終着点は出発点
眼下に見える町並みが流れていく。
空を蹴り加速する。
風を切る音。肌で感じるその風圧。
もう何度も空中走行を経験したが、やはり彼女たちのような速さを出すのは難しい。
商店街を飛び立ってからかれこれ二十分は経つ。目的地はかなり広い公園なので目に見えている。そして、数分ほど前からそこで行われている戦闘も。
「あとちょっと……」
目に見えるだけに焦りが出る。
二人は無事なのか。そして彼女たちは何と戦っているのか。
空を蹴る力に目一杯の魔力を込める。その一足で更に加速し一気にそこへと向かった――――――。
「アレス! ファル!」
勢いよく地面着地し二人の安否を確かめる。
「つきクン!」
アレスは対峙するメイから目だけを外した。その姿は防護服を身に纏っているのに武器を手にしていない。
ファルは彼女の後ろで魔法陣を展開し、目を瞑り集中している。
どうやら二人とも無事のようだ。
「メイ、どうして君がここにいるんだ」
彼女に向き直り問う。
「はぁ、その質問はもういいよ。それに、一応目的みたいなのも……」
と、メイは急にメイは口を閉じた。
「なんだこれは……」
メイは一転して戦闘体勢を解きまわりを見渡した。それは彼女だけでなくアレスも同じようにしている。
「ど、どうしたんだ?」
「わからない。でも、何か……変……」
「変って、だから何が……?」
同じく見渡しても何がどうなっているのかさっぱりだ。
と、その瞬間、俺でもはっきりとわかるほどの魔力の流れを感じた。
その流れる方向を見る。それはファルの魔法陣からだ。
「おい、ファル! 大丈夫か?」
「いえ、これは、まずいかもしれません」
「まずいって具体的にどういうことだ?」
「詳しくはわかりません。ですが、この魔力の流れは広場全体を包んでいます。今のうちに何とかしなければ、何が起きるかわかりません」
ファルが魔法陣に両手を置くと、それは更に輝きを増した。だが、変わらず魔力は流れ、更にその速度を増していく。
「――――――っ」
まるで風のように感じる。身体の中を洗い流すように。
そして――――――
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景色が変わった。
まるで映画のシーン切り替えのような場面の切り替わり。
一体全体どうなっているのか。辺りを見るとそこは学校の昇降口で、何か変わった様子は見られなかった。
あの広場からここまで一瞬で移動した時点でおかしな話ではある。もちろん空間転移は使用していないし、使い方もあれ以来わからない。
考えるとするなら、ドディックジュエリによる影響で空間を転移した可能性が高いだろう。
「よっ、いきなりで悪いがこいつをもらってくれ」
すると、急に現れた鈴木がまっさらな小さい封筒を渡してきた。それは先ほど鈴木に貰ったものと同じ封筒のようだった。
「な、なんだ、また何かやろうとしてるのか?」
サプライズ誕生会がまだ続いているのだろうか。しかし、千草はあれで終わりだと言っていたはずだが、どういうことだろう。
と、そんなことはどうでもいい。今はドディックジュエリを何とかしなければいけないのだから。
「すまん、俺ちょっと急いでるから……」
立ちふさがるように立つ鈴木の脇を通りそのまま外に出ようとしたのだが、誰かに服を引っ張られ仰け反るようになる。
「つきちゃん、ちゃんと話しは聞かないとダメだよ」
服を引っ張った犯人はあなたでしたか入江舞さん。
「ってお前、学校に戻ってきてたのか。なにやってるんだこんなところで」
「はう! 酷いよつきちゃん。これから一緒にお出かけするんでしょ」
「は?」
それはさっきやったばかりではないか。そう言おうとしたのだが、その前に別の声にかき消された。
「うおぉい高村! それはここぞという時に開けろ。もし今開けようものなら貴様は呪い殺されよう。主に二次元を愛す者達からな!」
それは言うまでもなく佐藤だった。
「似たような台詞をさっきも聞いたぞ」
「そうか? まぁ気にするな」
「気にするだろそこは……って、ああもう。今はそんな場合じゃないんだって」
