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プレゼント大作戦 3

「は・・・・・・っ・・・はっ、くしょ~い!」

 盛大なくしゃみをかます。

 朝の学校の校門前で、鼻がムズムズするなと思い我慢していたのだが、ついに出てしまった。

「つきちゃん風邪でも引いたの?」

 隣にいた舞が心配そうにしていた。

「いや、大丈夫だよ」

 寒気とか、喉が痛いとか、頭痛がするとか、そういった症状もなく、ただ単純に鼻がムズムズしただけである。

「え~、ホントにぃ~?」

「本当だって」

「頭とか喉とか痛くない? ・・・・・・って、はっ・・・くしゅん!」

 と、今度は心配している側の舞が、大きなくしゃみをした。

「おいおい、お前こそ大丈夫かよ」

「う、うん、私は平気」

 しかし、舞はこの間風邪を引いたばかりだ。ぶり返してもまずい。

「保健室に行くか?」

「ううん、大丈夫だって。つきちゃんのくしゃみがうつっちゃっただけだよぉ」

「うつるのは欠伸だろ」

「あれ、そうだったけ? まぁ一緒のようなもんだよ」

 あはは、と舞は笑った。

 全然違うよ、舞さん。

「まぁ、なんともなさそうだな」

 くしゃみなんて風邪を引いてなくても出るもんだ。そんなに心配するものでもないだろう。

「じゃあな、舞」

 下駄箱で靴から上履きへと履き替え、教室へと向かう。

「あ、待ってつきちゃん」

「ん、どうした?」

 だが、舞に止められ、その足を戻した。

「つきちゃん最近いっつも先に帰っちゃうから、今日の放課後はちゃんと待っててよ」

「え、あ、あぁ・・・・・・」

 そういえば、最近は一緒に帰っていなかったな。何かとあったし、仕方ないと言えば仕方はない。昨日のように誕生日の件もあるし、自然と避けていたのかもしれない。

 だが、今日は剣術の特訓が休みだ。ドディックジュエリの探索をやめてからは放課後の予定も特にない。久々に一緒に帰ろうか。

「そうだな、今日は教室で待ってるよ」

 と、舞に言うと彼女は嬉しそうに、

「うん!」

 と笑いながら答えた。

「ホームルームが終わったらすぐに行くからね。ちゃんと待っててよ」

「ああ、待ってるよ」

「約束だよ」

「ああ、約束する」

「うむ、よろしい。じゃあね」

 舞は大きく手を振り、教室に向かって階段を駆け上がっていった。

「うっふっふ~、いやぁ朝から見せ付けてくれますね~」

 と、すぐ後ろで聞き覚えのある声がした。振り返るまでもなく、その正体はわかる。

「なんだよ千草、覗き見か?」

「違うわよ。たまたまよ、たまたま。高村君、ここがどこかわかってる?」

 そうだった、ここは下駄箱だ。いつも、千草とだいたい同じような時間に登校しているのだから、ここで出会っても不思議ではない。

「それよりも、入江さんにバレてないでしょうね」

「ああ、誕生日プレゼントのことか? 大丈夫だよ。バレるどころか、疑われてすらない」

「そ、じゃあよかった。こういうのはサプライズじゃなきゃ意味ないからね」

 そんなことを話しながら、教室へと向かう。

「ああそうだ、高村君、筋肉痛とか大丈夫?」

「そっちは全然大丈夫じゃない。身体中が少し動かしただけで痛い」

 逆に聞きたい。大丈夫で済むようなことをしたのかを。

「まぁそうよね。でも、今日は休みだから、ゆっくり身体を休めてね。休むことも特訓のうちなんだから」

 千草の言う通りにしたいのは山々だが、帰ってからは魔法の特訓が待っているので休むことは難しそうだ。特に精神面で。

 幸いと言うべきか、肉体的な特訓は無いので安心できる。

「よっ、今日は二人一緒に登校か?」

 と、教室で出迎えたのは、鈴木だった。

