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一触即発の玲奈とのんちゃん

 授業の終わりのチャイムが鳴った。


「起立」


 号令と共に、クラスのみんなが立ち上がる。

 玲奈は俺の教科書を俺の机に押し戻すと、小さな声でお礼を言ってから立ち上がった。


「ありがとう」


 教科書を忘れたのは中里であって、玲奈ではない。

 ちょっと変な感じを抱かずにいられない。


「ああ」


 それだけ言って、俺も立ち上がる。

 玲奈は立ち上がると、自分の机を本来の位置に戻した。


「礼」

「ありがとうございましたぁ」


 一度下げた頭を上げた瞬間、みんなの表情は一気に緩む。

 俺も緩めた表情で、椅子に座りかけた時、怒った表情で向かってくるのんちゃんの姿が目に入った。


「ちょっと、江崎さん。

 あまり私のまーくんと引っ付かないでくれる?」


 またちょっと攻撃的なのんちゃんが姿を現した。

 その怒りの矛先は俺ではなく、まずは玲奈だった。


「別に引っ付いてなんかいないよ」


 玲奈の表情ものんちゃんに負けていないくらい、怒っている。

 まあ、気のきついところがある玲奈である。

 のんちゃんにそんな事を言われて、すごすごと引っ込む訳もない。


「引っ付いてたじゃない。私見てたんだからね。

 それに、先生にだって、いちゃいちゃするなって言われたでしょ」

「なんで私がこんなまーくんなんかといちゃいちゃしないといけない訳?」


 こんなまーくん。

 玲奈のその言葉はちょっと俺の胸に突き刺さった。

 やっぱ、玲奈はもう俺の事なんか興味が無いんだ。そう思わずにいられない。


「こんなまーくん。私のまーくんに何言ってくれてんのよ。

 だいたい、そんな風に思ってなんかいないくせに」


 のんちゃんの言葉に、玲奈の表情が一瞬どきっとしたように見えた気がした。


「おいおい。二人とも、落ち着けよ」


 一色即発の雰囲気に、俺が仲裁に入った。が、その瞬間、二人の矛先が俺に変わった。


「だいたい、まーくんが私に話しかけてきたから、こんな事になってるんでしょ!」


 玲奈の言い分はある意味、もっともだ。


「どうして、江崎さんとひそひそ話をするのよ」


 のんちゃんの言い分もある意味、もっともだ。


「いや、それはだなあ」


 同時に二人に弁解はできない。あたふたと視線を二人の間を行ったり来たりさせながら、取り繕う言葉を探す。


「はい、はい。ごめんなさいよ」


 そう言って、三人の中にやって来たのは中里だった。

 手には玲奈の教科書。


「ありがとうね。玲奈」


 玲奈の机の上に、手にしていた教科書を置いた。


「ちょっと、中里さん。だいたい、これはどう言う事よ?」


 のんちゃんの矛先が中里に移った。


「何が? 私が教科書を忘れたから、玲奈から借りたんだけど。

 それが何か?」

「そんな事、分かってるわよ。

 どうして、中里さんが江崎さんから教科書を借りる必要があるのよ。

 自分の隣の席の子に見せてもらえばいいでしょ」

「秋本が玲奈と話したそうにしてたから、きっかけを作ってあげただけよ」


 げっ! としか言いようがない。

 全くの当たりではないが、外れと言う訳でもない。


「それが余計な事だって言うのよ」


 のんちゃんが中里を睨み付けた。

 この二人のバトルになってしまう? そう思った時、玲奈が思いっきり立ち上がった。

 玲奈が座っていた椅子が、後ろの机に思いっきり当たった。

 後ろの席のクラスメートの机が揺れ、机の上に置いていた教科書が落ちそうになったが、その子が素早く手で止めた。

 そんなハプニングがあったなんて、俺以外の三人は気づいてさえいなさそうだ。


「そんな訳ある訳ないでしょ」


 立ち上がった玲奈が中里に反論した。

 なんだか、顔が少し赤い気がする。それくらい怒っていると言う事か?


「そうかなぁ。私はそう感じてるんだけどなぁ」

「ちょ、ちょっと、未生。何言っているのよ。まーくんがそんな事思っている訳ないよ。

 だって、まーくんには藤田さんがいる訳じゃん。私と何を話すって言うの」

「そうだね。秋本には、あの小嶋さんもいたもんね。

 玲奈と話している暇なんか無いか」


 それだけ言い残して、中里は自分の席に戻って行った。

 全く、とんでもない爆弾を置いて行きやがった。

 中里は玲奈と俺を引っ付けようとしていたんじゃなくて、単に俺に意地悪をしていただけなのか?


「小嶋さんなんか、関係ない」


 そう言ったのんちゃんの言葉の意味はよく分からない。

 小嶋さんとならいいのか?


「もう、まーくんって言うのも止めてくれる」


 のんちゃんは玲奈を睨み付けて言った。


「なんで、あなたにそんな事言われなきゃなんないのよ。

 秋本とは幼馴染で、ずっと仲がよかったんだから。

 だいたい、まーくんって言うのは私が使ってた呼び方よ。

 あなたこそ止めて欲しいわよ」


 玲奈はのんちゃんが俺の事を「まーくん」と呼ぶことが気に入らなかったのか?

 もしかして、やっぱ玲奈は俺にある程度の想いを抱いてくれている?

 それとも、ただの売り言葉に買い言葉なのか?

 ちょっと呆然とした表情で、玲奈の横顔を見つめてしまった。


「落ち着け、藤田」


 石橋がやって来てくれた。何とかしてくれよ。お前の従兄妹だろ。

 懇願するような目つきで、石橋を見た。


「だって」

「今のは言い過ぎだと思うぞ」


 のんちゃんは何も言わず、自分の席に戻って行った。


「ちゃんと、ご機嫌とっておけよ」


 石橋が呆れ顔でそう言って、俺に背を向けた。


 教室の中の反応は様々だ。

 あまりの痴話げんか風の出来事に、呆れ顔のクラスメートたち、もめごとが収まってしまった事にがっくし顔のクラスメートたち。


 横の玲奈はと言うと、きつい表情を浮かべたままだ。

 とにかくだ。この場は収まった。

 この後をどうするかだが、何だか今日はのんちゃんと帰りづらい気分になってしまった。

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