スティーレの使者
「ただいま~」
誰もいない家に(ルースとアレスはいる)挨拶をして中に入る。
家の中は真っ暗で、電気のスイッチを探すのに一苦労。
こんな時間に帰ってきたのは初めて、ではないが、そうそうないことである。最近はドディックジュエリ探索に夜までやっていて、遅くなることは多々あるが。
だが、七時を回っても母はまだ帰ってきていない。こんなに夜遅くまで働いているなんて感謝である。
「こんなところでなにやってるの?」
「うわっ」
突然、玄関の扉が開き母が帰ってきた。
「なんだ母さんか、俺も今帰ったとこなんだ」
「ふ~ん、そうなんだ。あ、そうだ、今日は料理する時間があるから、ちょっと待っててね」
母は言うと台所まで行き、そのままのスーツ姿で料理を始めてしまった。
「別にそんな急がなくてもいいのに」
「な~に遠慮してるの。母親が息子に料理を作るのは当たり前でしょ。普段あんまり作れてないんだから、これくらい当然」
若干、話が噛み合っていないが、そこは母の好意に甘えるとしよう。
============================
「じゃ~ん、今日はチンジャオロースを作ってみました」
母はテーブルの上に並べられた皿の上に盛り付けをしていた。
スーツ姿でそれを作ったのか。油がすごい飛び散ってそうなんだけど。
「先に食べてていいからね。母さん着替えてくるから」
母はそう言うとエプロンを外し台所から出て行った。
「ぐぅ」
そのあまりの良い匂いに腹の虫が鳴る。だが、ここは母を待とう。母が子に料理を作るのが当たり前なら、一緒に食べるのも当たり前である。
===========================
「 ! !!」
久々の母との夕食。それを堪能していた時だった。
二階から微かに声が聞こえてきた。
「何やってるんだあいつら。大声出すなって言ったのに」
普通に話す分には一階まで聞こえてこないが、大声を出せば流石に聞こえてくる。
「・・・・・・」
そして、母は変な目でこちらを見てくる。
「ねぇ月海、まだあの変な時計使ってるの?」
「え、いや、その・・・・・・」
変な時計とは、目覚ましの時にアニメのキャラクターが起こしてくれる目覚まし時計のことである。その作品に出てくるヒロイン全員分の声が入っており、曜日でキャラクターが変わる仕様になっている。
勿論、俺が買ったわけではない。佐藤が去年の誕生日にプレゼントと称して買ってきたのだ。見る人が見ればかなりのレア物だが、俺はそのアニメを知らないのでよくわからない。辛うじて知っている声優さんが一人いたのでその声を何度か聞いたが、それ以降は全く使っていない。
「別にああいうのが好きなのはいいんだけどね、もっと現実にも目を向けなきゃ駄目よ」
「・・・・・・はい」
何故か怒られてしまった。
言い訳をすると面倒なことになるのでこの場は黙っておこう。
今このときほどアレスと佐藤を恨んだことはないだろう。
夕食を食べ終わり、荷物を持って部屋に戻る。
いったい何をしているのだ、と怒鳴り込もうとドアを勢いよく開けたのだ。
だがその言葉は、目の前の光景のせいで出てこなかった。代わりに出た言葉。
「ど、泥棒・・・・・・?」
いつものように机の上にはアレスとルースが。
そして、その横に見知らぬ男の子が立っていた。
「ち、違う。僕は泥棒じゃない」
慌てるように否定する少年。しかし、土足でしかも無断で人の家に入っている人間に、そんなことを言う資格はない。
「僕は、その、なんて説明したらいいのか・・・・・・」
言葉に迷う少年だったが、ルースが代わりに説明してくれた。
『以前、スティーレの人間が後からやってくる、という話をしたのは覚えていますか?』
「ああ、確かそんなこと言ってたな」
それでは、ルースの言っていたスティーレの救援がこの少年ということか。
「スティーレ国軍特務部所属マリーノ・S・フレッド少佐。ドディックジュエリ回収およびアレッサンドラ姫の護衛の任を受け、先遣隊として地球に参りました。この度の無礼お許し願います」
少年は咳払いをし頭を下げると、堅苦しい挨拶をした。
「い、いや、別にそんなに怒ってるわけじゃないから」
