プレゼント大作戦 2
駅の横に建つ大きなデパート。そこには何でも揃っている。少なくとも、ここならば生活に必要なものに困ることはない。
そのおかげで、昔からある隣の商店街は寂れつつある。まだまだ現役だけど。
今回は舞の誕生日プレゼントを選ぶために、千草と共にそのデパートへとやってきた。
「さて、どうしましょうか?」
デパートの入り口付近、館内の案内図がある場所で立ち止まる。
「どうしましょうか? って、聞きたいのは俺だよ」
何をプレゼントすべきかわからないから困っているのに、どうするかが決まっているわけがない。
とは言ったものの、それを考えるためにここに来たのだから考えるしかない。
「やっぱり舞の趣味に合ったものがいいよな」
「まぁ、それが無難なところよね」
舞の好きなもの。やはり、一番初めに上がってくるのはオカルト的なものだろうか。
本人自身からはあまりその手の話を聞かないが、頭につけているそのリボンのことを知っていると、舞が好きなものイコールオカルトとなってしまう。
「オカルトグッズねぇ。あんまり興味ないし、よくわからないかも」
それは俺も同じである。舞自身からも話をほとんど聞いたことがないのに、興味がないものがわかるわけがない。
「別にオカルトである必要はないんでしょ? だったらペアのアクセサリとか、そんな無難な感じでいいんじゃない?」
「無難なものを選ぶことには賛成できるけど、どうしてペアなんだ」
「そりゃ普通そうでしょ。好きな子と同じものを身に着けるって、女子としてはかなり重要なことなんだから」
「ふぅ~ん、そうなんだ」
所謂ペアルックとやらが女子ウケがいいらしい。
「・・・・・・」
「なんだ、こっち見てどうしたんだよ?」
千草はキョトンと、なにか珍しいものを見るように俺の顔を見ていた。
「だって高村君、いつもは入江さんとのことでいじると怒るじゃない。なのに、今日は怒らないんだなぁ、って思っただけ」
「え、ああ、そういうことか」
何度も言うが、千草の言う通りそういうことには腹立たしくも思うが、すでに慣れてしまった。腹立たしい思いも変わらない。だが、俺が舞を好きだということも、舞が俺を好きだということも事実である。もちろん、恋愛感情ではない方でだ。
「だから、好きだとかそういうことで怒ったりはしないよ」
お前ら付き合ってんだろ? みたいなノリが嫌いなのである。
「そういうものなの?」
「そういうもんだ。そんなことよりも、早くプレゼント探さないと」
そう、時間は刻一刻と過ぎ去っていく。この後に剣の稽古も待っているわけだし、早いとこ済ませたほうがいいだろう。
「無難なものでペアになるやつか。俺が持ってても違和感が無い方がいいな」
「じゃあ時計は?」
と言われて考えてみたが、金銭的に難しい。安物も売っているはずだが、それはそれでなんだか嫌だ。まともなものを買うとしたら、数千円単位で金が消え去っていくだろう。
「中学生が買えそうな金額でお願いします」
「ん~、それじゃやっぱり、ネックレスとかブレスレットとかのアクセサリ系だよね。それなら安くても良いやつはあるだろうし」
確かに、それならば財布に優しい。だが、少し想像してみて欲しい。男の俺がネックレスやブレスレットをしている姿を(ルースは首に掛けてるけど)。
「俺に似合うと思うか?」
「え~、そんなに変かなぁ。似合ってると思うよ私は」
「そうかぁ?」
どうにも、アクセサリを身につける自分の姿に納得できないが、とりあえずアクセサリ売り場へと向かうことにした。
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「な、なぁ、マジでここに入るのか?」
アクセサリ売り場の前で、中に入るのを躊躇う。それもそのはず。店内はピンクとか赤とか派手な色でピカピカと光っており、中には女の子しかいない。どう考えても、男の俺が入るような場所ではない。
「別に気にしなくていいでしょ。私もいるんだし」
「気になるだろ!」
明らかに男の入れる雰囲気じゃない。中から漂うよくわからない甘い匂いが警告を告げる。この先、入るべからずと。
「恋人同士とかなら一緒にいてもおかしくないでしょ?」
「恋人・・・同士・・・・・・? ―――――俺とお前が?」
「―――――っ! そ、そうよ、なんか文句あるっ!?」
自分で言いながら顔を赤くされても困る。それに怒られても知らん。
「い、いいから早く入りましょ!」
「わっ、ちょっと、引っ張るなって」
千草は腕を掴み、半ば強引に店の中へと連れられた。
入ってみてわかったことだが、どうやらこの匂いの正体は入り口付近にあるお菓子の山が原因のようだ。透明なガラスケースにお菓子がむき出しになって入っており、横の箱に自由に詰められるようだ。その総量で値段が決まるらしい。
おおよその値段は書いてあるものの、自分で詰めるので合計金額がわかりづらい、というのがミソである。
「これが商売と言うものか・・・・・・」
だがしかし、なぜアクセサリショップにこんなものがあるのだ。女の子は甘いものに弱いというが、これもそれに狙いをつけたものだろうか。
どちらにせよ、この匂いは少々きつすぎる。千草も甘いものが好きだと記憶していたが、目の前に来ると少し嫌な顔を見せた。
千草曰く、
「品がないのよ。こんなにごちゃごちゃしてたら、良い匂いも混ざりまくって悪くなるじゃない」
と言うことらしい。
これは豆知識だが、所謂、芳香剤と呼ばれるものには、良い匂いだけでなく悪い臭いも混ざっているらしい。その二つが綺麗に交じり合うことで、より良い匂いになるのだとか。