こいつたちの言動がおかしいのはいつものことだ。それよりも早く状況を確認すべきである。
なぜ学校へ飛ばされたのか。他の三人はどこへ行ったのか。
場所がわからなければ念話は使えない。公園の方へ飛ばしてみたが、案の定繋がらなかった。やはり全員が散り散りに飛ばされたのだろうか。
「ねえつきちゃん、早く行こうよ」
色々と考えを巡らせていると舞が服を引っ張ってきた。
「行くってどこへ?」
「だぁかぁらぁ、放課後は私とお出かけするって約束だったでしょ」
「いや、だからそれはさっき……」
待てよ。なんだこのありがちなシチュエーションは。今時漫画でもこんな展開はないぞ。
だがしかし、そう考えると色々と辻褄が合ってくる。
まず一番最初に気になったのは自身の身につけているものだ。公園から直接飛ばされたのであるなら、なぜ上履きを履いているのか。そして、舞に貰ったはずである腕輪がなくなっていた。
更にもう一つ。太陽の位置だ。公園に着いたときには、既に太陽は山に向かって沈みかけていた。だが今はまだ上のほうで輝き暑さを振りまいている。
そして何より、こいつらの言動がどう見ても先のやりとりと同じである。
そんなことが果してありえるのか。何でもありなドディックジュエリならば考えられる、と今は納得するしかない。念のために時間を確認するが、校門の横に立てられた時計は三時半を指している。三時半と言えば授業が終わってまだ十分しか経っていない。
「まじかよ……」
時間旅行。
文字通り時間の旅行だ。現在から「過去」「未来」のいずれかに移動する。
時間旅行を行うと平行世界の枝を増やしてしまうため、世界に掛かる負担が大きくなってしまう。それを防ぐために時間旅行は禁止されている。
そう、禁止されているのだ。つまり理論上は可能である。それが起きてもおかしくはないということだ。
だが、今は世界の負担を気にしても仕方がない。その前にやるべきことがある。
「ルース、聞こえるか?」
家に向かって念話を飛ばす。
本当にこれが時間旅行であるなら、彼女たちは部屋にいるはずだ。
『どうしましたか?』
「繋がった……じゃなくて、そっちは大丈夫か?」
『大丈夫か、とはどういうことですか』
「……え……」
何かおかしい。なぜ彼女はこんなにも平然としているのだ。
もともと冷静ではあるが、時間旅行という大事が起きて普通にしているなんておかしい。
「さっきドディックジュエリに飛ばされて……」
『ドディックジュエリですか? 飛ばされた、と言うのは具体的にどういうことなのですか?』
変わらずルースは落ち着いていた。
「だから、朝日公園でドディックジュエリが暴走して、それで……」
『朝日公園……。ツキミさんは今そこにいるのですか?』
「いや、そこから飛ばされて学校にいるんだけど」
『学校にですか。しかし、なぜそんなところにいたのですか? それに私たちはドディックジュエリの反応を感知していません』
やはりルースの言葉もおかしい。明らかに今までの出来事がなかったように話している。まさか、飛ばされたのは俺だけなのだろうか。
「ちなみに確かめたいんだけど、アレスとファルもそこにいるよな」
『ええ、いますけど』
「無事なんだよな」
『確かに「無事」と言う言葉を使うことに間違いはありませんが、なぜそれを聞くのです』
その質問は彼女からしたら当然のことなのだろう。だが、こちらからしてみればおかしいのは彼女たちなわけである。
「家に戻って状況を説明すべきか……」
しかし、隣にいる舞やこの先向かうであろう喫茶店で待ち構える千草を放っておくのも気が引ける。
もしかしたら今度は何も起きない可能性もあるし、それを止める手段も見つかるかもしれない。
「ありがとう、ルース。それじゃあ、またあとで」
『はぁ、そうですか』
ルースの気の抜けた声を最後に念話を終える。
本当に時間旅行が行われたのかも確かめたい。ともかく、その時が来るまで待ってみることにした。
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喫茶店に向かい、サプライズ誕生会を終え、ちょうど店を出たところ。
