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     5

 爺は一直線に向かって来た。


 ゆっくりとした足取りで、しかし確実に間合いを詰めて来る。


 あくまで自然体を保ち、正中線も振れる事が無い。


 両手をだらりと左右に垂らし、見事な程余分な力が抜けている。


 どんな相手に対しても、またどの様な動きや技に対してもより素早く反応し、また最小限の動きで相手を屠り去る事を目的とした歩法だ。


 間合いに入るまで自分からは決して仕掛けず、相手の動きに完全に合わせ“後の先”を取る。


“後の先”とは、相手から先に攻撃をさせて、その攻撃が当たる前に自分の攻撃を相手に当てる事である。


 言葉で言うのは簡単だが、実際に行うのは至難の業だ。


“後の先”を取るには、単なる動態視力や反射神経の良さ等の“見切り”や、繰り出す技の速さだけで出来る物では無い。


 無論それらは最重要のファクターではあるが、余程各下の相手でない限り、幾ら達人でもそれだけではせいぜい相討ちが限度である。


“後の先”を取るには、相手の微妙な動きや筋肉の変化、そして何より気の変化を事前に察知し、相手がいつ、どの様に、何処へ攻撃を仕掛けて来るか等の“起こり”を予測出来なければならない。


 それらの“起こり”を読めてこそ、“見切り”(動態視力や反射神経)や技の速さが生かされるのであり、この三つが合わさってこそ相手からの攻撃を受けるより先に、自分の攻撃を当てる事が可能となるのだ。


 先天的な才能に加え、厳しい修練と数知れぬ実戦を繰り返して来た者だけがそれを可能にする。


 無論爺もその一人だ。


 更に付け加えるならば、この正中線を整えた自然体と言うのは、言い換えれば隙が全く無いと言う事であり、相手に攻撃のオプションを限定させる事が出来る。


 この事は“起こり”を読むのにも、“見切り”をするにも有効だ。


 しかも攻撃をすると言う事は、即ち必ず何処かに隙が生じると言う事である。


 相手に先に攻撃を仕掛けさせる事で相手に隙が生じれば、後の先を取った時に自らの攻撃を確実にヒットさせる事に繋がる。


 まあとにかく厄介な事だ。


 爺は、更に間合いをゆっくりと詰めて来た。


 幾ら上下・左右にゆさぶりを掛けてみても、爺が乗って来なけりゃ話にもならない。


 横や上へ跳んでも結局は攻撃を仕掛ける際に“後の先”を取られる。


 かと言って何もしなければ、爺の間合いに入った瞬間先に攻撃を食らってしまう。


 これでは八方塞がりだ。


ーークソッ!


 どんどん爺が近付いて来やがった。


 爺の体内に凄まじい量の気が充ち満ちているのがハッキリと伝わって来る。


 爺が後一歩・二歩踏み出せば、そこは既に爺の間合いだ。


ーーくっそ~こうなったらヤケクソだ!


 俺はそう決心し、今にも右正拳の直突きを爺の胸目掛けて繰り出そうとした瞬間、予想もしなかった事が起こった。


 爺が目の前から消えたのだ!


 俺の拳が虚しく空を切る。


 爺は、俺が拳を繰り出した瞬間、自ら横へ跳んだのだ。


“起こり”を見られたのだ。


 あまりのタイミングの良さに、俺は間抜けにも右正拳を繰り出してしまい、むざむざ右側に隙を作ってしまった。


 俺は慌てて爺の動きを目で追った。


 爺は二メートル程横へ跳び、左足が畳に着いた瞬間、その足で畳を強く蹴ると今度は俺に向かって飛び込んで来た。


ーー何と言うバネをしてやがるんだ!


 余程強靭な足腰で無ければ、こうも見事な方向転換は出来るものじゃない。


 普通なら横へ跳んだ勢いを殺せず、左足が着いた瞬間バランスを崩すか、この無理な動きで足首を捻挫するかどちらかである。


 しかし爺は見事にそれをやってのけた。


 しかも、爺は俺に向かって跳んだ瞬間、手に持っていた物を投げ放っていたのだ。


 爺が投げた物が、俺の顔目掛けて一直線に飛来する。


“針だ!”