「ああ、そこでさっき会ってな。ところで佐藤は?」

 いつも一緒にいる二人だが、今日は佐藤の姿が見えなかった。

「佐藤なら自分の席で寝てるぞ。なんでも、身体がだるくて辛いってさ」

「へぇ、あいつにしては珍しいな」

 元気が取り柄ともいえる佐藤がそんなことになっているとは。まぁ、いつもは元気を通り越して五月蝿いので、ちょうどいいかもしれない。

「あ、こっちを見てる」

 机に突っ伏していた佐藤が、顔だけをこちらに向け睨むように見ていた。

 そして、その重そうな身体を起こし、ゆっくりとこちらまでやってきた。

「おお、高村ぁ~、調子はどうだ~!」

「ま、まぁ、ぼちぼちかな」

 勢いは無いが、そこにいるのはいつもの佐藤だった。

 正直なところ、身体のだるさは佐藤と変わらないくらいか、それ以上だと思う。

「ところで、プレゼントはちゃんと買えたのか?」

「ああ、ちゃんと買ったぞ」

「そっか、じゃあ後はケーキを買うだけだな。とびきりでかいやつを用意してやるよ」

「俺はそんなに金ないぞ」

 ケーキの値段は、大きさもそうだが種類によってはトンデモな値段になる。

「大丈夫だって。三人で割り勘すれば、一人二千円以内には納まるさ」

「いや、そうはいうけどさ・・・・・・ん?」

 今、鈴木は三人で割り勘と言ったか。

 いや待て、ここにいるのは全員で四人だ。ただの聞き間違いか?

「なぁ、もう一回聞きたいんだけど、ケーキの割り勘って・・・・・・」

「ん? 俺たち三人で割り勘だけど」

 やっぱり、聞き間違いではなかったようだ。

「一応、聞いとくけど、その三人って?」

「俺と佐藤と千草さんだ」

 ですよねー。

「なんで俺が入ってないんだよ」

「なんでって、高村はもうプレゼント買ったんだろ? じゃあ、それでいいじゃないか。ケーキは俺たち三人からのプレゼント、ってことだ」

 いやいや、待て待て、それは違うだろう。

「そもそも、プレゼントとは別にケーキも買う予定だったんだ。それに、お前たちだけじゃ負担する金もだいぶ違うだろ」

「まぁまぁ、細かいことは気にするなって。俺たちは俺たちのプレゼントを、舞ちゃんにあげたいんだからさ。そこに高村が入ったら、また違うものを買わなきゃいけなくなる」

「なんかそれって、俺を仲間はずれにしてないか?」

「い、いや、そんなつもりは決して無いからな! ただ、高村だけがプレゼントを買う、っていうのが俺たちの良心をだな・・・・・・」

 鈴木はあたふたしながら、必死に言い訳を考えていた。鈴木のこんな姿は久しぶりに見たかもしれない。

「わかってるよ。別に、俺もお前たちを責めよう、ってわけじゃないんだ。だから、ケーキを買うなら俺も金を払う」

「はぁ、高村ならそう言うと思ったよ。よし、じゃあ仕方ない、だったらこうしよう。高村をケーキを買う係りに任命する。んで、俺たちの金を使ってケーキを買ってくる。それでいいんじゃないか?」

「それって、結局俺は金を払ってないんだけど」

「だから、ケーキを買ってくるという人件費を俺たちが払う、という仕組みなんだよ」

「どういう仕組みだよ・・・・・・」

 どうやら、意地でも俺に金を払わせたくないらしい。

「じゃあ、これが金な。よろしく頼んだぞ」

 と言って、鈴木に千円札の束を無理やり握らされた。

「よし、受け取ったな。受け取ったからには絶対に買ってこいよ。あ、返金は受け付けないから」

「・・・・・・」

 なんと無理やりな。

「ったくしょうがないな。わかったよ、買ってくればいいんだろ」

 受け取ってしまった以上、断るわけにもいかない。しかも、返金を受け付けない、ということは金を使いきれ、ということだ。これだけの金があれば、逆に俺が金を出す余裕がない

