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第十七章1:襲撃前

     第十七章

    『襲撃前』

    1

俺はまた、夢を見ていた。


こんなの夢に違いねぇ。


まるで何かの映画の様な、凄まじい光景が広がっている。


たが、映画館に来てる訳じゃねえから、この光景が映画である筈がない。


それに映画にしては、何処か生々しいって言うか、リアル過ぎる気がするし、だいたいこんなハチャメチャな設定の戦争映画なんてこれまでに観た記憶が無え。


まあ最も夢なんだろうから、どんな設定でもアリっていやあ“アリ”なんだろうがな。


それに何だ? この場所は。


森だか林だか山なんだか分かんねえ場所に在る寺みてえな建物の前で、大勢の坊主やら戦闘服に身を包んだ奴等が戦ってやがる。


辺り一面には火の手が上がり、危ねえったらありゃしねえ。


戦闘服の奴等も、野戦用の迷彩服を着た奴等や、SWATが着る様な黒い戦闘服を着た奴等が、マシンガンやら何やら物騒な物をブッ放している。


そう言えば、黒い方は何か見た事のある戦闘服だな。


黒いベストやヘルメットには、白い文字で『C・V・U』と書かれている。


ああ『C・V・U』か……。


通りで見た事ある筈だぜ。


更には、黒いボディースーツみたいな服を着た奴等が、棒切れだの槍だの持った坊主達と戦っていた。


その黒いボディースーツを着た奴等の口許には、長く伸びた牙が生えている。


真っ赤に充血した眼に血管が浮き出た顔。


間違いねえ、ヴァンパイア共だ!


夢ん中だが、目を凝らして見ると、黒い戦闘服を着た奴等の中に、見た覚えのある顔を見付けた。


う~ん、誰だったっけ……?


俺は、男の顔や名前は覚えねえ主義だからなあ……。


でもこの四角い顔した人相の悪いオッサンは確か……、


そうだ!


佐々木のオッサンだ!


確か佐々木のオッサンだったよな……。


だけど、佐々木のオッサンが、何んで俺の夢なんかに出てくるんだ?


俺は、イイ女の夢しか見ねえ事にしてるのによ。


やっ、ヤベえ!


オッサン気を付けろ! 後ろから坊主頭のヴァンパイアが狙ってるぞ!


後ろだよ、後ろ!


早く気付けよオッサン! って……、


“んん?”


これって、夢なんだよなあ……。


イイ女の夢ならともかく、佐々木のオッサンが出てくる夢に何を熱くなってんだ?


そうなんだよな……。


夢なんだよな……コレ……。


 ……って、何か前にも同じ様に変な夢を見た事あったよなぁ……。


 しかもつい最近だった気が……。


そん時は確か……、


“カンカンカンカン……”


ーーんん? 何だこの音は……。


ーー誰かが階段を上がって来る様な……。


ーー何だ? まさかデジャブとか言うやつか?


ーーいや、逆に予知夢とか言うやつか?


“カンカンカン”


ーーと、とにかくまた俺に、何か凄え危険が迫ってる気がする。


“ドドドドド”


“ドンドン”


 激しいノックの音が聴こえた。


ーーヤバイ、奴だ! 奴がそこまで来ている……のか?


“ガチャ”


“バタン!”


「この馬鹿者ーっ! いったい何時まで寝ておる気じゃーっ!」


ーーや、ヤバイ! 早く、早く逃げろ俺!


“ズカズカズカ”


“ドガッ!”


 凄まじい衝撃が俺の頭部を直撃した。


「グァーッ!」


 俺はけたたましい悲鳴を上げ、以前と同じ様に、あまりの激痛にベッドから転げ落ちた。


 痛みで脈打つ頭を押さえながら、涙ぐむ目で何とか見開いた。


やはりデジャヴ……じゃねえ!


デジャヴ何んかより最悪の状況だ!


目を開いた先には、鬼の様な形相で仁王立ちする爺の姿があった。


ーーヤバイ!


