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魔法少女代行つきみ ~交差する太陽と月~  作者: てらい
第一章 墜ちた太陽と月
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となりの幼馴染

 昼休み。

 家から持ってきた弁当を机に拡げ、もくもくと食べていた。正面と左側には、いつものように佐藤と鈴木が机を並べ、また何か語り合っていた。

 あの後、イヌもどきを探すのに小一時間ほどかかり、家に着いたのは午後6時頃。魔力の消費やらなんやらで相当疲れていたのか、自分の部屋に入ると同時にベットに突っ伏しそのまま眠ってしまった。

 そして今に至る。

 ずいぶん間をはしょったように聞こえるが、実際にそうなので困る。本当に気付いたら学校にいたのだから。それまでの出来事はほとんど覚えていない。朝食に何を食べたのか、学校までどうやって来たのか、そして今まで何をしていたのかを思い出せずにいた。

 頭の中の記憶を探っても霧がかかったように何も見えず、何も思い出すことは出来なかった。

 と、そんなことを考えていると教室のドアがガラガラと音を立て開いた。

 昼休みに教室のドアが開くことは別段珍しいことではないので、気にせずに黙々と昼食に勤しんだ。

「つきちゃーん! 一緒にお弁当食べよー!!」

「ぶふぉっ!!」

 思わず目の前にいる佐藤に食べかけの米粒をぶっかけるところだった。

 吹出しそうになったご飯を飲み込み、声がしたドアの方を見る。そこに立っていたのは一人の女の子、入江舞いりえまいだった。

 黒髪短髪リボン。これが彼女の特徴の全てといえるだろう。それほどリボンが目立っているのだ。

 このリボンは日によって変わる。その日の魔力の流れに合わせて変えているのだとか。ちょっぴりオカルトチックな少女である。ちなみに今日は黄色のリボンをしている。

 少し釣り上がった目。そこから覗かせる瞳はなぜか鋭い。

 一応、幼馴染だ。そんな幼馴染が言うのもなんだが、かなりの美人さんだ。身長はそれほど高くないが、スタイルも良く、出るとこは出て、引っ込んでいるとこは引っ込んでいる。それも相俟ってか、見た目だけならかなりの人気があるらしい。実際に俺自身も可愛いとは思っている。だが、ここが少しなぞである。美人なのに可愛い。これ如何に。

 しかし、舞の性格を知っている俺からするとマイナス部分が多すぎて、どうにもプラス方面に評価が行かない。それは、周りの皆も同じであるようで、残念美人とよく耳にする。

「お前はいちいちそんな大声で俺の名前を叫ぶな!! 普通に黙って入って来たらいいだろうが!」

 おかげでクラス中の皆から注目の的になってしまっている。

 比較的に昼休みと言うものは騒がしくなるものだが、今この状況は違う意味で騒がしくなっている。遠くのほうからひそひそと噂話らしきものが聞こえる・・・・気がする。あくまで気がするだけである。

「え~、いいじゃん別にぃ」

 それに、そのつきちゃんって言うのもやめてくれ。恥ずかしいことこの上ない。と心の中でつぶやいた。これを本人の前で言うと大変ご立腹になる。

「大体、なんで俺のクラスまでくるんだよ。自分の教室で食べたらいいだろ」

「それじゃあ、つきちゃんと一緒に食べれないじゃぁん」

 不満そうに言う舞。

「別に一緒に食べなくていいだろ」

「わかってないなぁ。一緒に食べることに意味があるんだよ」

 まったく、いつもこの調子だ。

「はいはい、ごちそうさま」

 横で見ていた佐藤が仲裁に入ってきた。

「ささ、舞ちゃんにはこの席をお譲りしましょう」

 そしてさらに鈴木が、自分が座っていた席を舞にあけ渡した。

「な、お前ら余計なことを・・・」

「まぁまぁ、あのままクラス中のさらし者にされるのも面白そうだったが、さすがに良心が痛む」

 何気にひどいことを言う鈴木。

「じゃあ俺たちはこっちで食うから」

「お二人ともごゆくっり」

 二人は机の上の弁当をどけ、隣の席に移った。

「リア充は爆発すればいいのに・・・」

 去り際にボソッと何か聞こえたが気にしないでおこう。

「ったく、いい迷惑だっての・・・・あ、いや何でもありません」

 舞の鋭い目線がさしたのですぐさま訂正した。

 しかし、二次元だと幼馴染には萌えるのに、どうしてこいつには萌を感じないのだろうか。






 時間は進み、今は帰りのホームルーム中である。基本的に先生のどうでもいい話なのでみんな聞き流している。

 あれから色々考えたのだが、結局頭の中の霧が晴れることはなかった。もしかしたら全てが夢であった可能性も否定できない。現に彼女たちの存在を今のところ確認できていない。まぁ、今確認できたらクラス中が大騒ぎしているだろう。

