表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/74

待っている人のために

 翌朝。

 昨日起きたドディックジュエリによる魔力吸収事件(自分で名づけた)による、生徒及び学校職員の集団昏睡事件(これも自分で名づけた)は、昼食時に配給される牛乳による集団食中毒が原因とされた。

 少し無理やりな感じもするが、原因がわからない以上そうするしかないのだろう。現に、今も原因究明のために調査をしているらしい。

 このため、学校は一時的に休校となった。

「まぁ考えてみれば、学校中の人が気絶した事件の後に、普通に学校があるわけないよな」

 急に学校が休みになったので、ベッドの上でごろごろと暇を潰しながらルースと話をしていた。

『ところでツキミさん、身体の調子はどうですか?』

 出し抜けに彼女が聞いてきた。

「ん~そうだな、少し筋肉痛が残ってるかな」

『そうですか。やはり、いくら若いからといって一日で治るようなものではありませんか。できれば万全の状態で彼女に挑みたかったところですが、仕方ありませんね』

「そうだな。でもまぁ、普通に動けるし、問題はないよ」

 朝起きてから少し身体を動かしてみたが、本当に少し痛む程度で特に問題があるわけでもない。

『彼女自身も、昨日の禁呪の使用でかなりの魔力を失ったはずですが、それでもハンディキャップにはなりませんね』

「やっぱり禁呪を使うと魔力の消費が激しいのか?」

『ええ、その種類にもよりますが、総じて禁呪に使用する魔力は桁違いに多いです。しかし、ルーナの禁呪は少し特殊で、他のそれに比べると約半分程度の魔力で済みます』

「へぇそうなのか。燃費がいいんだな」

『言葉の選択に少し疑問を持ちますが、間違ってはいませんね。前にも言った通り、魔法とは魔力を体内から放出することを指します。それは禁呪でも変わりません。放出する魔力量が多いほど威力が上がり、位が上がるにつれて必要な魔力も増えます』

 ということは、ルーナの禁呪は何か根本的に違うということか。

『ルーナの禁呪は刀身に光を集めその光エネルギーを放つ、というものです。集めた光は当然自身の魔力ではありませんから、その分使用魔力は軽減されます。しかし、光エネルギーそのものは大した威力を望めません。そこで、体内から魔力を放出し、それを点火剤として光エネルギーの威力を増加させるのです』

 つまり「魔力を放つ」のではなく、「集めた光を魔力で放つ」ということだ。魔法の定義からすると少し特殊である。

『もちろん、集めた光の量で威力が変わりますから、長時間光の収束を行うことによって威力が増加します。まぁ、そんな時間が戦闘中にあるのか、と考えるとそんなに時間は割けませんね』

「なるほど、じゃあ彼女があの技を使うのは、よっぽど相手に隙がある時だけなのか」

『戦術的に考えるなら、それが一番の運用方法ですね。その機会訪れることなど滅多に無いと思いますが』

「それを聞いてちょっと安心したよ」

 あれに対抗できる魔法はそう存在しない。できるものがあるとすれば、それは同じ禁呪だけだろう。

 もちろん、今の自分に禁呪を使う術はない。

 ならば、彼女に禁呪を使う隙を与えなければ良い、ということだ。

『確かにあなたの言う通りですが、ツキミさん、今あなたが練習しているものはなんですか?』

「今、俺が練習しているもの?」

 少し考えてみたが、そんな時間など必要なかったように思い出した。

「補助魔法、か」

 しかも、今練習中の魔法は、相手を拘束するための魔法だ。もちろん、それはルースだけが使える魔法ではない。彼女も使えるはずだ。

 拘束されてしまえば隙を作る必要など無く、強力な魔法を相手にお見舞いすることができる。

「でも、あの拘束魔法じゃ一秒も拘束できない、ってアレスが言ってたぞ」

 先日、アレスとファルスコールが戦った際、その拘束魔法を使用しすぐに破られた、とアレス本人の口から聞いたのだ。

『彼女ならばそれは可能でしょうね。所詮はただの網ですから、魔力を流し込めば過負荷で崩壊してしまいます。それをツキミさんができるのなら、問題は無いのですけどね』

 今は魔力を放つ事ができても、何かに流し込むことはできない。魔力の供給も、相手に引っ張ってもらわないとできないのだから。

『もっとちゃんとした拘束魔法を使うなら話は別ですが、それを彼女に当てるのは難しいでしょうね』

「ちゃんとした拘束魔法か・・・・・・」

 それもアレスから聞いたのだが、今彼女から教わっている拘束魔法はもともと漁業用の網だ。それを戦闘用に改良したものがそれである。もちろん、人を捕まえるためのものではないので、さっき言ったように魔力を流し込めば簡単に壊れてしまう。