自分の部屋に知らない人間がいたら驚くが、ちゃんと説明をしてくれるのなら問題はない。勿論、泥棒ではないことが前提である。
しかし、俺とあまり年齢が変わらないだろうに少佐とは、一体どれ程すごい人物なのだろうか。
「なんだい? 僕の顔に何か付いてるのか?」
このありきたりな返しも、俺たちと変わらないのになぁ、とか思ったりする。
「いやぁ、その年で少佐ってすごいなぁって思って」
「そのわりに、あまり驚いてるようには見えないよ」
「まぁ姫様がここにいるわけだし、正直なところ階級とか言われてもよくわからん」
その階級がすごいということはわかるが、俺には関係のない場所での階級にどれだけすごいとか言われてもパッとしない。
現にお姫様が目の前に現れたときも「へぇ~、すごいなぁ」くらいにしか思わなかったのだから。
「あと、何か誤解しているようだから付け加えておくけど、僕は少なくとも君より年上だ」
「へぇ~」
同じくらいとは思っていたが、年下だと思っていた。声も少し幼い感じがするし。
「年齢で言うと17歳だ」
なんと! 17歳といえば高校生2年生と同じではないか。
「まさか、そんな先輩だとは思わなかったです」
「急に敬語にならなくていいよ」
階級とかよりもこういう身近なものの方が、実感が湧くものだ。
「とりあえず、立ち話もなんだからそこらへんに座ってくれ」
と言ったが、座るような場所は無いので、少年はベッドの上に座った。
「大体の話は二人から聞いた。君を危険な目に合わせてしまったようで、僕からも謝罪するよ」
そして、再び彼は頭を下げた。
「いや、だからいいって。それも俺が勝手に頭を突っ込んだだけだから」
「ああ、そうみたいだね。君も自ら危険なものに手を出すなんて、随分と物好きなんだね」
「でも、やらなきゃいけない、って思ったんだ」
危険なことであるのはわかっている。何度もそういう場面に出くわした。しかし、実際体験しても実感がない。あまりにも現実離れしているから。だから、危険だと思う反面、これからしようとしている「みんなを守る」ということをやろうと思えるのかもしれない。
「君のその考え方は少し危ないかもしれない。物事を軽視しすぎている」
「そんなつもりはないんだけどな」
「しているさ。君のは「自分の命」という点においてのことだけどね。確かに君の決意は本物で固いものなのかもしれない。それはそれでいいことだ。だが、問題は君のその冷静さだ。物事を第三者の目線で見ることができている」
そう言われるとそうなのかもしれない。今までも自分中心の考えと、他人から見た自分の考えの二つがあった気がする。だから、みんなを守ろうという気持ちが出てきたのかもしれない。
「君のその冷静さは身を滅ぼす。君は自分自身でその命を軽くしている。もう少し自分を可愛がってみたらどうだい?」
「どうだい? って言われてもなぁ」
元々こういう生き方なわけだし、そう簡単に変えられないだろう。
「別に君の生き方を否定するわけじゃない。もっと自己中心的に物事を考えて、欲を出したほうがいい」
「それだと、文字通り自己中になっちゃうじゃないか」
そんな男にはなりたくない、と思っていたりする。
「人間誰しも自己中さ。人間は欲を持ち、それを理性で押さえる。それが人の生き方だ。君は誰かを助けるという立場に立った時、助ける側の一番を考えている。自分の欲を捨て、他人の一番を考える。これは第三者の目線で君を見た一番の行動だ。冷静に君自身の行動を判断する。他人にとっての一番のね」
なんだかわけが分からなくなってきた。
つまり、俺は誰かを助ける時、自分の欲を捨て他人の一番を考えているという。
「そう、なのかな?」
自分では意識してないからわからない。
「・・・・・・」
なるほど、そう思うことが第三者の目線で自分を見ているということか。確かに無意識に誰かを助けるとした時、一番は自分ではなく他人だ。
「人の生き方にとやかく言うつもりはない。君の生き方も普通に過ごす分にはただのお人よしで済む。でも、僕は君に言わなければいけない。君の掲げるものは、君の命が一番上になくてはいけない。でなければ、それは達成できないよ。それは、君が生きてこそ初めて達成されるものだから」
