11 「虹の天使ザフィエル」
さまざまな力を持つ天使の中に、ザフィエルという「にわか雨」を司る天使がいました。
人間には雑草の群れにしか見えないビルの狭間の空き地にも、ザフィエルは雨を降らせます。
この季節、春は目立たない小さな花々を咲かせる草花にとって、ザフィエルはありがたい存在でした。
「おはよう、ザフィエルさん。今日もちょうどよいにわか雨をありがとう」
タンポポが風に揺れながらザフィエルに礼を言いました。
「ありがとう」
「ありがとうございます」
ほかの草花も口々にそよそよと礼を言います。
「あなたたちだって、誰にもほめられるわけじゃないのに、きれいな神さまのお花を咲かせているのだから、立派だよ」
ザフィエルは微笑んで草花たちをほめます。
ビルの空き地は、一際華やいで見えました。
「私たち『小さな花を咲かせる者』は、人に嫌われることもあるけれど、神さまの御手による花園を任されているのですから、光栄です」
タンポポは誇らしげに言いました。
にわか雨が終わると、神さまの小さな花園に、小さな虹が出来ました。
「虹だ。私は天界に帰らなければ」
名残惜しそうにザフィエルは花園を見やりました。
「さようなら、またお会いしましょう」
「さようなら、ザフィエルさん」
草花たちはそよそよと別れの言葉を告げました。
春から初夏に向かうこの季節に、花盛りの小さな神さまの楽園を見つけたら、それは、今日もザフィエルがどこかで仕事をしている結果なのかもしれません。
天使の中には、唯一神を信仰しない地域の神々が、天使や悪魔として唯一神の宗派の物語に再登場することがあります。このザフィエルも、いろいろな別名と神の力を持っているので、「にわか雨」の神さまが、唯一神の物語に吸収されながら残ったものなのではないかと思います。




