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「死ね、御子神ーっ!」


 自然体で迫る俺に向かって、ナイフを腰溜めに構えた斑模様の茶髪のガキが、弾かれた様に突っ込んで来やがった。


 こう言う臆病な奴程、恐怖に冷静さを失って遮二無二突っ込んで来るんだよな。


 まるで猛牛だぜ。


 俺は、さながら闘牛士の様に体捌きで横へひらりとかわすと、足を一本だけその場に残してやった。


“ズドドドーン!”


 俺の残した足に引っ掛かった猛牛は、そのままの勢いで前につんのめり見事に顔から地面へスライディングした。


ーーお~痛そう。


 俺は胸の前で十字を切った。


 ナイフを握っていた為に受身が取れず、アスファルトに顔から突っ込んだ茶髪のガキは、顔を団らに擦り剥いて、鼻から太い筋の血を垂れ流していた。


 俺は、無様なガキのケツを後ろから思い切り蹴り上げた。


“ギャイン!”


 茶髪のガキは、犬の様に無様な悲鳴を上げると、今一度地面でバウンドした。


 じんわりとケツに赤黒い染みが広がって行く。

 どうやら肛門にまともに蹴りが入ってしまった為、運悪く肛門が裂けてしまったらしい。


ーーこりや当分用を足す時に苦労しそうだな。

 自分でした事を棚に上げて、俺はこのガキの用を足す風景を少し想像してしまった。


ーーお~気持ち悪ぃ。


 あと残るは二人……。


 その時、俺のズボンの後ろポケットに押し込んであった携帯電話から、ディープ・パープルの名曲、『スモーク・オン・ザ・ウォーター』のイントロ部分が聞こえてきた。


 バイブの振動が、ケツに障って妙に気持ち悪い。


 奴らは着信音に“びくん”と反応した。


 あからさまに警戒心を浮かべている。


 俺も奴らを警戒しながら携帯電話を取り出すと、青白く光る小さなサブ画面に表示された送信相手を確認した。


 名前は『キャンディ明美』と表示されている。


 思わず俺は喧嘩の最中である事も忘れ、急いで電話に出た。


「もしもし、明美ちゃんか?」


『もしも~し、恭ちゃん?』


 明美ちゃんの澄んではいるが、少し間の抜けた声が耳元に響く。


「あれ、もう待ち合わせの時間か?」


 俺は答えながらふと腕時計を見た。


 時間はまだ午前零時五分を過ぎた所だ。


「どうした? もう着いたのか?」


 俺は明美ちゃんと電話で話しながら、奴らの方をチラっと見た。


 奴らは、俺達が電話を終わるのをご丁寧にも待ってくれているらしい。


ーーつくづくシロウトな奴。


 そう思った瞬間、明美ちゃんの申し訳なさそうな声が聞こえた。


『ごめ~ん、大事なお客さんがアフター付き合えって煩くて。店長も行かなきゃ駄目だって言うから、また今度にしてくれる? この穴埋めは私の“アナ”でして良いからさ』


 明美ちゃんはいつもの甘えた声で言った。


“アナ”の部分が妙に生々しく聞こえる。


 俺はガッカリして肩が落ちた。


「ああ、仕方ないな……。俺も今取り込み中だし、また今度“アナ”埋めしてくれれば良いよ」


 俺も“アナ”を強調した。


『うん、じゃあまた今度ね! 好きよ、恭ちゃん。“チュッ”』


「俺も好きだよ……って、明美ちゃん? もしもし、もしも~し!」


 明美ちゃんはチュウの余韻を残したまま、俺の返事も待たずに早々と電話を切ってしまった。


 俺は大きな溜息と共に携帯電話を折り畳むと、そのまままた後ろポケットに仕舞い込んだ。


「ギャハハハハ!」


 俺達の会話を最後まで注意深く聞いていたクソガキ共が、いきなり大声で笑い出した。


 最初にぶっ飛ばされて戦意を無くしていた筈の二人も、今は声を出して笑っている。


 ただ失神して地面に蹲っている金髪のガキと、ケツを血塗れにして地面でのた打ち回っている茶髪のガキだけはそれ所じゃないらしい。


「ふ、振られてやがる! 残念だったな、この色男が! ギャハハハハ!」


“ブチン!”


