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魔法少女代行つきみ ~交差する太陽と月~  作者: てらい
第一章 墜ちた太陽と月
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魔法少年はじめます

 サーッと暖かい風が吹く。春先の心地良い風とは違い、夏の訪れを感じる生ぬるい風だ。流れるそれは妙に肌にまとわり付く。嫌な風だなぁ、と思いながら先程の出来事を思い返していた。

 あのとても信じがたい話を聞いた後の、ルースとの会話だ。


『さっそくですが、外に出ましょう』

「随分といきなりだな……とりあえず理由わけを聞かせてくれ」

『勿論、ドディックジュエリを探しにいくのですよ』

 勿論、と言われても、俺にはとっては勿論ではない。

 そもそも、そのドディックジュエリとやらはどうやって探すのだろうか。まさか、こんなに小さな石ころを、町中歩き回って探せって言うのではないだろうか。と不安を抱いたのだが、

『そうですね、できればそうしていただきたいのですが、恐らくその方法で見つけ出すことは不可能に近いでしょう』

 どうやらそれは免れそうだ。しかし、それならばどうやって探すのか。

『ドディックジュエリの魔力を探れば何とかなります。ともかく、いったん外に出て魔力を探ってみましょう』


 その言葉に従いこの住宅街にやってきた。ちなみに、アレスは部屋においてきた。まだ動くのはつらいそうだ。

 なんでもこの辺りに漆黒の石、ドディックジュエリの反応がわずかながら感じ取れるらしい。

 家からは歩いて10分もかからない場所。ちょうど学校への通学路の途中にあり、ついさっきも通ったばかりだ。

『この周辺からドディックジュエリのエネルギー反応を感じます』

 彼女の言葉は相変わらず淡々としていた。彼女と話をしていると、どうも危機感を感じない。だが、その彼女の態度が昨日のあの出来事のことを思い出させ、今の状況が現実であると思わせる。

「もっと詳しい場所とかわからないか? 見たところ変わった様子は無いみたいだけど」

 やってきたはいいが、異変らしい異変は見られなかった。

『申し訳ありません。反応は感じるのですが、位置の特定は難しそうです』

「そうか……」

 ドディックジュエリは、本来それだけでは魔力の反応さえ感じ取れないものだとか。しかし、昨日のように暴走をはじめるとその魔力、エネルギーは一気に増大するそうだ。

「でも、それっておかしくないか? だって暴走しないと反応は感じないんだろ。だったらなんで今その反応を感じているんだ?」

 今、彼女がドディックジュエリの反応を感じているということは、暴走しているということ。あんな怪物が近くにいるのだとしたら、俺にだってわかるはずだ。

「……!」

 突如感じたズンと何か重圧をかけられるような感覚。なにかはわからない。だが、なにかがこの住宅街一辺を覆った。

『ツキミさん、上です!』

 急に声を上げた彼女。その指示に従い上を見る。

 スッと黒い影が体を覆い、自身めがけて落ちてくる。

「のわっ!」

 すんでのところで影をかわし、ザッと地面を転がる。

 さっきまで自分のいたところに、ストッと黒い影がきれいに着地した。

「あれは……?」

 黒い影は昨日の怪物と同じように、黒く禍々しい形をしていた。回りを覆う闇は、まるで揺れる毛並みのように風になびいていた。鋭く尖った牙と爪。三角の耳をヒクヒクさせ、尻尾をフリフリしている。

 なんか可愛いんですけど。

「イヌ、いや狼か?」

「〓〓〓〓〓! 〓〓〓〓〓〓〓〓ワン!!」

「イヌか……」

『ツキミさん、変身の仕方は覚えていますね』

「え、あ、えーっと、覚えているには覚えているが……」

 またあの恥ずかしい台詞と格好をしなければいけないのかと思うと、少し気が引ける。

『ああ、あの変な台詞でしたら言わなくても大丈夫ですよ。あれは、いわば私との契約の証。あなたが私を受け入れるためのものですから、二度目は必要ありません。プロテクトスーツについてですが、変身時にあなたの意思を反映させてもらいますので、どのようなものにするか考えていてください』