なので、千草の言うことはあながち間違いではないのかもしれない。
「ねぇ、これなんかどう?」
千草はその手にネックレスらしきものを持ち、俺の首に合わせるようにしていた。
「一回つけてみてよ」
と千草は言うが、今はこの首にルースを掛けているので無理である。それに、そんなにジャラジャラしたものを着けるのは気が引ける。
「もっと他にないのか?」
「え~、じゃあやっぱりブレスレット?」
「う~ん」
やはり、というかなんというか、こういうアクセサリは俺には似合わないよなぁ、と本物を目の前にして思う。
身体に身につける装飾品。自分を着飾るための物なのに、着ける人が変わるだけで印象ががらりと変わる。
自らを飾れる人と、自らを飾れない人。人それぞれで、舞はどちらかといえば前者である。だから、彼女がこういったものを身に着けているのは良いと思う。
だが、果たして俺には、このピカピカジャラジャラしたものが似合うのか。
百歩譲って装飾品が似合う人間だったとしよう。だが、ここにある物は全て女の子専用のアイテムである。それを男である俺がつけているのはどうなのだろうか。いや、似合う似合わない以前に、身に着けたくない、という思いが先行する。
「この際、ペアじゃなくてもいいんじゃ・・・・・・」
しかし、全てを言い切る前に千草に遮られた。
「だ~め! 折角の誕生日プレゼントなんだから、ペアじゃなきゃ」
「そうは言うけどさぁ・・・・・・」
目の前に置かれる様々なアクセサリを見る。
「これを俺が身に着けるのか? いや、無いな。あり得ない」
どれもピッカピカのテッカテカである。
もっと、こう、質素な感じなものはないのだろうか。
「装飾品って、その名の通り装飾するためのものだから、目立たないものなんてないんじゃない?」
「やっぱりそうだよな」
でなければ、装飾品なんて名前ではないはずだ。
「じゃあさ、リボンなんてどう? 入江さんも毎日着けて来てるし」
「それは俺にリボンを着けろということか?」
それこそあり得ない。この世の中に、男でリボンを着けている者がいるであろうか? いやいない。
「いや、その頭に着けろ、なんて言わないわよ。別にリボンなんてどこにでも着けられるんだから」
「考えてみればそうだな。鞄にでも結び付けとけばいいわけだ」
それならば、自分の身体に着けるわけではないので大丈夫そうだ。
「じゃあリボンで決まりだね。それだったら、別に他のアクセサリでもよかったんじゃね? とか言わないでね」
「・・・・・・あ・・・、そういえばそうだな」
「なんで言われるまで気付かないの・・・・・・」
千草に言われて気がついたが、舞のことも考えるとやはりリボンが一番良いのかもしれない。
「それじゃあ、どれにしようか? 入江さんの持ってるリボンの色ってわかる?」
「舞の持ってるリボンか・・・・・・」
なんだったろうか。たしか、リボンの色と四大元素が関係あったような気がする。
「地水火風」の四大元素。それに対応したリボンの色。
「え~っと、黄・青・赤・緑だったかな?」
「じゃあそれ以外の色なら大丈夫ってことね」
他にも色を持っている可能性はありそうだが、今までに一度も見たことは無い。それならば持っていないのだろうけど、念には念を入れておこう。
ということで、元素関係の色はやめておこうと考え、ルースに聞いてみた。
「元素に関係した色以外の色ってあるか?」
『そうですね。色は人それぞれによって見え方が違ったりもしますから何とも言えませんが、白なんかは大丈夫だと思いますよ。光を白と捉える人もいますが、入江舞の場合は四大元素を元に考えているので、特に問題はないかと』
そういうことらしい。
「じゃあ白にしよう」
「白か・・・・・・うん、いいんじゃない」
千草は白のリボンを手に取り少し考える風にすると、ウンと頷いた。
「値段のことを考えるとちょっと安すぎるけど、まぁそこは違うもので補うとして」
「違うものって?」
「そりゃ、誕生日といえばアレしかないでしょ」
と言う千草の言葉を聞くまでも無く、一つのものが頭に浮かんだ。
「そういえばこの間も買っていったんでしょ? だったら、その二倍はほしいわね」
「うへ、二倍!?」
二倍といったら相当な大きさ&値段になる。
「インパクトが大事なのよ、こういうのは」
「インパクトねぇ」
やりすぎな気もするが、それくらいの方がいいのだろうか。
それよりも、そんな大きさのものを二人で食べきることができるのか、の方が心配である。
しかし、そんな心配をよそに千草は一言漏らした。
「みんなで食べたら問題ないわよ」
「・・・・・・みんな?」
何か嫌な予感を感じ取り、恐る恐る聞き返す。
「もしかして、そのみんなってのには千草も入っているのか?」
「当然でしょ。あ、佐藤君と鈴木君も入ってるから」
なんと、いつの間にそんなことになっていたのだ。
「乗りかかった船よ。私たちにもお祝いさせなさい。それとも二人きりの方が良かったりして?」
千草は意地悪そうに微笑んだ。
「そんなわけはない。みんな一緒の方が楽しいだろ?」
「あれ、そう?」
今度は、拍子抜けしたという風にした。
だが、そんなことは気にも留める様子はなく、
「それじゃあ、盛大にいきましょ。入江さんがビックリするくらいの誕生日パーティーにね」
むしろ気合が入ったようだ。
思えば、大人数(といっても四人)での誕生日パーティーは初めてかもしれない。果たして、舞は喜ぶだろうか。
俺たちは会計を済ませ、デパートを後にした。