自分の命が一番上、か。よくわからない。ただ単純にそうしたいと思ったからそうしただけで、よくも考えもしていなかった。
これが俺のいけないところなのだろう。何も考えずにただ客観的に見て、一番やりたいことをやる。それが自分の命を疎かにしていると気付かずに。
「―――――と、これが、二人から話を聞いて君に言いたかったことだ。君がどうするかは自由だからね」
「ああ、ありがとう。その忠告、助かるよ」
と言うと、フレッドはビックリするように目を開いた。そして
「なるほど、ルースの言うことがわかったよ」
と言った。
いったいどういうことなのだ、とルースに聞くが、彼女は答えてくれなかった。
「いや、君みたいな人、僕は嫌いじゃないよ」
何故か少年に励まされているような気がした。
「さて、彼への話が終わったところで、今後の僕たちの話をしようか」
フレッドは改めて話を切り出し、アレスの方を向いた。
「こうなると、覚悟を決めるのは僕たちのほうかもしれないな」
「どういうこと?」
アレスが聞くとフレッドは一瞬こちらを見て答えた。
「ツキミがこれからすることは「全てを守る」だ。それは、ソル、ルーナ、スティーレ全ての考えを否定すること。これからの僕たちの行動次第では、僕たちはツキミと戦わなくてはいけない」
「話の腰を折って澄まないんだが、なんで俺の名前を知ってるんだ?」
「ん? ルースから話を聞いた時に、君の名前も出たからね」
質問してから気付く。今までの出来事を話すとしたら、俺の名前が出てくるのは当然ではないか。
「この呼ばれ方は嫌かい?」
「いや、すまん。そのままでいい。続けてくれ」
フレッドは咳払いをすると話を続けた。
「そう、このままでは僕たちとツキミは戦うことになる。それはあまり良い選択とは言えない。何せ、ツキミにはルースがついているのだからね。それに加え、アレスは戦える状態じゃない。悔しいけど、僕の力はあまり戦闘に向いていない。恐らく素人であるツキミにも、白兵戦では勝てないだろう」
「それはいくらなんでも過大評価しすぎじゃないか」
褒められているのか、そうでないのか、よくわからないが、軍人に評価されると少し照れくさい。
「実はそうでもないんだ。僕は武術を習ったことがないから、純粋なぶつかり合いでは君に負けるだろう。無論、魔法が使えるのなら話は別だけど」
「どういうことだ? 戦いに魔法が使えない制限でもあるのか?」
と聞く俺に、フレッドはふと溜息をついた。
「君は全ての魔力変換機がルースやブイオのように近接距離に特化したものだと思うかい? どちらかいえば、遠距離に特化した魔法効果を増幅させるものが一般的だ」
そう言われると確かにそうだ。魔法といえばゲームとかにでてくるアレが一般的だ、と考えるのに、ルースと共に戦っていたせいで剣や槍などの武器で戦うことが主な手段だと思い込んでいた。
「特にルースは攻撃特化のゲレータ。近接武器も間接武器も関係無しに使える。言ってみれば魔法使い殺しのゲレータだ。魔法を使う暇を与えないものとしては最高の相棒だね。ブイオも同じで、近接武器に変化できる彼女は魔法使いにとっては脅威だ」
魔法は発動までにある程度時間が必要になる。距離を大きくとっていればまだわからないが、白兵戦をやってる最中に魔法を使うなんて無理なことだろう。
「対して僕のゲレータは常に杖状態が基本だ。棍棒のように叩いて使ってもいいが、それは本来の使い方ではないし、純粋な近接武器には後れをとる」
フレッドの戦い方は所謂一般的な魔法使いの戦い方で、ルースを使う俺は天敵ということか。
「まぁ、ここで戦闘の議論をしても仕方がない。話を元に戻そう」
フレッドは再び咳払いをして続けた。
「本来の目的を遂げるとするなら、僕とアレスはツキミと戦わなければいけない。そこで、アレス聞きたいんだが、君はいったいどうしたいと考えている」
「私? 私は・・・・・・」
アレスは暫く考え、そして一つの言葉を口にした。
「私は元々みんなと仲良くしたいと考えていた。だからつきクンの考え方には賛成する」
「でも、それはこの戦争が終わった後の話だ。今はルーナとけりをつけなければいけない。でないと国を守れない。ツキミの目的は戦争の根っこから全てを否定し、全てを守ることだ。それは君の責務に反しているんじゃないか?」
