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涙を浮かべたのんちゃん

 のんちゃんと一緒の下校。

 気まずい雰囲気。

 それを気にしていたが、のんちゃんはいつもののんちゃんだった。

 いや、いつも以上に、けらけらと笑い、ハイテンション気味と言うのが正しそうだ。


「でね。私はメールを送った訳。そしたらさぁ」


 どうも、やきもちを焼いた時だけ、かっとなるのかも知れない。まあ、やきもちをやかれるのは悪い気はしないが。



 駅に来た。

 のんちゃんの家は石橋と同じで、俺の家とは逆方向。

 家まで送って行くか、どうかはここで決めなければならない。


 改札を通ると、その先で電車のホームは左右に分かれていて、左側なら俺の家。右側ならのんちゃんの家。


 今日、あんな事があったばかりだけに、ここは送って行くべき。そう思わずにいられない。

 右側のホームに向かおうとする俺の胸の辺りをのんちゃんが両手で押して、押しとどめた。


「今日はいい。一人で帰る。

 ありがとう」


 俯き加減にのんちゃんは言ったかと思うと、突然走って階段を駆け下りて、ホームを目指して行った。


 一瞬の出来事。

 俺の思考回路の反応が遅れている。


 さっきまでにこやかだったのんちゃんの表情は限りなく曇っていた。

 追いかけなきゃ。


 慌てて俺はのんちゃんが降りて行った階段を駆け下りた。

 階段の踊り場まで駆け下りた時、ホームには発車のベルが鳴り響いていて、のんちゃんが乗るであろう電車のドアはいつ閉まるか分からない。


 まずはどのドアでもいい。飛び乗ろう。

 そう思う俺の進路を降りて改札を目指す人たちが邪魔する。

 俺がホームに駆け下りた時、無情にも電車のドアは閉まった。


 一番近いドアに目を向けた。

 ドアのガラスのところに、俺を見つけて少し目を見開いたのんちゃんがいた。


 動き始めた電車。

 はっきりとは分からなかったが、その瞳には涙が浮かんでいたような気がしてならない。


 「くそっ」


 行き場の無い怒りをぶつけようと、悪態をついて右足で思いっきり地面を踏みつけた。

 のんちゃんにメールを送ったが、返事が来ない。

 次の電車に乗って、俺はのんちゃんの家まで向かって行った。


 駅からのんちゃんの家まで、俺は駆けた。

 駅から散らばり、自分の居場所へ戻ろうとする人たちの後姿を何度も縫うようにして、追い抜いて行く。

 やがて、俺の前にはほとんど人はいなくなった。

 途中で息が切れ気味になったが、走る事を止めなかった。

 少しでも早くのんちゃんに会うべきだ。そう思わずにいられなかったからだ。


 のんちゃんの家にたどり着いた。

 二階ののんちゃんの部屋に目を向けた。


 レースのカーテンが引かれていて、照明もついていなさそうだ。

 だが、さっきの電車に乗って、まっすぐ帰っていたなら、もう家に着いているのは確かだ。


 携帯を取り出すと、再びメールを送った。


「のんちゃん。

 俺、今、のんちゃんの家の前だ。会って話がしたい」


 返事はない。

 のんちゃんの部屋の様子も変化は無い。


「のんちゃん!」


 周りに人がいないのを確認して、少し大きめの声で呼びかけてみたが、何の反応もない。

 同じ場所に立ち止まって、ずっと立っているとまるっきりの不審者だ。


 俺はあたりをうろうろとさ迷いながら、何度かのんちゃんの部屋を確認したが、全く変化は無かった。

 1時間近くあたりをさまよったが、俺には諦めて帰る以外の選択肢は無くなってしまっていた。

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