全て俺が過去に経験した内容と同じであった。デジャヴとは違う、既視感のように見覚えがあるのではなく、確実に何が起きるのかわかる。これは間違いなく時間旅行が行われたといっていいだろう。
そして、時間旅行が確実に行われたとするならば、そろそろドディックジュエリの反応があるはずだ。しかし、それを待っていては同じになってしまうので、反応が出る前に向かうことにした。
「あ~悪いんだけどさ、このあとちょっと用事があるんだよな」
コスプレグッズの入った大きな袋を抱え直す千草に向かって言う。
「え、そうなの? もしかして別で誕生会が……ってそれはないか。自分で忘れてたんだもんね」
「忘れていたからこそ用事が入ってしまってるわけだ」
笑いながらそれらしい事を言って誤魔化す。
「そっかぁ、この後も遊ぼうと思ってたけど、それじゃあ仕方ないよね」
舞は残念そうにして言った。
「悪いな、それはまた今度の機会ってことで。その時に千草の誕生会のことも考えよう」
「へ? 私の? なんで?」
「何でって、さっき話して……」
いや、話していない。その話をしたのは時間旅行が起こる前のことだ。
「あ、ああ、いや、俺も舞もしたんだから、皆もやらないとなぁ、っていうこと」
「ああ、そういうこと。別にいいのにそんなこと気にしなくて」
「いや、気にするって……って、ああ、だからそんな時間はないっての」
小さく自分に言い聞かせると、無理やり話を切った。
「その話もまた今度で。じゃあ」
と言ってそのまま商店街を駆けていく。向かう先はもちろん朝日公園だ。
時間は前より十五分ほど早い。これならば、アレスとメイの戦闘の前に到着できるかもしれない。
空を蹴り一気に加速し朝日公園へと向かう。その途中でドディックジュエリの反応らしきものを感じ、それと同時にルースから連絡があった。先ほどの会話で朝日公園の名を出していたのでその事も聞いてきたのだ。
「簡単に説明するとだな、どうやら俺はタイムトラベルをしたようなんだ」
『はぁ、タイムトラベル……ですか……』
ルースは明らかに信じていないという風な口ぶりだった。
「いや、本当だからな」
『ですが、その証拠を確認していないのでなんともいえません』
勿論その通りなのだが、今は信じてもらうほかない。
『まぁ、仮にそのタイムトラベルが事実だとするならば、今回のドディックジュエリの反応とどう関係があるのですか。まずはそれを教えてください』
「あ、ああ、そうだったな」
こういう時に話を冷静に聞いてくれる人間は実にありがたい。
まずは何が起きたのかを詳しく話すことにした。そして全てを話し終えるとルースが口を開く。
『よくわかりませんね』
「俺の今までの説明はなんだったの!?」
『いえ、ツキミさんの言ったことは理解しましたが、なぜタイムトラベルが起こったのかという原因がそこからはわからないのです』
時間旅行の魔法は理論だけしか存在しないため、実物を見たところで理解できるかは不明だと彼女は言う。俺が説明した中にそれがあるのか、それとも別の要因なのか。
『その瞬間を待つのが一番手っ取り早いかもしれませんね』
ということで話の続きは公園に着いてからすることになった。
――――――
「ドディックジュエリがあったのはこの辺りだよな」
先に着いたのは俺のほうだった。相変わらず誰もいない公園で、逆にそれがありがたい。
「これか……」
大きく窪んだところにある二つのドディックジュエリを見つけるが、俺にはどうしていいのかわからないのでそのままにしておくことにする。
問題はこのあと起こるであろう時間旅行だ。
何を原因にして起こるのか。
どうすればそれを防げるのか。
それを考えなければいけない。
「つきクン!」
と、俺の名を呼ぶアレスの声が上のほうからした。空を見上げると、ファルと共に地上に降り立つところだった。
「アレス、ちょうどよかった。今、ドディックジュエリを見つけたんだけど」
「うん、わかった。それじゃあゲレータの中に入れておくね」
と、アレスが二つのドディックジュエリに手を触れようとしたところ、放電のようなものが起きた。