アレスの責務。そう、彼女のやるべきことは俺とは異なる。だから、交わることはできない。
だが、アレスは一つの決心をしていた。その表情から読み取れる。確かな決心が。
「わかってる。私は国のみんなを守るためにここにいる。そのためにルーナと戦っている。それが私のやるべきこと。つきクンの考えはきっと正しい。どんな答えよりも。それは私達が本来目指さなければいけないもの。分け隔てなく全てを救い、全てを導く。それができないと知っているから、私たちは国民にその無力を押し付け、勝手に平和の規模を狭くした。そんなの、間違ってる」
それは国を否定し、自分を否定する言葉。アレスにとって肯定してはいけない言葉。それでも彼女は口にした。それが正しいと。
「だから、私はつきクンについていく。ソルのお姫様としてじゃなく、民を守る人間として。そこに国の違いは無い!」
アレスの言葉を聞くとフレッドは大きく溜息をついた。
「君ならそう言うと思ったよ」
「さすが、私との付き合いは長いからね。フレッド君ならわかってくれると思ったよ」
アレスは笑うように言ったが、その瞳は真剣そのものだった。
「ああ、わかるさ。君の考えは単純だからね」
「単純って言わないでよぉ。私だってちゃんと考えたんだからー」
怒るアレスにフレッドは笑って誤魔化していた。
フレッドもわかっているはずだ。アレスの答えがどれ程の決意だったのかを。
「さあ、これではっきりした。―――――君たちと僕が敵になるってことがね」
打って変わって、フレッドのその声に陰りが出た。
「フレッド君・・・・・・!」
緊張した空気。しかし、それはすぐに晴れた。
「ああ、勘違いしないで欲しい。そういうていで話を進めるということだ」
フレッドの言葉を聞くとアレスは吐息を吐いた。
「もう、ビックリさせないでよ」
「すまない。だが、とても重要なことだ。アレスがその道を選ぶなら、僕は君たちと敵にならなくてはいけない。僕の受けた任はドディックジュエリの回収。ルーナからの妨害を受けた場合の撃破。そしてアレス、君の護衛だ。この中で最優先事項はドディックジュエリの回収。そして次点でルーナの妨害を阻止、及び撃破。そして三つ目がアレスの護衛。君たちはルーナの妨害の阻止を阻止することになる。この時点でアレスの護衛よりも任の位が高いルーナの妨害の阻止が優先される。つまり、君たちを倒す側に回らなければいけない」
フレッドの任であるルーナの妨害の阻止は、俺たちのやるべきことに反する。つまり、フレッドと敵同士になり彼を止めなければいけない。対してフレッドも、ルーナを庇う人間である俺たちと敵になり倒さなければいけないということか。
「今、君たちはすごく危うい立場にあると思ってくれ。ルーナとスティーレは勿論、ソルさえも敵に回している。それどころか、君たちに味方はいないと言った方がいいだろう」
フレッドの言う通り、味方がいないのはわかっていたことだ。全てを否定し、全てを守ると決めたあの時から。
正直なところ、ルースもアレスも味方になってくれるなんて思わなかった。あの時は、自分の考えと意思を二人にぶつけることしか考えていなかった。ルースがいなければ、今の俺は無かった。だから、こうしてルースが味方になってくれて、アレスも一緒に来てくれるのが普通に嬉しい。
「俺たちに味方はいないかもしれない。けど、俺には味方がいる。俺はそれだけで十分だ」
「そう言ってくれると、僕としても動きやすい」
フレッドは立ち上がり窓に手をかけた。
「当面、僕は君たちの目の前に姿を現すことはないだろう。君たちがルーナと決着をつけるまでは」
「それって、任務の放棄とかにならないのか?」
「忘れたかい? 最重要任務はドディックジュエリの回収だ」
確かにそうなのだろうが、目の前に敵がいるのを放置するのはどうなのだろうか。
「だから君たちの前に姿を現さないんだよ。そして、今日も君たちとは出会わなかった。つまり、僕は本隊到着まで君たちと合流できなかった、ということだ。勿論、君たちがやろうとしていることも知らない。「ドディックジュエリ回収の合間に君たちを探したけど見つかりませんでした」と報告すれば問題ない」
問題ないのだろうか?