 爺は、俺に向かって跳ぶ瞬間に、得意の針を俺の顔目掛けて放ったのだ。


 針の後を追う様に、爺が俺目掛けて低い位置から一直線に向かって来る。


 針を躱せば爺の思うツボだ。


 しかし躱さなければ針が顔に刺さり、痛みで隙が生じた所をやはり爺に攻撃される。


「チィィィィ!」


 俺は、正拳突きで捻った身体を戻しながら、突き出したままだった右腕を引き戻し、そのまま肘を中心に腕を回転させて、飛んで来る針を右腕で横から払い飛ばした。


 次の瞬間、爺は既に俺の懐深く飛び込んでいた。


 針を払った為に、俺の身体は爺に対して正面に開いてしまっている。


ーーヤバい! これでは全身がガラ空きで隙だらけだ!


 爺は目前で畳を強く蹴ると、低い態勢から一気に伸び上がって来た。


 右手を拡げ、俺の腹目掛けて突き出して来る。


ーーやばい! 発剄が来る!


“ぞくり”


 俺の背筋を冷たいものが走り抜けた。


 発剄は爺の得意技の一つだ。


 全身に溜めた気を、相手の身体に触れた瞬間一気に打ち出す技である。


 こんなのを食らった日には、到底無事で済む筈が無い。


 俺は、上げていた右肘を伸びて来る爺の右手に向けて空かさず打ち下ろした。


 しかし爺の方が0コンマ数秒速い。


ーークソッ!


 俺は、咄嗟に腹に気を集中させた。


“ズドン!”


 俺の腹部に爺の掌が触れた瞬間、爺の発剄が炸裂した。 


 腹部に凄まじい衝撃が走る!


 まるで腹が爆発した様だ!


 発剄を食らった瞬間、爺の右手首を俺の肘が捉えたのだが、その効果を確認する事無く、俺の身体は後ろへ飛ばされた!


 二メートル程飛ばされたが、足を畳に擦り着け踏ん張る事で何とか踏み止どまった。


 足の裏が摩擦で火傷しそうだ。


 全身が痺れ、身体の自由が利かない。


 内臓が口から飛び出したかと思う程の衝撃だった。


 実際に、今も内臓が踊り狂っている様だ。


 堪らず俺は胃液を吐いた。


 酸っぱい香りが口中に広がる。


 吐いた胃液には少し血が混ざっていた。


 俺は、痺れる手で口を拭った。


 見ればやはり拭った手にも赤いものが付着している。


 俺は、フラつく身体や定まらない腰、笑いの止まらぬ膝を意思の力だけで奮い立たし、ともすればヘタリ込みそうな自分を何とか踏み止どまらせた。


 俺は、口から息をゆっくりと吐き出しながら、足を前後に少し開いて腰を落とした。


 手の震えを堪え、左手はゆるりと開いたまま前へ突き出し、同じ様にゆるりと開いた右手も軽く前に出して構えた。


 その間も、爺の発剄で崩れた気のバランスを必死に調整する。


ーー小周天。


 仙道で用いられる気を整える呼吸法だ。


 鼻からゆっくりと息を吸い、吸い込んだ空気を気と共に身体の中を循環させ、今度は口からゆっくりと息を吐く。


 これにより、それぞれのチャクラを回して気を練るのだ。


 チャクラ=サンスクリット語で「車輪」を意味し、ヨーガや仙道で良く用いられる、頭頂部から尾底骨までの間に存在すると七つ気の集中する場所の事だ。


 サハスラーラ      (頭頂部)


 アジュニャー      (眉間)


 ヴィシュダ       (喉)


 アナーハタ       (胸部)


 マニプーラ       (腹部)


 スヴァーディシュターナ (陰部)


 ムーラーダーラ    (会陰)


