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イチャイチャしたくて

 ここで事の次第を話そう。

 そもそも月影桜子と雪野光は、高校に入るまでお互いの存在を知らなかった。

 そんな二人は桜の舞う入学式に、その高校で有名な桜の木の下でばったりと出会った。

 そして見つめ合う事数秒、

「「好きです!」」

 なんとお互い一目惚れをしてしまったのだ!。

 という、うらやまけしからん経緯により二人は付き合い始めたのだが、その頃、地球は大いなる危機に瀕していた。

 火星に住まう、イカの形をした戦闘服をまとうイカイ火星人の攻撃を受け、けれど地球側もただでやられるつもりはなかった。

 やってくるイカイ火星人を、具体的な説明は長いので端折るが、時間の流れが地球よりもゆっくりである異空間に誘導して、戦闘準備の整った場所に転送して迎え撃つ事になった。

 とはいえ、彼らの弱点が見つからず苦戦の一途を地球側は辿っていたわけだが……。

 何しろここでは書いてはいけないような、各国最新鋭のあーんな兵器やこーんな兵器が使われたが、歯が立たなかったのである。

 そんなある時、彼女が捕らえられた兵士の一人が、彼女を帰せー! と叫んだ瞬間、たまたま持っていた新種の鉱物“ヘンシンダイシ・ホワイト”が白く輝き、その兵士は白いマネキンのようなものに変化した。

 そしてその姿のまま、イカイ火星人に蹴りを入れた所倒してしまったのだ!。

 しかもそのイカイ火星人が砂へと変化して、その砂は地球上では手に入らない貴重な鉱物だった。

 こうして、偶然対抗手段を手に入れた地球側が更に調べた所、この新種の鉱物“ヘンシンダイシ・ホワイト”に、ある力が加わ――正確にはある一定以上の力が加わる事によって発動することが分ったのだ!。

 それは、恋人同士の“愛”の力!。

 間違っても性欲などではない。

 ちなみに性欲で発動するのかをえっちな本で試してみたものの、まったく発動しなかった。

 そういった様々な試みにより分った事は、彼氏彼女のいちゃいちゃによって、「恋愛ゲージ」――現在はその名称が一般的となっているそれが溜まり、そのエネルギーを持って変身が行われ強い力が発揮されるとの事だった。

 その変身により服が消えてしまうが、それは全身タイツなマネキン姿になる過程で異空間に服が収納されるためであり、そしてこの人本来の“裸”に近い姿になるのは、その力の元が恋愛によるためだと解釈されている。

 つまり生まれたままの姿がごにょごにょである。

 さて、調べて行くうちに、新種の鉱物“ヘンシンダイシ・ブラック”がある事が判明し、そしてそれらの石には適正がある事が分ってきた。

 その適性を調べる方法も確立し、そしてそれらの特殊な石に更に色々な付加的な装置をつけ、結果として「恋愛ゲージ」が蓄積され、そのエネルギーの一部を異界に放り込んだ、イカイ火星人の召喚に使う事とした。

