月の少女
静かにゆれる風が深海を流れる。
深海には無数に輝く星たちが、人ではとても考えられないほどの時間をかけ、この地球に光りをもたらしていた。
そして、この地球に最も近い星。月からの光は一人の少女の髪を明るく照らした。月光の照らすそれは、まるで吸い寄せられるかのように光を含んでいた。
ビルの屋上から外界を見下ろす少女の視線は空を指していたが、しっかりと何かを見据えていた。
『あー、やっぱ来るのが遅かったみたいだね』
この静かな夜に響いた声は、少女のものではなかった。
『しかし、なんていうか、こっちはこっちであれだけど、相手さんも偉いモン持ってるねぇ~。こりゃ、ちょいとばかし辛いかもよ?』
少女の胸元からの声。そこには月を象った黄金色に輝く首飾りが掛けられていた。
「 」
少女は首飾りの声の主に話しかけたが、その声は夜の風に消えるほどに細かった。
『だね。まあ、しょうがないよ。遅れたぶんはこれから取り返せばいいさ。―――――で、どうするんだい? 何個かソルのお姫様に持ってかれちゃったみたいだけど』
「 」
顔色一つ変えず、少女は話し続けた。
『ふぅ~ん。でも、場所が限られているし、すぐに鉢合わせるかもね』
「 」
『そう、ま、それはそれで良いか。じゃあ、そろそろ休も? 今夜は少し冷えそうだよ』
その言葉に少女は静かにうなずき、夜の街に消えていった。