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第九章1:別離

     第九章

     『別離』

     1

「オウ恭也、久しぶりだな!」


 同じクラスの大野だ。


「オイ、キョウ! 何か具合悪かったんだって? ヤリ過ぎで性病でも伝染されたんじゃねえの?」


 鉄二と同じ族で、Aクラスの……アレ?


「恭也君元気だった~?」


 同じクラスの美紀ちゃんと隣りのクラスの小沢茜ちゃんだ。


「恭也さん、おはようございます」


 コイツは……誰だっけ?


ーーやはり男の顔は覚えられねえ。


 久しぶりに学校へ来てみたが、何か昨日までの事が嘘みてぇに平和だ。


 俺が気怠そうにトボトボと歩いていると、皆俺の横を挨拶しながら小走りで通り過ぎて行く。


 当然だ。


 もうこの時間では、今からダッシュでもしねえ限り絶対に遅刻だからな。


 俺は、遅刻を免れようと急ぐ奴らの背中を何気なく眺めていた。


ーーコイツらは、実際にヴァンパイアや獣人がこの世に存在しているなんて考えもせずに生きてるんだよな。


 そんな思いが頭を過ぎる。


 だが俺も、ついこの前まではコイツらと同じで、ヴァンパイアや獣人なんてマンガや映画の中だけの話だと思っていたからな。


 コイツらが何も知らなくても当然なんだ。

「知らねえ内に、何か面倒臭え事になっちまったな……」


 そんな愚痴がふと口を突いて出た。


 俺は、学校を目の前にして立ち止まった。


 この辺りは住宅地で、この時間はゴミ出しをしたり、犬の散歩をしている主婦の姿が目立つ。


 すぐ目の前には、派手な黄色に塗られて可愛い動物やキャラクターの絵が描かれた幼稚園の送迎バスが、園児の乗車を待っていた。


 長閑で平和な風景だ。


 空は薄曇りで雨は降っちゃいねえが、夕方か夜からはまた雨らしい。


 お陰で朝っぱらから蒸し暑くて堪んねえ。


 俺は、シャツの胸ポケットからセブンスターを取り出すと、人目も気にせずお気に入りのS・Tデュポンのギャッビーで火を点けた。


ーー後でフケるのも面倒臭せぇし、やっぱ今日は学校行くの止めようかな……。


 そう思い掛けた時、俺の背後からけたたましいバイクの音が聞こえて来た。


 俺の心臓が“ドキリ”と音を立てる。


ーー鉄二だ!


 俺が今朝学校に来た目的の一つが、この黒田鉄二に会う事だった。


 無論迷いはある。


 だが俺は、この鉄二と言うハードルを越えない限り、先に一歩も進めない気がしていた。


 ただ何をどう話すかだけだ。


 そうこうしている間にも、鉄二のバイクがすぐ側まで近付いている。


 奴のハーレダビドソンのXLH883カスタムが横に並んだ。


「恭也! 恭也じゃないか!」


 鉄二が俺に声を掛けた。


「お、オウ! 鉄二か、久しぶりだな」


 俺はわざと今気付いた振りで答えた。


ーーチッ、ワザとらしい。


 俺は、心の中で自分に唾棄した。


「どうしたんだお前、この前会って以来学校もバイトも休んで。陽子ちゃんの話しだと、何か凄え悪い病気に掛かって寝てるって聞いてたし、もう大丈夫なのか?」


 鉄二が大声で聞いた。


 例えアイドリングの状態でも、エンジンの音が煩過ぎて、どうしても声が大きくなってしまうのだ。


「ああ、もう大丈夫だ!」


 俺も大声で返した。


「なら良いんだけどな。皆結構心配してたんだぜ。ヤクザもな……」


「そうか……、悪かったな」


「それにこの前お前にも話したが、シゲの奴もあれから連絡が取れないんだ。アイツのお袋さんからも心配して連絡貰ったんだが、俺も他の奴らも奴が何処に居るのか全然分からねえし、携帯も繋がらねえんだ」


 鉄二が心配そうな顔で語った。


 声のトーンが下がっている。


「……」


 俺は言葉に詰まった。


 返す言葉が見付からない。


 俺は、どう話すか考え込んでしまった。


「どうしたんだ? 俺の話し聞いてんのか?」


 鉄二が苛立って声を掛けた。


「あ、ああ……。なあ、今からちょっと時間取れねえか?」


 鉄二にどう説明するのかまだ決まってもいないのに、思わず俺は勢いで言ってしまった。


 鉄二は、俺の曇った表情と予想外の答えに、少し戸惑う表情を見せた。


「良いけどよ……。お前学校はどうするんだよ? ここまで来ておいてボサルつもりかよ? それにこの前もヤクザの奴が、お前の単位が足りねえって嘆いてたぞ」


「ああ、分かってるよ。だがそんな事より大事な話があるんだ」


「……」


 鉄二は、俺の真剣な顔を覗き込んだ。


「……分かったよ……。何処か静かで人気の無い場所へでも行こうか……」


 鉄二も真面目な表情で答えた。


 さすがは俺の唯一の男友達だ。


 俺の表情から余程の事だとしっかり読んでいやがる。


「悪いな……」


 そう言って俺は、持っていたタバコを踏み消すと、鉄二のバイクのダンデムシートに跨がった。


「オイ、お前用のメットは無いぞ!」


 鉄二が、後ろを振り返って言った。


「俺は気にしねえぜ」


「馬鹿、俺が気にするんだよ!」


 そう言った瞬間、鉄二がいきなりバイクを発進させた。


 凄まじい爆音を立て猛スピードで加速して行く。


 学校の前を通り過ぎる瞬間、校門の前で怒鳴る生徒指導の水崎と学年主任の林の姿が見えた。


 俺は鉄二の背中を見ながら、シゲの事をどう話すか未だ迷っていた。

この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などにはいっさい関係ありません。

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