天使との下校
次の日、学校でのんちゃんは、いつもののんちゃんだった。
のんちゃんは、今日は部活にちゃんと行くと言うので、俺は一人で帰宅。
今日も俺んちに行くって言ってくれないかと、ちょっと期待をしていたが、それは無かった。
ちょっと、残念ではあるが、まあ焦るのもみっともない。
俺は鞄を持って、校門を目指す。
俺の前を歩いているのは玲奈と中里だ。
玲奈の事が好きだと言う気持ちが無くなったと言う事はないはずだが、のんちゃんとの出来事のインパクトが大き過ぎて、玲奈への想いは完全に心の奥底に押し込められている。
それだけに、近づいて行く玲奈の後姿に、一瞬、心に乱れが起きた気がしたが、すぐにおさまって、今は何も感じていない。
そんな気分で、玲奈たちに近づいて行く。
それは他の生徒たちと同列であって、特別なものではない。
そのまま、横を通り過ぎてお終い。そう言う事だ。
二人の横に並んだ瞬間、足をさらに速めて、追い抜く。
「あ、秋本」
中里に呼び止められてしまった。
「何?」
無視する訳にはいかない。
とりあえず、素っ気ない返事で、バリアを張り巡らせてみる。
「今日はカノジョと一緒じゃないんだ」
「のんちゃんは部活だからな」
「ふーん。じゃあさ、玲奈と帰ったら?」
「どうして、そうなるのよ」
玲奈は怒り気味の口調で、そう言ったかと思うと、中里まで置いて、一人すたすたと歩き始めた。
「ごめん、ごめんね」
中里が玲奈を追い始めた。
全く。
俺は肩をすくめてから、歩き始めた。
もう、あの二人は抜かない。そのつもりで、ゆっくりと歩いて、校門を抜けた。
視界の片隅に、校門の壁にもたれかけている女生徒が映った。
その女生徒の表情に変化を感じて、視線を向けた。
小嶋さんだ。
にこりとして、俺を見つめていた。
誰かを待っているのか?
そう思った瞬間、小嶋さんが俺のところに向かって来た。
「ねぇ、秋本くん。一緒に帰らない。
メール送ったのに、返事くれないし」
俺を待っていたのか? のんちゃんがいなくてよかった。
いや、のんちゃんがいたら、小嶋さんも俺に話しかけて来なかったかもしれない。
突然の出来事に、俺は立ち止まった。
小嶋さんの向こうに立ち止まって、俺たちの方を振り返っている玲奈と中里の姿があった。
玲奈はすぐに知らんぷりをして、歩き始めた。
中里は少しにんまりとして、俺たちを見たままだ。
「あ、う、うん。いいけど。
メールはごめん、気付いてないや。俺、学校では滅多に携帯見ないし」
中里の視線が気になってはいたが、そう答えた。
「そうなんだ。
でも、一緒に帰れてうれしい」
小嶋さんはそう言うと、俺の横に並んで、腕を組んだ。
少し先の中里はその一部始終を確認すると、ふーんと頷くような素振りをしてから、玲奈を追いかけはじめた。
何か嫌な予感がする。
玲奈に言って、振り返らせる気なんじゃないだろうな。
「行こう」
そんな俺の気も知らず、小嶋さんはにこやかに、俺にそう言った。
歩き始めた小嶋さんに引きずられるかのように、足を踏み出して、歩き始めた俺。
待て、待て。友達が腕組むか?
「ねぇ、小嶋さん。
友達だったよね?」
腕組むの変じゃね? とか、腕組むの止めてくんない? とは言いづらくて、遠回しに言ってみた。
俺の言葉に、小嶋さんは少し悲しげな表情で、俺を見た。
「私とじゃ、嫌?」
「いや。嫌とかそう言うんじゃないけど」
俺はまた遠回しにしか言えなかった。
「じゃあ、いいでしょ。ねっ?」
少し首を傾げた。俺の肩から腕にかけて、触れる小嶋さんの髪。
俺の鼻をくすぐる甘い香り。
もう、俺は断れない。
頷いてしまった。
「ねっ。折角だから、どこか寄り道していかない?」
「うーん」
俺としては悩ましいところだ。
のんちゃんがいる俺としては、それはまずい。
だが、小嶋さんの誘いを断る勇気もない。
きっと、この勇気の無さは小嶋さんがきれいなのが原因の一つだと、俺は思う。
こんな事を言うと、世の女性陣から非難の嵐だろうが、小嶋さんが俺の好みから完全に外れていたら、躊躇なく、断ったはすだ。
相手の気持ちもほとんど考慮せず。
「あそこのお店、お茶にケーキ、美味しいんだよ」
返事を迷っている俺を強引に誘って、道路沿いのカフェに連れて行き始めた。
そのまま、俺は小嶋さんのなすがまま、お茶のひと時を過ごした。