「そ、そうなんだ。ちょっとだけ安心した」

 もしかしたら、このままずっと女装し続けなければいけないのでは、と不安が残っていたが、その心配は無いようだ。

「よし、じゃあいくぞ!」

 首にかけられた彼女を手に取り、静かに言葉を口にした。


「プロント ――――― ルース・ド・ソル ――――― トランスフォーメジオン!」


 同時に光が体を包む。まるで別の次元に隔離された気分だ。

 手、足、胴、腰、全身を白いスーツが覆う。スカートはズボンへと変わった。やや大きく広がった袖と裾に青と黄色のラインが。胸についていたリボンはなくなり、髪型もツインテールではなくなった。背中にひらりと揺れるマントは変わらず紅く燃えている。

 次第に光は消えてゆき、現実へと戻される。そして、ぱちりと目を開け目の前の敵に焦点をあわせた。

「俺を敵に回したこと、後悔するんだな」

 右手に握られた彼女をビシッと突きつけた。

『……はぁ』

 何故かため息をつくルース。

「やああぁぁ!」

 しかし、そんなことはお構いなしである。

 右手に作り出したエネルギー弾を怪物にめがけ投げつける。ヒュンと空を切るそれは、まっすぐに怪物を狙う。

 だが、怪物はそれを華麗にヒョイとかわすと、かすりもせず後ろの塀にぶつかった。ガラッと瓦礫が崩れる音がし、そこには小さなクレーターができてしまった。

「あ……えっと、ごめんなさい」

 とりあえず謝っておこう。

 その後も何度も怪物を狙うが、当たるどころかまったく見当違いのところへ飛んでいってしまう。そして、辺りにはいくつものクレーターが完成していた。

「だーもう! ちょこまか動き回りやがって」

『下手な鉄砲、数撃ちゃ当たる。って、わけにはいかないようですね』

「あぁ、くそっ、なんかいい方法ないか?」

 なかばやけくそになって投げ続ける。しかし、投げれば投げるほどクレーターの数が増えるだけだ。ホントごめんなさい。

『それでは、なにか違う方法で戦ってみてはどうですか?』

 違う方法といわれても、戦闘経験のない自分には到底思いつかない。

『ちなみに、私の変形機能は、重火器はもちろん、打撃、斬撃の近接武器。遠距離に対応した弓なんかにも対応しています。近代兵器から原始武器まで何でも取り揃えてあります』