 俺の頭の太い血管が、音を立ててぶち切れた!


 血管が切れるなど無論比喩だが、実際リアルに俺の耳に響いた気がした。


 俺の白金の髪が逆立つ!


 怒髪天を突くとはまさにこの事だ。


 全身にアドレナリンが駆け巡った。


 髪だけじゃなく、全身の毛と言う毛が総毛立った感じだ。


 俺は人を小馬鹿にするのは大好きだが、自分が馬鹿にされるのだきゃあ我慢ならねえ!


「テメエら、ぶっ殺す!」


 俺は怒りに身を任せ、残った二人へと突っ込んだ。


 黒人もどきとは別のもう一人のガキが、正面から突っ込んで来る俺の頭部へと打ち下ろすべく、艶消しの三段特殊警棒を振り上げた。


「コノーッ!」


 絶妙のタイミングで特殊警棒が振り下ろされる。


 俺は左腕で頭部を庇うと、勢いを殺さず頭から奴の腹目掛けて突っ込んだ。


 奴の特殊警棒が頭上に迫る。


 しかし俺の勢いは止まらない。


 俺は、振り下ろされる奴の特殊警棒を凌駕するスピードで突っ込んだ。


 俺の方が一足早い。


 奴の特殊警棒は、懐深く入り込んだ俺に打撃点を外され、威力を無くして俺の腰に辺りをしたたかに打っただけだった。


 こんなもの痛い内にも入らない。


 次の瞬間、俺の頭部が奴の腹にめり込んだ。


 奴は身体をくの字に折り曲げ、そのままコンクリートの壁へと背中が激突した。


“ぐえっ”


 奴は、肺に溜まった空気を一気に吐き出した。


 俺は奴の腹から頭を抜く様に身体を離すと、くの字に曲がって行く奴の背中に鋭い肘を思い切り打ち下ろした。


 奴の手から特殊警棒が放れ、音を立てて地面に転がる。


 次の瞬間、背中に肘をぶち込まれて逆エビに反った無防備な奴の頭を両手で抱え込み、そのまま奴の髪の毛を掴んで頭を押し下げると、同時に下から膝をカウンター気味に蹴り上げた。


“グジャッ”


 鼻骨の折れる嫌な音を立て、俺の膝が奴の顔にめり込んだ。


 反動で跳ね上がる奴の頭を再び力で押さえ込み、二発・三発と連続で膝をカチ上げる。


“ドカッ”


 次の瞬間、背中に激痛が走った。


 思わず俺は奴の頭を放し仰け反った。


 手を放すと、奴は背中を壁に擦り付けてそのままズルズルと地面に崩れ落ちた。


 俺が、背中の痛みを堪え咄嗟に後ろを振り向くと、黒人もどきが今一度鉄パイプを振り被る所だった。


 振り向いた瞬間、俺とサングラスに覆われた黒人もどきの目が合った。


 それに弾かれた様に、黒人もどきが俺の頭部目掛けて鉄パイプを振り下ろす。


 俺は、間一髪でそれを横に躱した。


 振り下ろされた鉄パイプの先が地面に当たり乾いた音を立てる。


ーーあんなのをまともに喰らったら、俺様の頭蓋骨が陥没しちまうじゃねーーか!


 獣並の反射神経を持つ俺だからこそかわせた様なものだ。


 それ程の威力とスピードを今の一撃は持っていた。


 俺は、かわし様に横手から奴の顔面へ右ストレートを放った。


“ボグッ!”


