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金剛峯寺の前の国道480号線は、凄まじい銃撃戦の戦場と化していた。


飛び交う銃撃の嵐とバラ撒かれる薬莢の雨、更に辺りに煙る硝煙が戦闘の激しさを物語っている。


互いにトラックの陰からの銃撃である為、双方主だった負傷者は出ていない様だ。


しかし精鋭揃いの『C・V・U』の隊員の狙いは的確で、ファミリア達の部隊は次第にトラックの陰から顔を出せない程に追い込まれて行った。


その時、突如金剛峯寺の方から凄まじい爆発音が響いた!


山内は、慌てて金剛峯寺の方角を仰ぎ見た。


見ると、金剛峯寺の方から高い火の手の黒煙が上がっている。


「しまった戦力を分断された! やはりコイツらは囮か!」


山内は、臍を噛んだ。


しかし次の瞬間、隊員の一人が青ざめた顔で慌てて叫んだ!


「隊長、ガソリンが!」


隊員が指し示す方を見ると、横倒しになったトラックからガソリンが漏れ出しているのが目に入った。


しかも横倒しのトラックは、車体の裏側を敵に晒したままの状態になっている。


「イ、イカン! 総員退避し……」


山内が、部下達に退避を命じようとした瞬間、敵の銃弾がトラックの裏側から漏れ出したガソリンの側で火花を散らした。


“ドカーン!!”


飛び散った火花が漏れ出したガソリンに引火し、凄まじい爆発音と共にトラックが爆発した。


激しい轟音と衝撃、そして全ての物を焼き払うかの様な凄まじい炎を孕んだ爆風が、隊員達を襲った。


山内以下『C・V・U』の隊員達は、赤い炎を纏った巨大なハンマーに殴られた様な衝撃を受け、木の葉の様に吹き飛ばされた!


もうもうとした黒煙が立ち上り、久々に雨雲の切れ掛かった夜空を再び黒く覆う。


山内は、遠退く意識を無理矢理掻き集め、何とか意識を保ち辺りを見渡した。


眼前には、爆発して炎の塊となったトラックの残骸が燃え盛り、敵との間に炎の障壁を築いている。


辺りには、火の付いたトラックの破片やバリケードの残骸が散らばり、所々に死傷した『C・V・U』の隊員が転がっていた。


恐らく一瞬の判断や反射神経が隊員達の生死を分けたのであろう、頭を振りながら起き上がる者、地面に倒れたまま呻き声を上げる者、衣服に火が燃え移っているにも関わらず身動き一つしない者が出ている。


「皆、大丈夫か!? 無事な者は怪我人を下がらせろ! 早川、和泉、お前達は無事か?」


山内が大声で叫ぶ!


「無事です!」


名前を呼ばれた二名の隊員は、山内の方を見て親指を立て答えた。


「お前達は、敵を牽制しろ! 奴等を近付けるんじゃない!」


「了解!」


山内が命じると、両名が声を揃えて応じる。


早川と和泉は、素早い動作で体勢を整えると、先程敵のトラックに突っ込まれて薙ぎ倒された自分達のトラックの後ろに身を潜め、腰を落として低く構えた。


H&K・MP5の照準を前方に合わせる。


とは言え、前方では爆発したトラックが炎とドス黒い煙を上げており、視界は極めて不良だ。


後ろでは、無事だった他の隊員が、負傷した隊員達の手当てやこの場から運び出すのに追われている。


山内は、低い体勢で早川達の横に駆け寄った。


「野口と小野が死んだ。 他にも矢口、小峰、古田が重傷を負っている」


山内が口早に知らせると、早川・和泉の表情が一変した。


「野口と小野が死んだ!?」


「何てこった! 小野は来月結婚する予定だったのに!」


和泉は、驚きと沸き上がる怒りで、壁にしているトラックの荷台を思い切り殴り付けた。


早川も悲痛な表情で唇を噛んでいる。


「これ以上犠牲を出す訳にもイカン。奴等を牽制する為に弾幕を張れ!」


山内はそう言うと、前方へ向けてH&K・MP5を掃射した。


早川と和泉もそれに倣う。


照準を付けての狙い撃ちではなく、ただ闇雲に撃つ盲撃ちだったが、トラックの爆発に乗じた敵を、近付けさせる訳にはいかない。


それに呼応するかの様に、敵もこちら側へ銃撃を浴びせ掛けて来た。


彼我の戦力差はざっと三十対三……。


これではまともな戦闘にならない。


しかもこの戦力差を見切った敵の銃撃が、山内達が盾にしているトラックに集中してきた。


山内達は、最早トラックの陰から顔を出す事すら困難になっている。


すると、負傷した仲間を国道の脇に運び終えた隊員達が、地面を這うかの様な低い体勢で山内等の元に集まってきた。


これで彼我の戦力差は、三十対九にまで上がった事になる。


金剛峯寺の方角から、未だ黒煙が立ち上ぼり、激しい銃撃戦の音が聴こえていた。


「いいか、このままでは埒が開かん。こうしている間にも、金剛峯寺が落とされれば全てが終わりだ。危険だが、突撃して奴等を殲滅する」


そう言うと山内は、覚悟を決めた表情で隊員達を見渡した。


隊員達も、覚悟を決めた表情で黙したまま頷く。


「よし、総員ゴーグルと耳栓を装着しろ。早川、和泉、スタングレネード用意! 敵の混乱に乗じて突撃し一気に敵を殲滅する!」


山内が、檄を飛ばした。


スタングレネードとは、暴徒鎮圧用に作られた殺傷力の無い所謂音響閃光手榴弾の事だ。


4.5gの金属酸化物と金属マグネシュウム粉混合物、過塩素酸アンモニウムの混合物が爆燃し、凄まじい閃光と爆音を出す事で敵の視力と聴力を一時的に奪い、敵を一定時間行動不能にする手榴弾である。