「きゃっ!」
三人で身構えるが、特に何かが起きるわけでもない。
『これは結界ですね。ランクで言うなら最低の一ですが、これを確保するためには結界を解かなくてはなりません』
「結界を解く、ってどうやってやるんだ?」
説明をするルースに質問をする。
『使用者と別の人間が結界を解くには、それなりの手間と時間がかかります。まずは結界の中心に魔法陣を描くのですが……』
その結界はドディックジュエリ二つ分の大きさなので、恐ろしく小さかった。その中心なんてどこにあるかわからない。
「私がやりましょう。これくらいしか役に立てるものがありませんからね」
と、ファルが代わるようにドディックジュエリの前に立った。
「結界の中心がわからなければ、結界全てを魔法陣で囲めば大丈夫です」
ファルは言う通りに魔法陣を指で描いていく。
後は魔法陣へ魔力を送り込み、そこで解除するための魔法を組み立てるらしい。その手順はかなり面倒らしく、俺では組み立てるのが無理そうだ。
「ゲレータで魔力を組み合わせても、範囲が違うので上手く解除ができないのですよ」
そもそも、魔法陣とは魔法の増強のためにあるのだが、範囲の指定も兼ねているので、それが必要な魔法だとゲレータを通して作ることができないのだとか。
魔法の何たるかを知らない俺では、ゲレータを頼るしか魔法を行使できない。できても簡単な初級魔法だけだ。
「魔法って難しいな」
「だからこそ、ゲレータは必要不可欠なツールであり、反面それだけに頼るのもどうなのかという意見があるのです」
魔法がある生活と言うのも色々あるようだ。
そして、ファルが作業しているのを見守っていたのだが。
「あれ、このままだと……まずくないか?」
そうである、このままでは前回と同じになるではないか。
『今のところタイムトラベルの要因になりそうなものはありませんし、私からは何とも言えないのですが』
一番の問題はそこなのだ。時間旅行の魔法がどんな魔力の組み合わせで、どういった要因でそれが起動するのかいまいちわかっていない。
しかし、このままだと同じ事を繰り返すだけである。
「結界を解除しようとしてなったんだから、それを放っておくっていうのは?」
『それこそ本末転倒でしょう。どの道ドディックジュエリがタイムトラベルを引起すのならば、確実に解除し確保する必要があります』
「そう、だよな……」
ならばどうすればよいのか。
悩んだところでわかるはずもない。知識のないところから解は出ないのだ。
そうして頭を悩ませているとアレスが突然変身し、炎槍を構えたかと思うと同時に鈍い金属音が響いた。
「――――――っ! メイ、どうして……」
「どうしてここにいるかって? さあ、なんでだろうね」
アレスが炎槍でメイの拳を弾くと、彼女は飛ぶように下がり音もなく着地した。だらりと腕を下げ構える様子も無い。
「はぁ、私が聞きたいくらいだよ」
「「は?」」
アレスは俺と全く同じ反応をしていた。それこそどういうことなのだと問いたい。
「まぁいいさ。あんたたちが邪魔になるのはわかってるんだし、ここで痛めつけておけば少しは楽になるかもねぇ」
一転してメイは拳を構え、その拳に魔力を纏い硬質化する。
対するアレスも炎槍を短く構えた。
睨みあう二人。いつ戦闘が始まってもおかしくない。だが、今はそんなことをしている場合ではないのだ。一刻も早く時間旅行の原因を突き止め、それを止めなければ。
「ちょっとストップ! アレス、お前は今がどういう状況か知ってるだろう? だったらそんなことやってる場合じゃない」
「だ、だけど、このままじゃ……」
事情の知らないメイは何をしているのだという風な目で見ている。
ここは彼女にも話をしておくべきだろう。
「いいか、よく聞いてくれ。今のこの状況は、実は二度目なんだ」
「はぁ?」
今度は彼女がその反応をした。いや無理もない。それは当然の反応だ。
時間が無いので簡潔に詳しく説明することにした。
「――――――タイムトラベルねぇ」
話を聞いたメイもやはりにわかに信じ難いようだった。