 光る蓮華や回転する輪としてイメージされ、その一つ一つを気の力で回すのだ。


 チャクラを回転させながら、呼吸に合わせて下から上へゆっくりと気を上げ、またゆっくりと気を下ろす。


 これを繰り返す事で乱れた気を整え、気を練り増幅させるのだ。


 俺は小周天を行いながらも、爺の様子を注意深く伺った。


 爺は、さっきまで俺の立っていた場所に立ち、俺の肘が当たった右手首を左手で押さえていた。


 皺と髭に覆われた顔が僅かに苦痛で歪んでいる。


 それ程の打撃だとは思えなかったのだが、意外にダメージを与えたのだろうか?


 いや、あの程度で爺にダメージを与えられたとは考え難い。


ーー芝居か?


 だいたいいつもスケベな事以外は、何考えてるのか分からない爺だが、今日の爺は分からない事だらけだ。


 久しぶりに会って、珍しく優しいかと思ったら急に仕合えと言い出すし、挙句の果てに自分は俺を殺す気だから、俺にも爺を殺す気で闘えなんて言いやがる。


 冗談かと思えば針は顔目掛けて投げるわ、本気で発剄は打ち込みやがるわ、いったい何がどうなってやがるんだ?


 爺に殺される程の理由なんて……、ダメだ! あり過ぎてどれなんだか分かんねえ。


「もう、気は整ったのか?」


 爺がいきなり声を掛けて来た。


 腕はまだ押さえたままだ。


「爺! どう言うつもりなんだテメエ!」


 俺は怒鳴った。


「お前を殺すと言うたじゃろう。もう忘れたのか?」


 爺はしらっと言って退けた。


「だから何で俺が爺に殺されなきゃならねえんだ?」


「そんな理由など知らぬままで良い。それよりお前も本気を出さねば本当に死ぬぞ!」


ーーくっそ~。


 理由は分からねえが、やっぱり本気で殺す気か?……。


「分かったよ爺……。じゃあ俺も本気で行くぜ! 本当に死んじまっても俺を恨んで化けて出るんじゃねえぞ!」


「フォッホホホ、お前みたいなヒヨッコが、儂に勝つつもりでおるとは片腹痛いわ。どちらにしても死ぬのはお前じゃ!」


 言い終わった瞬間、爺の気が爆発的に膨れ上がった。


 まさしく気の爆風だ。


ーーチッ、売り言葉に買い言葉でついあんな事言っちまったが、あんな化け物爺にどうやって勝ちゃ良いんだ?


 俺は、どう攻めるか迷ったが、最早覚悟は決まった。


ーーどの道迷ったって答えなんか見付かる訳ゃねえ。なら何も考えず攻めて攻めて攻めまくるだけだ!


 小周天により俺の体内にも気が充満した。


「行くぞ、ジジイー!」


 俺は、爺目掛けて一直線に走った。


 間合いに入ったらとにかくひたすら殴り蹴る!


 ただそれだけだ!


 爺は、押さえていた腕を放し即座に身構えた。


 すぐに俺の間合いに入った。


 爺の顔目掛けて勢い良く突きを放つ!


ーー左フックだ!


 爺はスウェーで軽く躱す。


ーー当然だ。


 放った左腕を戻す瞬間に、腰を捻りながら今度は右フックを繰り出す。


 これも左拳でガードされた。


ーーだがまだまだだ。


 俺は爺の腹を目掛けて、抉る様にボディーブロ―を放った。


“ゴン!?”


 爺の腹に俺の拳がめり込む筈……だった。


 しかしめり込む筈の拳は、まるで岩でも叩いた様に完全に表面で止まっている。


 逆に、俺の拳に鈍い痛みが走った。


ーー硬気功。


 中国拳法で言われる所の気功の一種で、体内に気を充満させる事により身体の筋肉を鉄や岩の様に硬くする技だ。


 更にこの爺の硬気功は、刀や槍を通さぬばかりか、銃弾すら受け止める事が出来るらしい。


 俺は驚愕した。


 話には聞いていたが、これでは本当に鉄か岩を叩いているかの様だ。


ーーだがここで引いて堪るかよ!


