束の間の安息
「ふぁ、はぁ~~~」
盛大に伸びをし、あくびをする。
昨日の疲れが残りすぎている。少し動いただけで節々は痛いし、そこらじゅうが筋肉痛である。
「にしても・・・・遅いだろ」
何が遅いかというと、もちろん・・・
「つきちゃん、おはよぉ~!」
こいつである。幼馴染である。入江舞である。
「待ったぁ?」
「待ちまくったよ!」
午前8時20分。
これがいまの時刻である。あと5分でホームルームが始まってしまう。どう考えても間に合う気がしない。
「ごめんごめん、今日はどのリボンにするか迷っちゃってぇ~」
今日は昨日とは違い、水色のリボンをしていた。
「迷っちゃってぇ~、じゃねぇよ!まったく・・・・」
昨日、舞からメールがきて「明日の朝、7時50分に家の前で待っててねぇ~」とのことだったので、来てみればこれである。
「ほら、早く行くぞ」
舞の手をクイッと引っ張り走り出す。
「あ、ちょ、つきちゃん、待って~」
「待てね~よ。どう頑張っても遅刻するだろ」
「じゃあ、遅刻すればいいじゃん。走るの疲れるし」
こいつのその考え方は、世間に悪影響を及ぼすだろう。
「・・・あ・・」
そのとき、昨日出会った老犬が路地裏から出てきた。
「あ、昨日のワンさん」
老犬は目の前にやってきて、
「ワン!」
とだけ言い残し、路地裏へと帰っていった。
「なんだったんだ?」
「さぁ?」
二人で顔を見合わせ首をかしげる。
「っと、こんなことしてる場合じゃなかった。ほら!」
催促するように手を伸ばす。
「え~、結局走るのぉ」
悪態をつきながらも一緒に走る舞。
こうして、束の間の日常に戻っていくのであった。
その後、あの老犬を見たものはいなかったという。