「これでプレゼントは大丈夫だな。あとは、どうやって舞ちゃんに渡すか、だな」

「普通に教室で渡すのじゃ駄目なのか?」

「おいお前、サプライズの意味わかってるのか?」

 鈴木は呆れたように言った。

「いやまぁ、わかってるけどさ。それ以外にどうやって渡すんだよ」

 教室以外でみんなが集まる場所なんて無いし、どうやってもなにも、それ以外に方法が思いつかない。

「それじゃあ、逆に聞くけど、この教室にでっかいケーキを持ってきて、ここでそれを食べると?」

「・・・・・・う」

 言われてみると、それはおかしな光景である。教室でケーキを囲んでお祝いする集団。どう見ても不自然だ。

 そもそも、学校に食べ物を持ってくる、なんて校則違反である。

「じゃあ、入江さんの家に直接行くのはどう?」

 みんなが考えあぐねていると、千草が一つの案を出した。

「高村君が当日の予定をそれとなく聞きだして、入江さんが家にいる時間にドッキリで突入とか?」

「ああ、それなら良いかもな。舞は普段からあまり出掛けるようなやつじゃないし、その日も空いてると思う」

「それじゃあそれでいこうよ。そうと決まれば、さっそく入江さんから聞き出しね。頼んだわよ高村君」

 千草は俺の方をポンっと叩いた。

「え、今から? 休み時間とか昼休みにも来るんだから、その時でいいだろ」

「なに言ってるのよ。善は急げって言うでしょ」

「まぁそうだけど・・・・・・」

 わざわざ誕生日の予定を聞きに行くなんて、逆に不自然ではないだろうか。それにどうやって話を切り出せば良いのかわからない。

 誕生日ってなにしてる? とか聞いたら本末転倒だ。

 そもそも「誕生日」という聞き方が間違っている。そう、ちゃんと日にちで聞かなければ・・・・・・。

「―――――?」

 誕生日・・・・・・?

 いや、待て。そんなことあるはずがない。いや、あってはならない。

 ―――――舞の誕生日を忘れるなんて!?

「・・・・・・」

「どうしたの、高村君?」

「・・・・・・」

 何故だ、何故思い出せない。

 確かに覚えているはずなのに、思い出せない。

 去年の今も、こうして誕生日の話をしたではないか。それなのに覚えていないだと。

「な、なぁ、舞の誕生日っていつだっけ・・・・・・?」

 恐る恐る皆に聞く。返ってくる反応も、もちろんわかっていた。

「・・・・・・」

 みんな、そんな目をしないでくれ。俺は真剣に聞いているんだ。

「本当に覚えてないの?」

 千草は深い溜息を吐いてから聞いた。

「幼馴染なのに?」

「うん」

 そして、再び千草は溜息を吐く。

 だが、今度はばつが悪そうにしていた。

「ま、まぁ、かくいう私も実は知らないんだけど」

「そ、そうなのか?」

 確かに、舞と千草は特別仲が良いわけでもないし、互いの誕生日を知っているなんてそうないことだろう。

「そうだよな、去年の誕生日のときは俺だけだったし」

 そう、去年は今回のような大々的な誕生日会ではなかったのだ。ただ、俺が舞にプレゼントを渡しただけである。たまたま、その話をこの三人が知っていただけだ。

「俺たちも日にちは知らないぞ。去年はお前の話を聞いたのと、目の前でいちゃついてたのを見ただけだ」

 と、佐藤と鈴木が言う。

 誰がいちゃついてたんだ! というツッコミは置いといて、それ以上にこの状況何とかしなくては。

「本人に直接聞くわけにもいかないしね。どうしましょうか・・・・・・」

 千草は口に手を当て考えていた。

 本人に聞く以外に舞の誕生日を知る方法は一つしかないだろう。それは舞以外の人間に聞きまわることだ。だが、それでも上手くいくとは限らない。他に良い方法があればいいのだが。

「しょうがない、こうなったら奥の手を使いましょう」

「奥の手?」

「そ、奥の手」

 千草はポケットから携帯電話を取り出し、ピッピといじっていた。

「よし、これでオッケー」

「何したんだ?」

「何って、友達にメールを送ったのよ。今回のいきさつを簡単に説明してね。これで、早ければ今日中に入江さんの誕生日がわかるはずよ」

 千草は携帯電話をパタンと閉じ、元あったポケットの中へと仕舞った。

「そ、そんなに上手くいくのか?」

「大丈夫よ、女子の情報網をナメないでよね。まぁ、ちょこっと情報が漏れたりする可能性が、微粒子レベルというかかなりの確率で存在するけど、なんとかなるわよ。たぶん」

 なんだ、その頼りになりそうでならなそうな言葉は。

 しかし、背に腹は変えられない。今は千草の情報網とやらを信じるしかないか。

「ありがとう、千草。これで何とかなるかもしれない」

「そういうのは、何とかなった後に言いなさいよね」

「そ、そうだな」

 ひとまずは、千草に任せるしかない。

 こうして、プレゼント大作戦は波乱の幕開けを迎えるのだった。


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