 俺は痛む拳を無視して、爺に数知れぬ突きや蹴りを放った。


 爺は顔を両腕でガードし、腹部は晒したまま腰を落として踏ん張っている。


 俺は、マシンガンの様な攻撃を容赦無く爺に浴びせ掛けた。


 顔


 水月


 腿


 脇腹


 顔


 腰………


 

 ストレート


 ボディーブロー


 ローキック


 フック


 ハイキック


 ミドルキック……


 様々な技を織り交ぜながら、左右・正面・上下と休む事無く打ち続ける。


 これにはさすがの爺も反撃する余裕が無い。


 更に俺は攻撃の回転を上げた。


 何故か今日はすこぶる調子が良い。


 身体が思う様に、いやそれ以上に動いてくれる。


 自分でも信じられない程であった。


 見ると爺の顔に変化が生じていた。


 最初は無表情に俺の攻撃を凌いでいたが、今では僅かに苦痛の色が浮かんでいる。


 さしもの硬気功も、この嵐の様な攻撃の前には全てを防ぎ切る事は出来ないらしい。


ーー勝機!


 俺は歓喜に胸を躍らせた。


 俺の頭に作戦が閃いた!


 攻撃を全て腹部に集中させる。


 爺の顔が更に険しくなった。


 体勢はそのままだが、爺の脚がじりじりと後退を始めた。


 俺は、爺の頭を両手で押さえ、力ずくで押し下げた。


 爺が俺の手を払い除ける。


 それと同時に下から右膝を蹴り上げ、腹部への膝蹴りと見せかけて、上げた膝を支点にそこから爪先を蹴り上げた。


 爺が堪らず後ろへ逃げる。


 爺の白い髭を数本引き千切って、俺の右脚が空を切った。


 その瞬間、後ろへ逃げた筈の爺が前に踏み出して来た。


ーー掛かったな。


 俺はほくそ笑んだ。


 前に踏み出して来る爺の頭部に目掛けて、俺は振り上げた脚をそのまま下に落とした。


 踵落としだ!


 幾ら硬気功でも脳天への一撃には耐えられまい。


 俺の踵が爺の頭を捉えようとしたその時、爺は更に一歩踏み込んで打撃点を外すと、落ちて来る俺の脹脛を痛めた筈の右掌で下から突き上げた。


 脚に強烈な衝撃が走る!


 落とした俺の脚が、再び上へ跳ね上がった。


 爺の野郎、踏み込みを深くして俺の踵落としを外したばかりか、痛めた筈の左手で、俺の脹脛に下から発剄を打ち込みやがったのだ。


 俺は、一気にバランスを崩し回転する様に後ろへのけ反った。


 左足が僅かに浮く!


 爺は、その隙に更に踏み込んで俺の喉に手を添えると、そのまま前に突き出した。


 俺の身体が反転して宙に浮く!


 畳に後頭部が叩き付けられる瞬間、俺は両手を頭に回し咄嗟に後頭部をカバーした。


 両手にガードされた後頭部が畳に叩き付けられる。


 手でカバーしていなければ、確実に脳震盪を起こしていただろう。


 その瞬間にも、爺の顔が間近に迫る。


 依然手は喉を掴んだままだ!


 爺の手に力が籠る。


ーーやばい! この態勢で発剄を打つつもりか!?


「ケヤァァァーッ!」


 俺は、倒れ様に思い切り腰を曲げ、左足を爺の後頭部目掛けて蹴り放った。


“ダメか!?“ と思った瞬間、意外にも俺の足の方が速かった。


 俺の蹴りに気付いた爺は、発剄を打つ事無く身体を投げ出す様に前へ跳び、畳の上を転がった。


 俺は空かさず飛び起きた。


 見ると、既に爺も立ち上がっている。


 爺は肩で息をしていた。


 無限の体力を持った妖怪ジジイが肩で息をするとは、硬気功や発剄でかなりの体力や気を消耗したに違いない。


 それに、俺の嵐の様な攻撃でダメージも蓄積されている筈だ。


ーー今がチャンスだ!


