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学校生活は相変わらず

『おはようございます、ツキミさん』

「ああ、おはよう」

 いつものように彼女との朝の挨拶を済ませる。朝食をとるために居間へ向かおうとしたところ、今日の授業の準備をしていなかったことに気付き、慌てて鞄の中に教科書やノートを詰め込み始めた。その様子をフレッドが見ており、

「学生は大変だね」

 と、口にしていた。

 軍人の方が大変だと思う、とは口にせずに、予定表を確認しながら続けて教科書とノートを詰め込んだ。フレッドは椅子に足を組んで座りその様子を見守る。この椅子がフレッドの定位置になりつつあるので、勉強机を使う機会が一気に減った気がする。元々あんまり使ってないけど。

「――――――ん?」

 ふと、何か違和感のようなものを感じた。何だろう、何がおかしいのだろう。何かがおかしい事に気付かないほどに、それは日常的であったのか。

「どうしたんだい?」

 様子がおかしいと感じたのかフレッドは俺に問いかけた。

「ん~、なんかちょっと変な感じがしたんだよ。違和感っていうかなんていうか」

『違和感ですか。なんでしょうね、魔力的な要因はないと思いますが』

 と、ルースは部屋の中をなにやら探っているようだった。

「――――――んん!?」

 ルース? 何で彼女がここに? 彼女は昨日帰ったアレスと一緒にいるのではないのか?

 頭の中で昨日の記憶を辿ってみても、彼女がこの部屋に現れた記憶はなかった。だとするなら、一体いつの間にここに来たというのだ。

 そんな疑問に答えてくれたのはフレッドだった。

「実は昨日の夜、君が寝ている間にここへ連れ来たんだ」

「連れてきた? なんでまた……?」

 更に聞くと、今度はルース自身が答えた。

『少し学校で調べたいことがありまして、それであなたにお願いしようとしたわけです』

「もしかして、この間のことか?」

 学校で起こった魔力吸収事件。その原因とも言えるドディックジュエリの暴走について、調べたいことがあるそうだ。

『ついでにあなたの鍛錬にも付き合おうと思いまして』

「それはついでなのか。でも、敵に塩を送るようなことをして大丈夫なのか?」

『別に私たちとツキミさんは、今の時点では敵ではありませんよ。それに、私たちとて争いを望んでいるわけではないのです。ですから、あなたのような人が力を貸してくれるのは、とてもありがたいと思っています』

「俺だって力を貸すなんて大それたことは思ってないよ。むしろ借りているのはこっちのほうだ。それに――――――」

 互いに望むものは同じなのだ。ただ、俺自身が単純で、それを成す為に何も考えていないだけ。彼女たちのような難しい立場の人間じゃないからできていること。だから、力を貸すとかそういうのじゃなくて、一緒にそれを目指そうということだ。

「僕たちが君を頼るなんてことはあってはいけないことなんだがな」

 正論だけど一言多いよ、フレッドさん。

「ところで、そろそろ時間が迫ってきているが大丈夫かい?」

 というフレッドの言葉でハッとし時計を見ると、いつもなら朝食を食べ終わりすでに準備を済ませている時間だった。ちょうど階下からも母の呼ぶ声がしている。

「急がないとまずいな」

 今日も舞は家の前で待機をしているとメールが来ていたので、遅れるわけにもいかない。時間もあと少ししかなく、急ぎ足で居間へと向かうのだった。


===========================


 学校に着いてみると以外にも変わった様子はなく、みんな普段通りに学校生活を過ごしていた。とてもではないが、集団食中毒(実際は違うが)が起こった後だとは思えなかった。

 ちなみに、思いのほか朝食をとるのに時間は掛からず、家を出る時間はいつもと変わらなかった。そのため、遅刻はせずに済んだのだ。

 席に着くと佐藤と鈴木がやってきた。いつも通り過ぎて違和感すら覚えない。

 佐藤はどうやらゲーム三昧だったらしく、この間予約していたゲームを全クリしたと鈴木と俺に報告してきた。鈴木は鈴木で溜まっていたアニメを見ていたそうだ。二人そろって普通の休日を満喫していたらしい。