「って、そんなに言われても、どうすればいいか分かんねぇよ」

『そうですね……それでしたら相手の特性に合わせて、有利なものを選んでみてはいかがでしょう』

 いかがでしょうか、って洋服店で接客する店員さんみたいな言い方で進められても困る。

「相手の特性に合わせた武器か……よし、ならあれしかないな」

 考えに考え抜いた結果、ある一つの結論にたどり着いた。そして、構えていた彼女をスッと下ろす。


 再び目を閉じる。

 まっさらな彼女の中。その中に自身の望む姿を見出す。

形態変化モードチェンジ……」

 言葉をつぶやく。言葉自体に意味はない。これは自身が魔法発動させるためのきっかけに過ぎない。

 彼女の中にあるそれを掴み、取り出す。手に握られたそれをイメージし、

「―――――フォームランシア」

 具現化させる。

 杖の形であった彼女はまばゆい光に包まれ、イメージされた形へと変化する。

 身の丈を優に超える長槍。これを扱えるものがいるとしたらそれは歴戦将のみだろう。自身には過ぎたるものだ。しかしそれを選び取った以上使いこなせなくてはいけない。

 矛先は鋭く光り、夕日が照らすそれはその名に恥じぬほど燃え盛っていた。

 その紅く燃ゆる炎を敵へと向ける。怪物は向けられた炎を凝視する。それがはっきりと向けられた敵意だと理解する。

「さあ、はじめるとするか―――――この槍はちぃとばかし熱いぜ」

 風のごとく一足で間合いをつめる。

「だあぁぁあ!」

 疾風の一突き。

 目にも留まらぬ熱風。しかしそれは触れることなく軌跡を残す。その軌跡は熱で揺らいでいた。

「〓〓〓〓!」

 華麗に回避した怪物は、漆黒のたてがみを揺らし鋭き爪を振り下ろす。

「……くっ……!」

 それを槍で弾き、なんとかやり過ごす。

 疾い。人間では及ばない機動力。その動きは単純な速さではなく、人の構造では届かないものだ。

「〓〓〓〓〓〓〓〓!!」

 弾かれた怪物はすぐさま反転し、獅子のごとく勢いで牙をむく。

「ちっ……!」

 ギィンと刃の軋む音がする。

 一撃、二撃と猛攻が続く。

「くっそ……っらあぁ!!」

 負けじと反撃するも全てがかわされる。そして―――――

「はぁはぁ、っ……はあ……」

『大丈夫ですか?』

「大丈夫、そうに……はぁ……見える、か?」

 もともと運動すらしていなかった人間だ。いくら魔法を使えるようになったからといって、身体能力が上がるわけではない。怠けきったこの体はただの数合でへばりきっていた。

「くっそ、槍なら速さで負けないと思ったのに」

『なぜそう思ったのですか? これだけの長い槍相当の長身にしか扱えません。あなたの力では槍の全てを活かしきれませんよ』

 相変わらずのしれっとした声で言った。遠まわしに身長が低いと言っているのか? そうなのか!?

「あーもう! わかってるって」

 そんなことは百も承知だ。それでもなおこの槍を選んだ理由がある。

 この身の丈をはるかに超えるリーチ。相手の武器キバはこれには遠く及ばない。ならば相手の攻撃が届くことは無いと。

 実際、奴の攻撃は届いてはいない。反撃されても全てを防ぎきっている。

 問題は防御面ではなく攻撃面。疾風のごとき一撃を放ってもそれはかわされてしまう。

「どうしろってんだよ!」

 怪物の猛攻は続く。ただそれを防ぐことしかできない。

 反撃しようにも当たらなければ意味が無い。

 なにか違う別の攻撃方法があれば……

「……」

 別の攻撃方法? 何を言っているのだ俺は。たくさんあるじゃないか。俺はいま魔法使いなのだから。

 律儀に槍の戦い方で戦う必要は無い。

「ルース、この形態でも魔法は使えるよな?」

『私を誰だと思っているのですか? 戦闘に特化されたゲレータですよ。たとえどのような形態であろうと、攻撃魔法は使えます。というか、攻撃魔法しか使えません』

 初めて聞くことばかりに何かを言いたかったが、今はそんな場合ではない。それに、魔法が使えるとわかっただけでも十分である。

 なにも、攻撃を届かせる必要は無かった。奴はむこうからわざわざ向かってくるのだ。ならば迎え撃てばいいだけのこと。ただしそれができていなかったから苦戦していたわけだが、魔法が使えるとわかった今は違う。気づくのが遅いけど。

「さあ来なイヌ公……熱いのをお見舞いしてやるぜ」

 槍をもつ手を天へと掲げる。

『この形態で使える魔法を教えていませんが大丈夫ですか?』

「問題ない! そんなものは気合で何とかする!!」

 はぁ、と、再びため息をついたルース。

 掲げた槍をブンッと大きく回転させ、徐々に加速させていく。空を裂く熱槍は轟と風を鳴らし暴風を生む。

 吹き荒れる熱風。生み出された熱の嵐は画面けしきをゆがませる。

 暴風は体を包み天へと上る竜巻へと変わる。

『のわっ! ちょ、無理やりすぎ!! ってか回しすぎぃぃぃ!』

「ぬぅおるぁあああ!!」

 巻き上がる旋風は一気に膨張し、あたり一帯を壊しつくした。

 道路のコンクリートがえぐれ、塀も砕かれ、住宅のガラスは砕け散り、瓦が宙を舞う。

 怪物も例外なく嵐に巻き込まれ、瞬く間に消滅した。

 