 俺は再び爺に飛び掛かった。


 一気に間合いを詰める。


 駆け寄り様、俺は爺の顔目掛けて鋭い右ストレートを放った。


 爺が右腕で払う。


 俺の身体が流れた。


 爺は体捌きで俺の右ストレートを横へ躱すと、同時に俺の腕をなぞる様に受けた右手首を横に回転させ、そのまま腕を掴み後ろへ引いたのだ。


 パンチを放った勢いと、爺に腕を引かれた勢いで、俺の身体はバランスを崩した。


ーー化剄。


 中国拳法で用いられる技で、相手の力に逆らわず、体捌きと同時に手や腕を使い、相手の力を受け流す事で相手の攻撃を無力化し、更には相手のバランスさえ崩してしまう技である。


 有名な所では、太極拳に『纒絲勁』と呼ばれる技があるらしい。


 爺から見て俺の右側がガラ空きになる。


“ズドン!”


 その瞬間、爺の左肘が俺の右脇腹に突き刺さった。


ーー頂心肘。


 八極拳の技だ。


 俺の身体が“くの字”に折れる。


 俺は爺の手を振り解き、激痛に悶えながら後ろへと逃げた。


 爺が追って来る。


 俺は牽制の為、右のジャブを爺に向けて放った。


 爺が顔を振って避ける。


ーーくうっ、何て反射神経してやがるんだ!


 爺は俺の懐に深く入り込むと、畳を“ズン”と強く踏み鳴らした。


 震脚!


 間髪をおかず爺の右肩が激しく俺に激突する。


ーー鉄山靠だ。


 俺は、勢い良く後ろへと吹っ飛ばされた。


 踏ん張る事も出来ず、勢い良く畳に激突する。


 激痛に息が詰まった。


 俺は畳の上で悶取りを打った。


 爺は、畳を蹴って宙高く飛んだ。


 片足を畳み、もう片方の足をピンと伸ばし、俺目掛けて落下して来る。


 落下する重力を利用して、全体重を掛けて俺の腹部を踏み抜く気だ。


 俺は、咄嗟に身を捩って間一髪それを躱した。


 凄まじい地響きを立て、爺が俺のすぐ脇の畳を踏み抜く。


 身を捩って躱さなければ、内臓破裂で死んでいたかも知れない。


 俺は頭に血が上った。


 畳の上を転がって爺から間合いを取ると、まだ痛む脇腹を堪えて立ち上がった。


 既に爺は間合いを詰めて来ている。


 爺が、再び懐から針を取り出そうとするのが見えた。


 俺は針を抜かせまいと爺目掛けて鋭い足刀蹴りを放った。


 幾ら爺でもこのタイミングでは躱しようが無い。


 しかし次の瞬間、爺は宙に跳んで蹴りを躱した。


 しかも驚くべき事に、宙に跳んだ爺が、蹴り出した俺の脚の上に立っているではないか。


 見事と言う他無い絶妙なバランスで、僅かな面積しかない俺の脚の上に立っているのである。


 しかも何故か重さを感じない。


ーー軽身功か。


 俺は初めて見たが、まったく凄まじい技である。


 これも内気功の一種で、気の力で自らの身体や体重を、木の葉の様に身軽なものにしてしまうのだ。


 俺は舌を巻いた。


 俺が脚を引っ込めようとした瞬間、爺は俺の長い脚を素早く駆け下りて来た。


 爺は俺の太腿まで一気に駆け下りると、俺の顔面へ鋭いローキックを放った。


 爺の蹴りが俺の顔面を捉える。


 俺は首が捩じ切れる程の衝撃を受け、そのまま後ろへ吹っ飛んだ。


 俺の意識は、一瞬でブラックアウトした。


この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などにはいっさい関係ありません。

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