ーーヴァンパイアよりおっかねえ面してやがる。


ーーだが逃げる場所は……何処にも無え。


ーーだいたい逃げれる訳も無え。


もう一度、ちらりと爺の顔を見たが、完全にブチ切れてやがる。


更に爺の後ろには、にやけた顔の熊が、デカイ図体で部屋の出入り口を塞ぐ様に突っ立っている。


熊とは、無論獣吾の事だ。


獣人と言えば普通“狼男”と相場が決まっているのに、あの野郎の変身した姿は、どう見ても熊にしか見えねえ。


僅かな記憶しか無えが、あの時見た姿は確かに“熊”だった。


爺と獣吾が相手じゃ、どう考えても逃げられそうも無え。


「 これはこれはお爺様、おはようこまざいます」


俺は、努めてにこやかな満面の笑顔を作って言った。


すると、


「この馬鹿者がー! 何が“おはようこまざいますじゃ”白々しい!」


“ゴン!”


そう言って、爺が頭をぶん殴りやがった。


ーー痛って~っ。


俺は、思わず頭を抱え込んだ。


二度の打撃で、頭がグラグラする。


「痛てえじゃねーか、このクソジジイ!」


俺は、痛む頭に手を当てたまま、思わず怒鳴った!


ーーしまった!


怒鳴った瞬間後悔したが、もう後の祭りだ。


「き~さ~ま~っ! ジジイと言うなと言うておろうが!」


まるで赤鬼の様に怒りで顔を赤らめ、爺が迫って来やがる。


「落ち着け、ジジ、いやお爺様。話せば分かる、話せばぁぁぁぁぁ……」


爺は、両手の中指を曲げて強く握り込むと、俺の頭を両側から挟み込み“グリグリ”をかましやがった!


「痛デデデデデデデデデデ……」


俺の頭を、指の一本すら動かせなくなる程の悶絶級の激痛が襲った!


これを喰らえば、ヴァンパイアでさえ悶絶しかねない程の激痛だ。


ブチ切れた時の爺の“グリグリ”は、全く容赦が無え。


ガキの頃から、俺が一番恐れている技だ!


何と言っても、“武神”と呼ばれる爺が繰り出す中指一本拳を使っての“グリグリ ”だ。


ホントに頭蓋骨に穴が空くか、砕けるかしちまいそうだぜ。


「まあ爺さん、その辺で許してやったらどうだ? 何か白眼剥いてるぜ」


獣吾の奴が、のんびりとした口調でようやく助け船を出しやがった。


ーー止めるのがおせ~んだよ、このバカ!


ーー図体がデカイから、血の巡りでも悪りぃんじゃねえねか?


「ん? ああ、この辺で勘弁してやるとするか……」


爺が、やっと我に返った様に“グリグリ”を止めた。


「全く心配ばかり掛けおって。無鉄砲にも程があるわい! だいたい貴様は昔から……」


ーーヤバイ、今度は爺の説教攻撃だ!


ーー爺のもう一つの必殺技だ!


ーーガキの頃、気絶するまで説教された記憶がある。


「ホントに貴様は○×△□※▼#……」


爺の説教は、まだ続いている。


ーーあ~うぜえ~。


「……○×△□※▼#……」


その内に俺は、段々と気が遠くなってきた……。


何となく三途の川が見えてきた気がする……。


「オイオイ爺さん、泡吹いてるぜ」


何だか遠くで、獣吾の声が聴こえる……。


「う、うむ。仕方ないのう」


爺が説教を止めた。


「まあお前も、友達をこれ以上巻き込まない為にした事じゃろうから、このくらいで許してやるとするかの」


次第にハッキリして来る頭に、爺の声が届いた。


「あ~あ、マジで死ぬかと思ったぜ」


俺は、更に“グラグラ”の酷くなった頭を擦りながら呻く様に呟いた。


見ると、爺の顔色が普段と同じに物に戻っていた。


その後ろでは、獣吾が苦笑いしてやがる。


ーーマジでひでえ目に遭ったぜ。


「それで、吸血鬼共の元へ赴いてからの話をじっくりと聞かせて貰うとしようか」


そう言って、爺がその場にどっかりと胡座を掻いた。


獣吾も、デカイ図体でその場に胡座を掻く。


野郎三人が座ると、狭い部屋が余計に狭く感じた。


「むさ苦しいったらありゃしねえぜ」


俺は、一言愚痴ると、帝都ビルで闇御前と交わした会話の一部始終を語った。


時計を見ると、時間は既に昼の一時を回っている。


高野山への襲撃は、あと数時間後に迫っていた。

この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などにはいっさい関係ありません。

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