貴方がいないと無理なんです!
どうあっても一緒にいなければ耐え切れないと分った光と桜子は、お互いが一緒にいるためにどうすれば良いのかを考え始めた。
「いちゃいちゃしない、という選択肢は無し」
「無しだな」
真っ先にその要件を削ってから次に移る。
そもそもこう、デートをする時に変身するのが問題なのだ。
この変身さえなければ、全てが解決するのだ。すなわち、
「あのイカイ火星人を全滅させればいいわけね」
「一応戦闘服だし、全部倒せば暫く来ない可能性が高いよな。というかそもそもやつらが地球にきだしてからその影響でこの石が現れ始めたんだったか?」
「灰川女史の話だとそうね。つまり、奴らを全員滅ぼせばこの石は消えて私たちはお役目ごめんという事ね」
「そうすればさっちゃんとデートをし放題だな!」
「みっちゃん、夢みたい……」
「どうしてこんな簡単な事に気づかなかったんだろう、俺達」
「でも、こうやって一緒にいられる事が分ったから私はそれで良いわ」
「さっちゃん!」
「みっちゃん!」
ひしっと抱き合う二人。
二人は幸せそうに抱き合ってから次に、自分達のしているペンダントに目をやる。
白と黒の石。
それをぎゅっと握り締めて、お互いを見やり、
「そうとなればこれまで以上にいちゃいちゃしないといけないな」
「そうだね、みっちゃん! けどなんだか話していたら喉が渇いちゃったし、時間が時間だから喫茶店でケーキ食べよ」
「そうしようか。あ、良い所知っているんだ……」
晴れ晴れとした表情でその場を去る二人。
空を敷き詰めて薄暗い雲は途切れ途切れとなり、再び青い空を取り戻していたのだった。
それから桜子と光はこれまで以上にいちゃついた。
そのいちゃいちゃの力によって“恋愛ゲージ”が溜り、変身して次々とイカイ火星人を倒していく。
「わっはっは、私はイカイ火星人、天麩羅四天王が一人……」
「「能書きは良い! 喰らえ!」」
「ごぐぎくあああ」
独特の悲鳴を上げて倒されるイカイ火星人。
雑魚を倒し続けて幾星霜。
一週間も経たないうちに雑魚を打ち破った桜子と光は、気づけばよく分らない偉そうな奴らと戦っていた。
だがそんな強そうな敵も、二人の愛の前ではかなわなかった!。
「ぐほほほほ、私はイカイ火星人、うどん三銃士が一人……ごふっ」
「きけけけけ、私はイカイ火星人、蕎麦五人衆が一人……ごふっ」
「くここここ、私はイカイ火星人、おにぎりなんちゃらが一人……ごふっ」
途中から名づけるのが面倒になったというか、役職名を連発しているあたりに末期的な何かを感じるがそんな事は桜子と光にはどうでも良かった。
その全てを倒して、デートの時間を作るため、二人はがむしゃらに戦い、いちゃついていた。
そんなある日の研究所にて。
「みっくん、ああ、みっくんとくっついていると幸せ……」
「俺も、さっちゃんと一緒いるだけで幸せだよ……」
以前よりも明らかに恋愛度が進行したというか、頭が春になっている二人に灰川女史は嘆息する。
「……随分と見せ付けてくれるじゃない」
それにカッと目を見開いて光が言い返した。
「見せ付けてなんていません! 俺達はただ、全身でお互いに愛を示しているだけなのです!」
「そうよ、みっちゃんへの私の愛は、この程度で語り尽くせないし見せ付けられないわ!」
などと叫ぶカップル達に、灰川女史は疲れたように頭に手をやって、そこで、
「はい、ハニー、お疲れのようだから野菜ジュース」
「ありがとうダーリン。ねえ、ダーリンお願いがあるんだけれど……」
そこで灰川女史は、ぎゅっと夫の白衣を握って、
「私もダーリンとあの子達みたいにいちゃいちゃしたい」
「……すまない。僕ももう若くないんだ。だからその、外じゃなくて……」
「仕方がないな。今日のお夕食は奮発しちゃう!」
「本当か! じゃあ、揚げ出し豆腐!」
「いつも思うのだけれど安上がりね。でもそんな所も好き」
「だってハニーの食事は美味しいから仕方がないだろう」
「そんな事を言って、もう……」
そういちゃいちゃする灰川女史にそこで桜子が、
「そういえば結婚したから名字が変わるんですよね?」
「ああ、灰川女史は勝手にそう呼ばせているだけだから、本当の名前は違うのよ」
「「知りませんよ!」」