 と、またまたそんなことを考えていると、またまた教室のドアがガラガラッと開いた。ホームルーム中に教室のドアが開くなんてことは珍しいことなので全員がそちらを振り向いた。

「つきちゃーん! 一緒に帰ろぉ!」

 現れたのは言うまでもなく舞だった。教室中の視線が舞へと突き刺さる。冷たく鋭いまなざし。直接見ていないのに感じるこの悪寒。

「し、失礼しました・・・・」

 空気を読んだのかサッと教室から出て行った。そして目線が、消え去った舞から俺へと変わる。ぞぞっと背筋に何かが走る。

「あ、えっと、ごめんなさい」

 なぜか俺が謝る羽目になっていた。昼休みの時以上に恥ずかしい。そして気まずい。

 その気まずい空気のままホームルームを終えた。


「アホだろお前」

「な!? 開口一番アホとかひど過ぎるよ~!」

 ホームルームが終わり教室を出ると、そこには舞がいた。

 気まずい空気から逃げるべくいつもの二人は放っておいて、いち早く教室から逃げてきた、のはいいのだが外に出てもどこからか視線を感じるので、やや駆け足で学校をあとにした(舞は放置)。

 しかし運悪く信号にひっかかってしまい追い付かれてしまったのだ。

「だいたい、なんで私を置いて行くんだよ~!」

「あのなぁ、普通に考えてホームルーム中に堂々と教室に入って来る奴があるか。おまけにまた大声で名前を呼びやがって。おかげでどんな目に会ったか・・・・」

 と嘆いていると

「ドンマイだよ、つきちゃん!」

 と舞は明るく励ましの言葉を投げかけるのであった。

「お前のせいだよっ!ったく」

 いつもこんな感じなので慣れてしまったが、かなり迷惑な行為だと思う。それを許してしまう俺も俺だが。そして、いつものように帰るのである。まぁ、こいつといると帰り道も退屈しなくなる。

 もう見慣れた、というより見飽きてしまった道のりをグダグダと歩き続ける。舞と他愛のない会話をぽつぽつとしていると、目の前を見覚えのある犬が横切った。

「ん、あの犬・・・・」

「つきちゃん、どうしたの?」

 目の前に現れたその犬をボーっと見つめていると、舞が顔を覗き込んで問いかけてきた。

「ああ、ほらあの犬、まだいたんだなぁって」

「ぬぅん、犬・・・・・?」

「・・・覚えてないのか?ほら、昔からずっとこの辺りにいただろ」

 あれは、そう。俺たちがまだ小学校低学年のときの話だ。今から10年ほど前、この住宅街に飼い主のいない犬が度々目撃されるようになった。それがこの目の前にいる犬である。

 犬には首輪がかけてあり、飼い主がいるのだろうと飼い主捜索も行われた。1年、2年と年月が過ぎても結局飼い主は現れず、飼い主捜索もついに打ち切られた。

 それからずっと、この住宅街に現れてはふらふらと歩いていたのだ。小学生たちの間では結構人気があり、よく友達と探しに出かけたりした。しかし、そういうときに限って見つからなかったりする。

 そしてその後、俺たちが小学校6年になると同時に、その姿を見ることはなくなった。

 猫は死ぬときに身を隠すといわれている(実際は違うらしい)が、この犬もそうだったのだろう。と、俺たちの間では解釈することにした。

 そんなことがあったということさえ、この数年で忘れてしまっていた。

「えと・・・・あーそうだったかも?」

 明らかに覚えていない様子の舞。

「俺もついさっきまで忘れてたからな」

「な、なんで私が忘れてるような言い方するのぉ」

「いや、忘れてただろ」

 ふと思ったのだが、舞と一緒にこの犬を見たことはなかったかもしれない、と昔の記憶をたどってみた。

「10年前ってことは、もうかなりお爺ちゃんだよね」

「いや、お婆ちゃんの可能性もあるぞ」

「あ、そっか」

 そういえば心なしかヨボヨボになっているような気がする。

 過去に、性別を確かめるようなことはしなかったので、オスかメスかはわからない。

「あれ、いなくなってる」

 舞が言うと目線を戻して見るが、さっきまでそこにいた犬がいなくなっていた。少し目を放した隙にどこかに行ってしまったのだろう。

「・・・・・・」

「・・・・どうした?」

 舞は神妙な顔つきでじっと何かを考えているようだった。

「え、あ、ううん。なんでもないなんでもない」

「?・・・・そうか」

 それからずっと(といっても数分だが)舞は何かを考えるように、一言もしゃべらなかった。そして無言のまま家についてしまった。

「じゃあな」

「・・・うん、じゃあね」

 ちょっぴり元気のない「じゃあね」だったが、彼女も何か考えたいことがあるのだろう、とそのまま別れることにした。

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