10 「仙人の弟子」
昔、中国の崑崙山というところには仙人が住んでいました。
かすみを食べ、雲に乗り、雨を降らせたり風を起こしたりできるというので、その力に魅せられて多くの人が仙人になりたいと志願しました。
王という青年もその一人でした。
王は運よく仙人が雲に乗って出かけようとしたところに出会いました。
「仙人さま、その力を俺にも使えるようにしてください」
王はその場で頼み込みました。
「弟子など取らぬ。厄介者を抱えるなんぞ、まっぴらじゃ」
仙人は長く白いあごひげを触りながら答えました。
王はそれでもめげずに言いました。
「では、俺が住んでいた土地で一番のお酒を差し上げます」
「なぬ、酒とな?」
仙人は白いまゆを片方、つり上げました。
「はい」
「そうか酒か。気が利くのう」
仙人は王からとっくりを受け取ると、うなずきました。
「よし。じゃが修業は厳しいぞ」
「はい!」
王は満面に笑みをたたえました。
それからというもの、王は仙人修行に励みました。
煩悩を捨て、わずかな野菜と水で腹を満たし、心身ともに仙人に近づくのは至難の業でしたが、王は耐え抜きました。
どれくらいの月日が経ったでしょう。
王はいつしか雲に乗り、森羅万象を操る技を身につけていました。
「そなたもこれで我らの仲間入りじゃのう」
仙人は目を細めました。
「はい。あのう、故郷に帰ってもいいでしょうか。俺は、この力を使って村を守りたいのです」
王の問いかけに、仙人はまゆをひそめました。
「ここと下界では時間の経ち方が違うのじゃ。そなたの父も母も、兄弟も、もはや生きてはおるまい」
「そんな……」
王は雲に乗ってひとっとび、村に向かいました。
なんということでしょう、村で王という青年を知る者は一人もいませんでした。
「父母を幸せにしたくて修業をしたのに」と、王は泣きました。
そんな王に、仙人はそっと近づきました。
「そなたを知らずとも、村の者には変わりはあるまい。これからは、村の守り人となるがよい」
仙人の言葉にうなずきつつも、王はずっと泣いていました。
それから、その村でときどき降る豪雨は、「王の涙」と呼ばれるようになったそうです。
中華といえば! 仙人! 修業! というかなりアヤシイ価値観のもとに書いてみました。かつて中国に旅行したとき、敦煌という砂漠の町を訪れたのですが、自然のスケールが大きくて感動したことを覚えています。崑崙山ではないですが、仙人がひとりくらい住んでいてもおかしくないかもしれません^^




