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青と紅

作者: 葡萄鼠
掲載日:2013/09/09

 なぜその選択をしたのか、答えは明確である。

 それが一番楽だったから。ただ、それだけ。

 そう、ただそれだけの想いだった。


 *


 紅葉が舞う。空を覆う。

 青い空に、その極彩色が艶やかに映る。


 一人、人が行きかう紅葉並木を歩く。

 鮮やかな色が散っては欠片となり、赤絨毯と同化する。その美しさに目を奪われるのもほんのひととき。すぐに他と同じになってしまう。人と同じように。

 自然の中を、まるで世界が自分一人きりになったかのような錯覚に陥りながら歩き続ける。――すると、いつのまにか並木から外れ山の奥に入っていた。人の声は聞こえる。まだそう遠くには行っていない。ならば、と、声が聞こえるか、聞こえないかというところまで歩き続けた。

 すると、突然目の前が開け、周りと眼下には紅葉が生い茂り。目の前はその美しい極彩色と、青い空が広がっていた。視界に映るのは、自然ばかり。艶やかな色合いと寒さを感じる青さだけ。思わず魅入ってしまうものが、そこにはあった。


 突然、頬を一筋の雫が伝う。

 涙を流す理由などどこにもないはずなのに、勝手に涙が零れ落ちる……。


 急に、ここに来るまでの経緯が脳裏に呼び起こされた。



 仲の良い五人組。そのメンバーのうちの二人が付き合い始めたのだと、そう本人らから告げられたのだ。もちろんただの知り合いでもない、仲の良い仲間のめでたい出来事に私は祝福した。みなで二人を祝い、冷やかしもありつつ、それでも祝福ムードで過ごしていた。私はみなと別れた後、何故なのか急にこの場所に来たくなったのだ。この、場所に。


 ――そう。ただ、それだけの想いのはずだったのに。


 なぜ、涙が出るのか。それは、私自身が見てみぬふりをしていたモノの所為。

 それは種でも、芽でも、蕾でもなかった。それは、すでに花開いていたのだ。


 隠そうとしてきた想い。今日告げられた報せ。付き合い始めたという相手に、私は仄かな恋心を抱いていたのだ。けれど、仲間の一人もその人のことが好きだと知り、私は諦めるという道を選んだのだ。まだ生まれたばかりの想いは、摘み取ってもなんら不都合はない。摘み取る時に多少の痛みを感じるだけで、長く引き摺るようなことはない。それよりも、大切な仲間の気持ちを応援しようと。諦めがつく程度の想いだった。自分の気持ちを大きくし、仲間内で嫌な空気になるよりそのほうが楽だと思ったからだ。

 だからこそ、二人が付き合い始めたという報告を受けたとき。私も祝福したのだ。


 でも、なぜか無性に一人になりたかった。一人になりたくてきたのが、この場所。

 好いていた相手と、初めて二人きりになった場所。

 仲間と来たドライブで、私と二人だけ迷子になってしまったのだ。そのときに、この紅葉生い茂る場所に二人で偶々きたのだ。

 そう、わかっている。自分でも、自身がしたことを理解している。納得もしている。けれど……

「うっ……!」

 せりあがるものは、抑えきれない程溢れて止まらない。


 楽なんかじゃない。楽であれば、こんなにも苦しい思いなどする必要などどこにもない。無理やりに摘み取った想いは激しく私を苛む……いや、摘み取ったと思っていた。花になる前に、種も、根も摘み取り捨てたと。けれど、その種は捨てきられることなく私の心の片隅に存在し続けていた。そして私自身も知らないところでゆっくりと育み、花になっていたのだ。

 知らずに育ったソレは、大きく後戻りなどできないまでに育っていた。それを知らぬフリをしてここまできたのは私自身。突然、そのあまりにも大きな存在を突きつけられ。許容を越す痛みとなって私を襲った。

「――――っ!!!」

 声にならない悲鳴を上げて、私はその場に泣き崩れた。


 楽などではなかった。楽なんだと、そう信じたかっただけだった。それが一番楽で、傷つかない選択なのだと。それ以外に道はないのだと。そう誰よりも、私自身が信じていたかったのだ。


 手を伸ばせば触れられたかもしれない温もり、言葉をかければ返ってきたかもしれない優しさ。もう届くことはない、私が求めた居場所。


 どれも諦めたのは私自身。

 後悔しても、もう遅い。


 

 楽だと信じたかった道は、一番辛い道だった。



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