 だが、ちゃんとした拘束魔法、つまり、人を捕らえておくために作った拘束魔法なら話は別である。

 それに使用する魔力は、漁業用の網よりも増え扱いも難しい。一日や二日練習した程度では、目の前に作り出すことも難しいそうだ。

 それを操って人にぶつけるなんて至難の業である。

「まぁ、あの子が拘束魔法を使わないことを願うしかないな」

 彼女の場合はそんなことをせず真正面からぶつかってきそうだ。

『今更どうにかできる問題でもありませんしね。今は何より、その身体を休めることが肝心です』

 ルースの言う通りだ。いくら身体に支障がないからといって、疲れが溜まっているのはまずい。可能な限り、彼女には万全な状態で挑みたい。

「―――――っと、メール?」

 机の上にある携帯電話が唸りをあげていた。

 こんな時間に誰からだろう、と思いながら携帯電話を見るとそこには「千草凪」の文字があった。

 昨日のあの後から、彼女とは一度も口を聞かなかったので少しだけびっくりである。

「なになに、『入江さんの誕生日が判明しました。6月21日です』って三日後かよ!」

 早めにプレゼントを買っておいてよかった。

「『学校が休みなので、直接殴り込みたいと思います。家の人には連絡してあるので大丈夫です』―――――今更だけど、おばさんに聞くのが一番早かったな。『時刻は午後二時。入江さん宅の前に集合です』」

 最後に「参加者」として各名前が書かれていた。当然、俺の名前もある。

「遅刻厳禁、欠席は認めません、か・・・・・・」

『それを見てしまっては、負けるわけにはいきませんね』

「そうだな―――――」

 千草はたぶんまだ怒ってるだろう。

 勝ったとしても許してくれないだろう。

 でも、このメールを送ってきた。絶対に出席しろと。

『彼女も人の選んだ道を否定することはしないでしょう。だからこのメールを送ってきた。―――――感謝すべきですね、彼女に』

「ああ、もちろんだ」

 感謝してもしきれない。

 迷惑をかけて、心配をかけて、これ以上嫌われようの無い彼女からの言葉。

 勝つだけではない。それだけでは意味がない。

「―――――」

 深く息を吸い込み、それを吐き出した。

「よし、寝よう! 時間になったら起こしてくれ」

 今は何よりも休息が必要だ。ならば睡眠が一番である。

『え、あ、はい。わかりました。では、ゆっくりとお休みになってください』

 仰向けになって天井を眺める。

 そして瞼を閉じた。

 周りには何もないように静かで、そして真っ暗だ。

 聞こえてくるのは自身の心音のみ。いつもより鼓動が早い。

 緊張しているのだろうか。そんな心持ではないと思っていたが、やはり事が事だけに自然と緊張していたのか。

 後悔はない。いや、まだ後悔するにも早すぎる。

 まだ何もしていない。これからやらなきゃいけない。これからやりたい。

 例え彼女が否定しようとそれを続ける。

 そして必ず生きる。みんなが、千草が、舞が、待っているから。













 少年が深い眠りに入った頃、隣でそれを見守る傍ら、ルースはとある人物と連絡を取っていた。

『ええ、現地時刻で約五時間後です。詳しい時刻はわかりません。それまでどこかで待機していただくか、空間転移でこちらまで来てください』

 その言葉に念話の相手フレッド

『無茶を言わないでくれ。どれだけ魔力を消費すると思っているんだ』

 と、呆れるように言い返した。

 だが、それは少年にとって造作もないことであるのは、ガラシア内では周知の事実だった。

『だからと言って空間転移をするメリットがあるのか?』

『不意をつけば両方を拘束できますよ』

『またそんな簡単そうに・・・・・・』

 少年は更に呆れるようにして、溜息を吐いた。

『確かに「物理的」に拘束することはできるだろう。だが、その後はどうする。今のところ、彼女を拘束できる罪状はない』

『そのあたりは適当に考えてください。なにも実際に捕らえられるなんて思っていませんよ。できたらラッキー程度に思ってください』

『・・・・・・』

 少年は言葉を失っていた。

 彼女ルースはこんな性格だったろうか、と内心疑問を抱くと同時に、根本的な部分はあまり変わっていなかったことに気付く。

『はぁ、仕方ない。そこまで言うなら何とかしよう。ただ今回の目的は別にある』

『ええ、わかっていますよ』

 それは当然だった。何せ、それは彼女自身が言い出したことなのだから。

『結局、その話の内容は、僕には言えないことなのかい?』

『はい、まずはヴァレンティーナ様にお話し、その後にどうするか決めさせていただきます』

『そうか、それなら深くは聞かないよ』

 フレッドはそれを聞くと、すぐに引き下がった。

 彼の中でもある程度察しはついていた。恐らくそれは十六年前のあの事件と関わりがあるのだろうと。

 ルースが口を噤む時は、大体この話のときだ。

 十六年前の事件については、本人たちにしか知らない何かがあると国の何人かは感づいている。ただ、その事件で起きた不祥事は解決しているので、周りは何も口にしないだけである。

『では後ほど指定の場所で』

 ルースが最後にそう言うと、フレッドは「了解」と答え念話を切った。

 そして、横で寝ている少年に彼女は目を向けた。

『やはり、偶然にしてはできすぎていますね。―――――高村月海、あなたはいったい・・・・・・』

 疑念、困惑、そして今、彼女の頭の中にある予想が、現実でないことを願った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