「信じろって言う方が無理だと思う。でも、可能性としてあるかもしれないなら、少しは待ってくれてもいいだろ?」
「ふん、好きにしたらいいさ。こっちも、絶対にやらなきゃいけないことじゃあないからね」
メイは両の拳を下げると、何の警戒も無くこちらに近付いてきた。
「な、何だよ?」
「タイムトラベルの原因を探るんだろう? そんくらいは手伝ってやるよ。こっちが知らない間に何度も同じ時間を繰り返すなんてアホらしいこともないからね」
言うとメイはファルの魔法陣を覗き込むようにした。
「特に変わりはない。魔力の流れも、ファルの展開する魔法陣とドディックジュエリの結界、結界解除の三つだけで、他は何もない」
ならばどこに要因があるのか。メイはしばらくその三つを見つめ続け考え込むが、答えは出ないようである。
「ルースとアレスも何かわかったことはないか?」
二人にも聞いてみるが、時間旅行の要因となりそうなものはどこにもないと言う。
「くそ、どうしたらいいんだ……」
何の解決策も無いまま時間だけが迫る。先と同じであるなら、あと数分もすれば時間旅行が行われてしまう。どうにかして防ぐ方法はないものか。
そもそも、時間旅行とは一体何なのか。魔法としての確立はともかく、それ自体の仕組みは理解できているとルースは前に言っていた。ならばそこから知る必要があるのではないか。
『タイムトラベルの仕組みですか? 簡単な話ですよ。意識を過去に飛ばすのです』
「意識を過去に飛ばす?」
『ええ、これは空間転移にも言えることなのですが、物質を線ではなく点と点で移動する時、移動先の地点には何もない状態でないといけないのです。文字通り何もない状態ですよ? 目に見えないもの、手で触れられないもの全てを含むものが存在してはいけません。でなければ、移動する物質が移動先のそれと融合してしまうからです。これらの事を考えて、タイムトラベルでの物質移動は禁止されています』
もっとも物質の点転移など不可能だとされていますけどね、とルースは最後に付け加えていた。
そこで考えられたのが意識の移動。もっと厳密に言うと、記憶を過去に送るのだ。物質としての移動ではなく、過去の自分がその時点で未来の自分の記憶を持つようにする。
なんだかわけがわからないが、それが行われることによって未来を知った記憶を持つ過去の身体は、正しく時間旅行をしたと言えるだろう。
だがしかし、記憶を過去に飛ばす方法などありはしない。故に時間旅行は仕組みだけの存在なのだ。
『単純な記憶のコピー&ペーストでさえも未だ不完全であるのに、時間を遡ってそれを行うなど不可能でしょうね。ドディックジュエリならば可能かもしれませんが、ヒトがそれを行うには一体どれ程の年月が必要になることか』
エリザベッタさんがドディックジュエリに頼るのもこれが要因の一つと言うことか。
ともかく、時間旅行の仕組みはわかった。
今の時点で不可能だとされている過去への記憶の移動。それをどのようにするのか理解できなくてもいいので、それが起こるなんらかのモノが見えれば対処の仕様があるかもしれない。
「タイムトラベルが起こる瞬間に、その魔法陣から妙な魔力が流れた。もしかしたらそれがヒントになるかもしれない」
『その可能性は大いにありますね。それをどのように対処するかは、今の時点ではわかりませんが……』
今はその瞬間を待つしかない。それ以外の方法が見つからない以上、どうにもできない。
願わくば、時間旅行と言う不可思議な現象が自身の錯覚であると思いたい。それが起こらずそのまま時が流れることを祈る。だがしかし――――――
「……っ!」
風が流れる。否、これは魔力の流れ。自身でもはっきりとわかる、身体を透き抜ける魔力。
同じだ。先の時間旅行が起きた時と同じである。
「ルース! これが時間旅行の原因かもしれない」
『確かに、これは異常ですね。魔力がこの公園内を風のように巡っている……!』
風の流れもとい魔力の流れは、やはり魔法陣からである。どういった理屈でそれが起こっているのか、考える暇は無い。
「くっ!」
意識が削られていく。
ここではない何かに向かって――――――