「ぜぇ、はぁ……や、やってしまった……」

 住宅街はもはや見る影も無く、廃墟となってしまった。

『ぁぁぁ、目が、目があぁ!』

 そしてルースはいろんな意味で逝ってしまわれた。

「な、なぁ、これってどうしたらいいと思う?」

『ぁう、ど、どうもしなくても大丈夫でふぅ』

 若干ろれつが回らなくなっている。本当に大丈夫なのだろうか。

「どういうことだ?」

『ま、まぁ、見ていて、くださぃ』

 とルースが言い終わる前に、なにかが起こった。何がどうなったか理解できなかったが、いま目の前に広がっているのは崩壊する前の住宅街だった。

「な……!」

 一瞬だった。いや、瞬きすらしていない。

『これは恐らく結界です』

「結界?」

『いままで私たちが戦っていた場所は、ドディックジュエリが作り出した結界内だった、ということです。その結界内は現実から切り離された場所。つまり、こことはまったく無関係の場所に私たちはいたわけです』

 それってつまり御都合主義ってことか。

「でも、結界を張ってるようなところは見なかったけど」

 怪物が現れたときから、相手はそんな様子を一度も見せてはいなかった。だとしたらいつ結界を張ったのだろうか。

『奴が現れる直前、なにか感じませんでしたか?』

「そうか、あのとき……」

 そう、あいつが現れる直前、どこからか重圧をかけられるような感覚を覚えた。

『恐らくそれでしょうね。奴が現れる直前、いままで感じなかった魔力が一気に増大したのです』

「……」

『なにはともあれ、二つ目のドディックジュエリを確保できました』

 全てが元通り(実際はなにも起きていない)になった住宅街の道端に、漆黒に光る小さい石が落ちていた。それを拾い上げ、ポケットへといれる。

『ご苦労様です。今日も魔力を大量に消費したと思いますので、早めに休息されることを提案します』

「ああ、そうするよ」

 ルースに言われ、急にドッと疲れが襲ってきた。

 こりゃまた記憶が飛ぶかもしれない。

 あまりしっかりとしたとはいえない足取りで、家路に着くのであった。


「あ、お帰りなさい。どうだった?」

 部屋に戻ると、薄暗くなった部屋でアレスが出迎えた。暇を持て余していたのか、今はもう使わなくなった鉛筆削りの取っ手部分を、ひたすらに回し続けていた。

 扉の横にある電気のスイッチを押し、ベッドの上へ腰掛ける。

『結果は上々、といったところですかね』

「へ~そうなんだ。やっぱりルースの言うとおり素質があるのかもね」

「いやぁ、それほどでも・・・・」

 普段から褒められ慣れていないせいか、どのように反応してよいのか困る。少なくとも悪い気分ではない。

『そうですね、素質は十分あります・・・・十分すぎるくらいですが』

 彼女は最後に何かを付け足したが、その言葉は聞き取れなかった。

『いえ、何でもありません。・・・・・・素質「は」あるというだけなので、実力は下の下ですね』

 ひどい言われようである。

「結果は上々じゃないのかよ」

『勿論、結果だけならです。あなたの戦い方を評価するなら最低レベルでしょう』

「・・・・んな!?」

『とは言いましたが、一般の、それも魔法が存在しない世界のあなたにしては上出来です。これならば、ドディックジュエリの収集も予定通り行うことができるでしょう』

 褒めているのか貶しているのか、一体どっちなのだ。

「よかったー、これで一安心だね」

『・・・・マスター、元々はあなたがあんなヘマさえしなければ、何の問題も無かったのですよ。そもそも、あなたは一国の姫であると同時に、国をいえ、星を代表する戦士なのです。前にも言いましたが、あなたには自覚が無さ過ぎます。その辺のこと、よくお考えになって下さい!』

「は、はい、以後気を付けます・・・」

 アレスの犯したヘマというものが少し気になったが、それを聞く気にはなれなかった。よほど疲れているのか、眠気が一気に襲い、少しでも早く眠りにつきたかった。

『ツキミさん、疲れているのなら休まれたほうが良いですよ』

そんな俺の気持ちを察したのか、ルースは珍しく優しげな声で言った。

「ああ、そうするよ」

その言葉に甘え、深い眠りにつくのであった。

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