黒板の上に取り付けられている時計に目をやる。

 そろそろのんちゃんがやって来る時間だ。

 俺の視線が教室のドアに向かう。

 ぱらぱらと入って来るクラスメートたち。

 そんな中、のんちゃんの姿を確認した俺は立ちあがった。


 勢い余って、俺の椅子が後ろの机に勢いよく当たって、鈍い金属音を立てた。

 横の席の玲奈が何事? と言う視線を向けたが、今は玲奈にかまっている余裕はない。


 早足でのんちゃんのところに向かう。

 近づいてくる俺を見つけて、のんちゃんがにこりと微笑んで、挨拶をした。


「おはよう」


 気にし過ぎだったのか?


「おはよう」


 挨拶を返した。

 のんちゃんは俺から視線を逸らして、自分の席に座った。

 机の上に置いた鞄から、教科書にノートを取り出して、机の中に入れて行く。

 気にし過ぎではなく、視線を逸らすなんて、やはりよそよそしい気がする。


「のんちゃん」


 のんちゃんの机の横に立って、声をかけた。


「何?」


 のんちゃんは俺に視線を合わさず、正面を見たまま言った。


「昨日の事だけど」

「もういいよ」

「いいわけないよ」

「何も分かっちゃいないくせに」


 のんちゃんは立ち上がって、そう言うと同時に、俺を押しのけて、教室を飛び出して行った。


「待てよ」


 俺ものんちゃんの後を追って、教室を飛び出した。

 教室に向かう生徒たちの流れに逆らい、その間を縫ってのんちゃんを追う。

 のんちゃんは男子禁制の領域、女子トイレに駆け込んだ。


 入る事はもちろん、その前で「のんちゃん」と呼びかける事すらできない。

 いや、この前で立って、のんちゃんが出てくるのを待っていても、変態扱いされる可能性がある。


 少し離れた場所をふらふらと歩いてみたが、のんちゃんが出てくる気配もない。

 そうこうしている内に、予鈴のチャイムがなった。

 のんちゃんを気にしつつも、教室に戻るしかない。

 足早に教室に戻り、自分の席についた。


 いつのんちゃんは戻って来るのか、戻って来ないとか言うことはないよな。

 そんな思いで座っていると、廊下から近づいてくる足音を感じた。

 ゆっくりとした足音。それともう一つ、駈足気味。


「早く教室に入れ」


 廊下から聞こえてきたのは担任の声。


「すみません」


 のんちゃんの声。

 教室のドアを開けて、のんちゃんが戻ってきた。

 教室の中の誰にも目を向けることなく、自分の席を目指して行く。

 すぐ続いて入ってきたのは担任の先生。


 とりあえず、のんちゃんは教室に戻ってきた。そこは少しほっとしたが、問題は解決していなかった。



 1時間目の授業が終わり、先生が教室のドアを目指して行く。

 そのペースより早く俺はのんちゃんの席を目指して行った。

 机に座って、教科書とノートを片づけようとしているのんちゃんの右手を掴んだ。

 びくっとした表情で、俺を見た。


「来て。話がある」


 視線を逸らすのんちゃんの腕を掴んで、引っ張り上げた。

 俺に顔をそむけながら、椅子から立ち上ったのんちゃんを、俺は引っ張って、教室から連れ出した。

 何事だ? そんなクラスメートたちの視線を浴びながら。


 廊下の突き当たりに屋外の非常階段に通じるドアがある。

 普段から施錠されていて、外に出る者はいない。

 だが、施錠は内側からであって、鍵を開けさえすれば、外へ出る事ができる。

 すたすたとのんちゃんの腕を持って、半ば引きずるようにして、そのドアに向かった。


 丸いドアノブの中央に鍵がある。それを持って回すと、カチャリと言う音と共に鍵が開いた。

 ドアのノブを持って、ドアを開ける。

 畳半分ほどの階段の踊り場と、そこを囲う鉄製の柵。

 風雨にさらされ続けて、所々に錆が浮かんでいる。


 のんちゃんを踊り場まで連れ出すと、ドアを閉じた。

 周りを囲うものはない解放された空間だが、人目はない。


 のんちゃんは、まだ俺から目をそむけている。


「のんちゃん。昨日の事を怒っているんだろ?」

「怒ってなんかいないよ」

「嘘だ。それなら、俺の目を見て言えよ。

 俺だって、のんちゃんに誤解されるような事をして、悪かったと思ってるんだから」


 目を逸らしていたのんちゃんが、俺を見た。その目元はキッとしていて、やはり怒っていると言う風に感じざるを得ない。


「誤解? 本当に誤解なの?」


 のんちゃんの言葉は意外なところを突いてきた。

 俺を見つめているのは、さっき俺が、俺の目を見て言えよと言った事への反応ではなさそうだ。

 本気で、俺に何かをぶつけようとしている。そんな感じだ。

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