「学校閉鎖って言っても俺たち自身は異常がなかったんだし、そうなるのが落ちだよなぁ」

「小学校の時の学級閉鎖も似たような感じだったしな」

 と、鈴木は佐藤は口々に言った。

 自身の身体から魔力が抜き取られる。それは病気でも食中毒でもないので、異常がないことに違いはない。彼らにとっては何が起こったのかもわからず、更にいつの間にか治ってしまっている。確かに病気ではないものの、その瞬間はかなり危ない状況だったということを彼らは知らない。

「このまま何も知らない方がいいよな」

 何事もなかったかのように送られる日常。それが一番である。

「そういえば、舞ちゃんは早速あのリボンを着けてたみたいだね」

 すると、鈴木は思い出したように言った。

 鈴木の言うリボンとは、誕生日にプレゼントしたもののことだろう。割と気に入っているようで、舞の言うオカルトとは関係の無いものだがちゃんと着けてくれている。しかし、ちゃっかりいつものリボンは鞄にくくり着けていた。

 彼女と一緒に登校してきた際に鈴木と出会ったので、その時に舞の頭の上に乗っているリボンを確認したのだろう。

「そりゃ高村君からのプレゼントなんだから、着けるに決まってるでしょ」

 と、佐藤と鈴木の間から千草が割って入るようにやってきた。

「逆につけない方がおかしいよな」

 鈴木はその千草と顔を合わせて言った。

「末永く爆発しろっ!」

 最後はやはり佐藤であった。

 まぁコイツは置いておくとして、プレゼントをした身としてそれは嬉しいことである。

「ところで、今度は高村君の番でしょ。入江さんとの予定とかはないの?」

 と、千草は聞いてくるが、そんな予定はこれっぽっちもない。というか、舞の誕生日で手一杯で、自分の誕生日を忘れかけていた。手一杯な理由は他にもあるが、舞の誕生日を忘れていたことは最もな原因であるかもしれない。

「そう、じゃあ今度は高村君をサプライズしようか」

 それは本人の前で言っては意味がないのではないだろうか。

「俺は別にいいよそういうの。祝ってくれるのは嬉しいけど、やるのなら普通にしてほしい」

「ふぅん、そういうこと言うんだぁ」

「な、なんだよ」

 千草の見せた笑みに悪寒がした。ああ、女の子のこういう顔はかなり危険だ。

 佐藤と鈴木にその笑みを千草は見せた。

「そ、そうだね」

 鈴木の顔が妙に引きつっている。こいつも彼女の邪心をひしひしと感じているようだ。

 一見愛らしいその笑顔の下に、とても想像がつかない邪心を持つ。世の男はこういう女性に騙されるのだ。嗚呼、恐ろしい。

「ちょっと高村君、なんかものすごく失礼なこと考えてない?」

「いやいやいや、そんなことはないぞ」

「そう? まぁいいや。サプライズ云々はともかく、高村君の誕生日も何か計画しないとね。プレゼントを渡すだけじゃ何か物足りないでしょ?」

 千草は再び笑みを浮かべて言った。今度は普通の笑顔だ。

「まぁ何かをしてくれるのは嬉しいけどさ、どうして急にそういうことしようと思ったんだ?」

 舞の誕生日の時も思ったのだが、なぜ誕生会を開こうとしたりサプライズをしようとしたりしたのか。

 誕生日にプレゼントを渡す。それは親しい間柄ではよくある光景だ。だが、誕生会など生まれてこの方した記憶がない。今まだって普通にプレゼントを渡すだけだったのに、どうして千草はそんなことをしようと言い出したのか。

「ああ、言われてみればそうね。なんでだろう? その場の雰囲気とかノリ?」

 千草本人もわかっていないようである。

「まぁいいじゃない。こういう行事は楽しい方がいいでしょ?」

 納得できる答えは返ってこなかったが、それには賛同である。

 と、ちょうどいいところで始業のチャイムが鳴った。あれだけのことが起きた後の初めての授業だというのに、なぜか今日も通常通り授業が行われるのだった。


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