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反攻してくる玲奈への想い

 昼休憩がそろそろ終わろうとする頃、俺はすでに机に座って、次の授業の教科書とノートを出していた。

 とは言っても、教科書を開いて予習や復習をしている訳じゃない。

 ただ単に始業のチャイムが鳴るのを待っているだけだ。


 俺の視線はのんちゃんに頻繁に向かう。

 俺の席からは斜め後ろの姿ののんちゃん。


 あの日、何も無いまま、俺はのんちゃんの家を後にした。

 その時、俺は小嶋さんと一緒には絶対に帰らないと自ら約束した。

 のんちゃんは俺を信じて、部活のある日は部活に行くようになって、それまで通りの生活パターンに二人は戻っていた。


 のんちゃんと俺との間を遮る者が現れた。

 教室の前から、後ろに移動してきている。

 顔を見た瞬間、ちょっと嫌な予感がした。中里だ。


 こんなタイミングで何をしに来る。

 もちろん、俺のところではなく、玲奈のところではあるだろうが、こいつの不用意な発言、いや、悪意のある発言で俺はこれまでに厄介な事になっている。


「玲奈。次の授業の教科書、忘れちゃった。貸して」


 そう言って、玲奈の机の上から、玲奈の教科書を取り上げた。

 それは変じゃね?

 クラスの違う友達から借りるもんだろ?

 同じクラスの友達から借りたら、その友達が困るじゃないか。

 どう言う事だ? そんな思いで、俺は中里に視線を向けた。


「えっ? 待ってよ。それじゃあ、私は? 私はどうするのよ?」


 そうだ。

 そのとおりだ。いじめか? これはいじめなのか?


 そう思った時、始業のチャイムが耳に聞こえてきた。

 先生が教室にもうすぐやって来るはず。

 みんな自分の席に座って、中里と玲奈のやり取りに注目している。


「そんなの心配することないじゃん。

 隣の人に見せてもらえばいいでしょ」


 そう。そのとおりだ。

 中里、お前が隣の人に見せてもらえばいいだけじゃないか。

 それなのに、これはどう言う事だ?

 そう思っている俺に、中里が目を向けて、指さしてきた。


「まーくんに、見せてもらえばいいじゃん」

「ど、ど、どうして、そうなるのよ」


 戸惑い気味の玲奈。

 そりゃあ、そうだ。

 俺も援護しよう。そう思った時だった。


「まーくん。玲奈をよろしくね」


 そう言って、中里は玲奈の教科書を持ったまま、すたすたと自分の席に戻り始めた。


「待てよ」


 そう言って立ち上がった俺の目に、教室の前のドアから入って来る先生の姿が映った。

 もう中里から、玲奈の教科書を取り戻す手はない。


 諦めの表情で、俺は椅子に座って、玲奈に目を向けた。

 玲奈は疲れたような表情だ。


 結局、俺は玲奈に教科書を見せるため、机を寄せ合って、授業を受ける事になった。

 


 寄せ合った玲奈の机と俺の机の中間で開けられた教科書。

 はっきり言って、勉強好きじゃないが、目線をかなりの頻度で教科書に向ける。

 そうすれば、視界の片隅に玲奈が映るからだ。


 俺は玲奈を観察している。

 玲奈の体の育ち具合じゃない。玲奈のご機嫌をだ。


 玲奈は先生が話を始めた時だけ教科書に目を向けるが、それ以外の時は正面か自分のノートだけに目を向け、俺の事には興味なさげな雰囲気だ。

 まあ、冷たい雰囲気が玲奈の特徴ではあるが。


「何見てるのよ?」


 見ている俺に気付いて、玲奈が小声で言った。


「いや」


 そう言って、正面に向き直った。

 俺としては玲奈への想いは胸の奥に押し込めた。そして、その想いを蓋しているのんちゃんへの想いは熱さを帯びて大きくなり、玲奈への想いをどんどん小さくしてはいっている。

 が、玲奈は教室で近くにいる分、時折心の奥を騒がせて、反攻に出てくる。


 今もそんな感じだ。

 ただの授業中。のんちゃんのように触れ合っている訳でもないばかりか、話すらしていないと言うのに。

 俺としてはまだ完全に玲奈への想いを断ち切れていないと言う証拠だ。

 その原因は心の奥に引っかかっている玲奈に手渡したタイムカプセルの中にあった手紙だ。

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