 なので変身と同時に周囲がそのゆっくりとした時間の流れである異界と一定の範囲が接続して、その間に市民の避難が出来るという寸法である。

 そして、話を戻すが、月影桜子と雪野光は適正があったのでこういう状態になってしまったわけだが。

「いい加減にして下さい! これじゃあ、まともにデートも出来ないじゃないですか」

「そうよ、みっちゃんの言うとおり! どうしてくれるんですか!」

 桜子と光が怒ったように、灰川女史に言う。

 ここは国の怪しげな研究所という、漫画か何かの設定としか思えない場所である。

 怪しげな機械やらパソコンやらが並ぶ薄暗い……所か日の光の入る、この機械さえなければ普通のオフィスか何かのような場所だった。

 そしてここにいる灰川女史――彼女がそう呼ぶよう強要している――存在自体が怪しい人物だった。

 彼女に関しては、まず結婚適齢期の女性であることは間違いない。

 だが真っ赤なスリットの入った赤いスーツに、同色の高いハイヒールに、黒い柄の付いたストッキングをはいている。

 そしてその上にふさぁと、羽織るように白衣を着ている、眼鏡をした短い黒髪の女性だった。

 そんな彼女は、ふんとその二人を鼻で笑ってから、

「世界のためなんだから我慢しなさい」

「そんな! 私達が犠牲になれと!」

 怒ったように言い返す桜子に、灰川女史は目をとろんとさせて、

「桜子さん、あなた、高校でも所かまわずいちゃいちゃしているのに、それでもまだ足りないの?」

「当たり前です。だって、私、みっちゃんと少しでも長く傍にいたいんだもん!」

 桜子は叫ぶように答えて、傍にいた光に抱きつく。

 それに光も桜子を抱きしめる。

 抱き合う二人の周りからは、赤いハートマークがその身から大量に飛び出しているようだった。

 ホワンと室内が微妙な熱気に満たされて、それを頭が痛くなったように灰川女史は見て、

「あのね……そうやっていちゃいちゃするから、“恋愛ゲージ”が簡単に溜まって変身しちゃうの、分る?」

「じゃあどうすればいいんですか! 俺はさっちゃんが傍にいたのにいちゃいちゃしないでいるなんて、そんな事していたら……僕の心はいてつく風に吹かれて凍り付いて、たとえ春になろうとも解ける事のない永久凍土の氷になってしまうでしょう!」

「いや……まあ随分と詩的な表現ね、光さん。でもね、もう少し抑えるだけで色々違うから!」

「何がですか! この前なんてさっちゃんにキスをしようとした瞬間に、変身したんですよ!」

「良いわねー、青春は」

 どうでも良くなりかけている灰川女史に、そこで桜子は、

「一体何の恨みがあって私達にこんな……は! まさか灰川女史は、私達に羨望を抱いていて、私達の仲を引き裂こうと画策して……」

「何だって! そんな事を画策していたのか! 灰川女史!」

「あんた達……いや、もう何も言うまい。はあぁ、自業自得だからもう知らないわ。検査も終わったしさっさとデートでも何でもして頂戴、煩いから」

 そんなどうでも良いといった灰川女史の様子が、更に桜子と光の反感を買うのだが、灰川女史としては、このお互いの事しか見えてないカップルなんぞどうでも良くなっていた。

 そこで、コンコンと部屋のドアが叩かれて、一人の男が現れた。

「紫さん、これ資料……」

「徹君、ありがとうぅ、大好き、マイ・ダーリン」

 どちらかといえば美形な部類の白衣を着た男に、可愛らしい甘えた声で灰川女史が抱きついた。

 どうやら灰川女史の名前は、紫というらしい。

 そしてダーリンと言われた男は、それにまんざらでもなさそうに顔を赤くして微笑みながら、そこではたと正気に戻ったのか、その白衣の男は困ったように、

「え、あ、駄目だよ今は仕事中だから」

「やーん、せっかく会えたのに離れたくない……」

「これからは、いつも一緒にいられるんだからいいだろう? 紫」

「そうだけど……少しでも長く一緒にいたいって思うのは、駄目?」

「僕も仕事中だから。でも、愛してるよ、マイ・ハニー」

 そう言われてしおらしくなる灰川女史。

 そして何か書類を貰って、ほうっと幸せそうな溜息をついて彼女は振り返り……そこで、桜子と光が、今にも口から砂糖を吐き出しそうになっているくらい、うわー、という表情で灰川女史を見ているのを目にする。

 それを半眼で灰川女史は見やりながら、

「何よ、文句でもあるの?」

「自分はあれだけいちゃいちゃしているくせに、私達の気持ちが分らないのですか!」

「……だーかーら、貴方達の場合はいちゃいちゃし過ぎだって言っているでしょう! そこまで私は責任取れません! ほら、デートでも何でもなさい!」

 そう灰川女史は、桜子と光の二人を捕まえて、部屋の外に放り出して鍵をかけてしまったのだった。


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