黒い直径4センチ、長さ15センチ程の円柱の形状をしており、頭の部分には起爆させる為のピンとレバーが取り付けられていた。


早川と和泉の二人がスタングレネードを取り出す間に、他の隊員達がそれぞれ耳栓とゴーグルを着用する。


山内は、突撃する隊員全員のゴーグルと耳栓の装着を確認すると、早川達に無言で頷いて見せた。


早川と和泉も無言で頷き返す。


山内他六人の隊員達は、全身にぎりりと緊張を漲らせた。


スタングレネードが炸裂するのを合図に一斉に駆け出せるよう、全身のバネを撓ませる様に力を込める。


次の瞬間、早川と和泉は手にしたスタングレネードを、敵が潜む二台のトラックの間隙を狙って投げ放った。


軽い金属音を立てて、二個のスタングレネードが敵集団の真ん中辺りに落下し地面を転がる。


100万カンデラの凄まじい閃光と170デシベルもの激しい爆音が炸裂し、敵の視力と聴力を一時的に奪った!


それを合図に、山内以下六名の隊員達が一斉に飛び出す!


スタングレネードが投げ込まれた場所から、ゴーグルを掛けていてさえ目が眩みそうな閃光が、辺りを真っ白な眩い光に包み込んでいた。


ゴーグルを掛けている為に隊員達に影響は少ないが、それでも直視を避ける様に半ば目を背けている。


隊員達は、未だ燃え盛るトラックの残骸を避け、散らばった破片等を飛び越えて敵が盾にしているトラックに一気に駆け寄った。


すると、5~6秒程続いた閃光が、出し抜けに消失した。


一瞬暗黒に覆われたかの様な錯覚に囚われながらも、閃光の直視を避けた事とゴーグルのお陰で視力は奪われていない。


隊員達は、トラックの間隙から敵集団のど真ん中へ突入すると、スタングレネードで視力と聴力を奪われパニックを起こしている敵へ、容赦なく銃弾を浴びせ掛けた。


銃弾の雨を浴びせ掛けられたファミリアの部隊も、盲撃ちで応戦する。


仲間の犠牲も厭わぬ、相討ち覚悟の銃撃戦だ。


殆どゼロ距離射撃の接近戦で、激しい怒号掻き消される程の銃撃音と、夥しい量の銃弾が無慈悲に飛び交った!


だが視覚も聴覚も奪われたファミリアの部隊にとって、まともな戦闘になる筈もない。


ファミリア達は、為す術も無く山内達の銃弾により、まるで人形の様に薙ぎ倒されて行った。


それは、彼我の戦力差を物ともしない一方的な戦闘であったが、『C・V・U』の隊員達もファミリア達の決死の反撃に被弾し、少なからず死傷者を出していた。


銃撃が止んだ後、その場に立っていたのは山内以下『C・V・U』の隊員四名のみであった。


夥しい血溜まりと無数の薬莢が散らばった地面には、約三十三体もの遺体が転がっている。


迷彩パターンの戦闘服を纏ったファミリア達と、ファミリア達の決死の反撃で死亡した『C・V・U』の隊員達だ。


生き残った『C・V・U』の隊員達は、まずは地面に倒れている仲間の生死を確認したが、生存者は一人も居なかった。


山内は、仲間の死亡を確認して横に首を振る隊員を悲痛な面持ちで見詰めた。


その後『C・V・U』の隊員達は、銃弾を喰らい血塗れのボロ布と化したファミリア達の死亡を、一体づつ注意深く確認した。


この凄まじい結界の中である以上、この中にヴァンパイアが混じっている筈もないが、万が一の事を考えての確認だ。


それに、仮にヴァンパイアでなくとも、生き残っている者がいれば、それは自分達の生命を脅かす存在となる。


だがどうやらファミリア達は、全員死亡している様だ。


無論全員が人間であった。


山内以下生き残った『C・V・U』の隊員達が、皆一様にゴーグルと耳栓を外す。


「隊長、生存者無しです」


山内が耳栓を取った事を確認した隊員の一人が、敢えて事務的に状況を報告した。


仲間の死の悲しみを堪える為、敢えて事務的に報告したのだ。


それが分かる山内が、ただ頷いて応える。


「今は悲しみに暮れている時じゃない。遺体の回収は後回しにして、金剛峯寺で応戦している部隊の援護に行くぞ!」


山内は、自らを奮い起たせる様に力強く叫んだ。


「はい!」


三人の隊員が声を揃えて応えるのを万感の思いで見詰めると、山内は踵を返して早川や和泉の居る金剛峯寺の出入口の方へ駆け出した。


三人の隊員もそれに続く。


黒煙の立ち上ぼる金剛峯寺の方角からは、未だ激しい銃撃戦の音が聴こえていた。

この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などにはいっさい関係ありません。


あとがき


ようやく、ようやく第十八章3節を書き上げる事が出来ました。


前回の投稿から約12日も掛かってしまいました。


仕事と家庭に追われ、なかなか執筆する時間が取れない上に、家族が病気になった事が気掛かりで執筆するモチベーションが上がらず、悪戯に時間だけが経ってしまい今話の投稿までこんなに時間が経ってしまいました。


なるべく早く更新したいのですが、落ち着くまでは一話投稿するのに約10日前後は掛かってしまうかも知れません。


ですが、これからも頑張って更新したいきますので、どうかお見捨てなきよう宜しくお願いします。

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