声を揃えて言う桜子と光に灰川女史はにやりと悪い笑みを浮かべて、
「言ってないもん。そういうわけだから」
こうして、灰川女史の謎がまた一つ増えたのだった。
そして、光と桜子にもとうとう最終決戦の時がやってきた。
相変わらず今までの雑魚やらその他やら、と同じ形をした変わり映えないイカイ火星人。
さて、またいつもの作業のごとく倒していちゃいちゃするかと立ち上がった桜子と光だが、そのイカイ火星人は、
「ま、待て、私の話を聞け。それだけの力を持って何故、貴奴らの味方をする! その力さえあれば世界征服すらも可能だというのに!」
「そうなんですかー」
「く、気の抜けた声で返事をしおって、まあいい。それだけの力があれば、この地球所か我等が母星である火星ですらも容易に手に入れられる!」
「そうなんですかー」
「全ての力をその手中に収めたいと思わぬのか!」
「そうなんですかー」
交互に気の抜けたように、そうなんですかーと答える桜子と光。だが、ここである爆弾をそのイカイ火星人が投入した。
「色んな好みの女の子を幾らでも囲えますよ」
「え!」
「みっちゃん、その嬉しそうな声は何? 私じゃ満足できないの?」
つい反応してしまった光ことカップルヒーロー・ホワイトに、桜子ことカップルヒーロー・ブラックが怒ったようにいう。
そんなカップルヒーロー・ブラックにイカイ火星人は意識を向けて、
「イケメン達にちやほやしてもらえるぞ!」
「え!」
「さっちゃん、何でそんな嬉しそうな声を出すんだ、俺というものがありながら……」
つい反応してしまった桜子ことカップルヒーロー・ブラックに、光ことカップルヒーロー・ホワイトが怒ったようにいう。
だがそうなる事も既にこのイカイ火星人には計算済みだった。
すでにこの二人のいちゃいちゃする愛の力が、彼らの力の源だと分っていたからだ。
そこでこうやってお互いの不信感をあおり……。
「でも、さっちゃんがいないと俺、生きていけない!」
不信感をあおり……。
「私も、みっちゃんなしじゃ生きれない!」
気がつけば元の鞘に戻っていた。
何だこの展開と、イカイ火星人は思っていると、そこでくるりと二人がイカイ火星人の方を見て、
「俺達の仲を引き裂こうとしやがって……」
「確かに良い方法よね。私達の力を削げるのですものね、でも、残念」
「ああ、俺達の愛はそんなもので破れたりはしない、いくぞ!」
そう駆け出す二人に、イカイ火星人はまだ何か言う事が出来ないかと考えたが……思いつかなかった。
そして二人の蹴りに当り、そのイカイ火星人の親玉が倒され、地球の平和は守られたのだった。
そして桜子と光はこれによって心おぎなくデートが出来るはずだったのだが。
「はっはっはー、イカイ火星人を倒した程度でいい気になるなよ! この私こそは、木星に住むキノコ木星人で……ぐふっ」
現れたと同時に倒されたきのこの怪物。
それを見ながら変身を解いた光は叫んだ。
「何でこんなのがいるんですか! 火星人で終わりじゃないんですか!」
「なんか、地球程度の低レベルな文明に負けるとか火星、馬鹿じゃねーの、という事で今度は木星からいらっしゃいました」
灰川女史が説明すると、桜子も怒ったように、
「この宇宙人共めが……でも私負けない。だってこれも、みっちゃんと一緒の共同作業だもん!」
「さっちゃん!」
「みっちゃん!」
お互いを抱きしめあう光景はいつもの事。
その光景にとうとう慣れた灰川女史は、無視して資料を読み始める。
どうやらこの二人のヒーローとしての能力が最近高くなっているらしい。
「まあいいんじゃない、地球の平和のためだし」
呟く灰川女史の視線の先には、いちゃいちゃするカップルがいた。
だがこの二人の愛が地球の平和を守っているのだ。
そう考えて灰川女史は、何も考えたくないやと投げやりな気持ちで、次の仕事に手をつけ始めたのだった。
この物語は、カップルヒーローがバカップルヒーローに進化する前の物語である。
そして、やがてこの二人が、宇宙に愛を振りまく存在へと進化し、新たな時代へと突入する事となる。
[終わり]
読んで頂きありがとうございました。某新人賞に応募して、一次通過できなかった作品ですが、読んで楽しんで頂ければ幸いです。また見かけましたらよろしくお願いします<(_ _*)>