 俺の右ストレートは奴の左頬を捉えたが、体勢が不十分だった為威力が半減している。


 だが例え威力が半減しても、俺のパンチはボクシングの日本ランカー並の威力がある。


 普通ならかなりのダメージを与えている筈だ。


 しかし奴は、一瞬“ぐらっ”としただけで耐えやがった。


 岩の様なごつい身体と、丸太の様な太い首に衝撃を吸収されてしまったらしい。


 外れかけて傾いたサングラスの上から、奴の血走った目がこちらを“ギロリ”と睨む。


「ガァーッ!」


 奴は雄叫びを上げながら、先が地面に当たっていた鉄パイプを斜め下から俺の胴を薙ぐ様に振り払ってきた。


 俺が一歩下がってそれを躱す。


 俺の胴のあった辺りを、鉄パイプが“ブン”と唸りを上げて通り過ぎた。


 奴の体勢が横に流れた瞬間を狙って俺は一歩前へ踏み出すと、奴の膝に目掛けて鋭い踵を放った。


ーー斧刃脚。


 中国拳法の技だ。


 膝は鍛える事の出来ない幾つかの急所の一つである。


“グジャ!”


 俺の踵が奴の膝頭にモロに当たった。


「ぐえっ!」


 奴は膝を抱え地面に転がった。


 鉄パイプを振る為に踏ん張っていた為骨折には至っていないだろうが、もう立つ事も出来ない筈だ。


ーー勝負は着いた。


 そう思った瞬間、驚く事に奴が立ち上がったのだ。


 痛む膝を庇い、ふら付きながらも震える手で鉄パイプを構えようとする。


ーー大した根性だ。


 俺は、この黒人もどきを少し見直した。


「ま、まだだ……、まだ終わっちゃいねえぞこの野郎……」


 震える声で凄んでみせる。


「ふん、大した根性じゃないか。名前くらい憶えておいてやるから言ってみろよ。何て言うんだ?」


 俺は顎を杓った。


「む、村田だ。成田西高の村田だ……」


「ふ~ん、成田西ねえ。あの辺じゃ一番の不良校じゃねえか。で、テメエは村田ってんだな、憶えといてやるから感謝しな!」


 そう言うと、俺は奴の左頬に会心の右ストレートをぶち込んでやった。


 モロに俺のパンチを喰らった奴は、後ろへ吹っ飛んで地面に突っ伏すと、そのままぴくりとも動かなくなった。


「う、うわ~っ! む、村田さんがやられたー!」


 黒人もどき=村田が倒されると、最初にやられた二人組が慌ててその場を逃げ去った。


「あ~あ、冷てえガキ共だな」


 俺は一人呟くと、地面に転がっている村田達四人を見下ろした。


 三人は意識を失っているが、茶髪のガキはまだケツを押さえて呻いている。


 見ると、俺のドルチェのデニムも膝の辺りがさっきの奴の鼻血で赤く濡れていた。


「チッ、堪んねえなあ……」


 俺は大きな溜息を一つ吐くと、転がっている奴らを後にして、通路の出口へとゆっくり歩き出した。


 外へ出ると、どす黒く澱んだ雨雲は更に不気味さを増していた。


 シャツが汗で身体にへばり付いて気持ち悪い。


 俺はポケットから煙草を取り出すと、動いた為折れ曲がったセブンスターを一本咥え、風で火が消えない様に手で風防を作りながらデュポンのライターで火を点けた。


 湿った空気と共に大きく紫煙を吸い込み、ゆっくりと濃密な夜に吐き出した。


 俺が歩き出すのを待っていたかの様に、雨がぽつりと降り出した。


 次の瞬間、雨が堰を切った様に激しく降り出す。


 時間は、既に深夜の零時二十分に差掛かろうとしていた。


 俺は身体を屈めながら、急いで雨の街へと駆け出して行った。

この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などにはいっさい関係ありません。

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