「だが、本隊到着までそれほどかからないだろう。恐らく、五日もあれば到着するはず。それまでにルーナと決着をつけるんだ。それ以降は僕ではどうにもできない」
フレッドは窓を開け外に出た。
夏の夜風が部屋の中へと静かに流れる。
「健闘を祈る、と、これは言ってはいけない言葉か。僕はルーナとは敵だからね。ならばこう言おうか。「全員」が無事であることを願う。これなら味方に送る言葉に聞こえるかい?」
「ああ、ありがとう。必ず「全員」無事に・・・・・・」
フレッドは俺の言葉を聞くと頷き、闇夜に消えていった。
===========================
『長く見積もって五日ですか。少し厳しいですね』
フレッドが去った後、長い沈黙が続いた。皆、これからのことを考えあぐねていたようだ。やりたいことはわかっていても、その達成方法がわからない。
そこに口火を切ったのはルースであった。
『恐らく、あの傷では暫く動けないでしょうし、こちらからは接触する手段がありません』
そう、それも問題だ。ファルスコールはその魔力反応や気配を完全に遮断できる。ルースでも見つけ出すことは無理だ。
「その後のことも問題だよね。大口叩いたのはいいんだけど、実際どうしたらいいんだろう?」
「やっぱ話し合うしかないよな。両方の国が納得できる条件をだせば何とかなるんじゃないか」
そもそも、ルーナの言い分はオーリオ鉱石の不当な交易にある。それを何とかしたら、実は終わりなのではないだろうか。
『確かに、それは一つの条件でしょうね。ですが、それこそ、そもそもの原因を考えてください。彼女たちはドディックジュエリの回収に来ているのですよ。資源の話も本当ですが、一番の目的はそこでしょう。危険であるから回収している、というわけではないでしょうし、少なくともエリザベッタはそれ以外の目的があるはずです』
そうだった。ドディックジュエリは膨大なエネルギーをそれに詰め込んでいる可能性がある。それを研究していたのがこの事件に繋がるそもそもの発端だ。どの国も手に入れたいのは山々で、それが危険だと知っているから手を出さない。どこか誰の手も届かない場所に、しかも別々に保管しなければいけない。ソルとスティーレはこれで意見が合致しているが、ルーナはどうなのかわからない。
いや、わざわざ地球にまで来て手を出しているのだから間違いないだろう。ファルスコールも代替エネルギーの話をしていたし、保管のために回収に来たというならソルとスティーレと協力をするはずだ。
「どの道、あの子に会う手段がないと意味がないか」
『一応、会う手段がないというわけではありません』
とアレスは言うので、どういうものなのか聞いた。
『ドディックジュエリの暴走を待つのです。そうすれば、彼女もそこに来るはずですから』
「やっぱそれしかないのか。あの子もそれが一番にすべきことだと言ってたし」
今まで通り地道にドディックジュエリを探しつつ、暴走したらそれを押さえ回収する。そこに来たファルスコールと話をする。と、こんなところか。
「結局、やることは変わらないな」
『いえ、そうでもありませんよ。向こうはツキミさんのことをムカついていますから。もしかしたら有無を言わず襲ってくるとも考えられます』
彼女の性格を考えればそれは無いだろう、と思ったが、宣戦布告してきたのは彼女だ。十分に有り得る。
『そのためにも、ツキミさんに力をつけていただかないといけません』
「だよなぁ。戦うかもしれない、ってことで千草に頼んだわけだし」
『それだけでなく、魔法についても勉強してもらわなければいけません』
そうだった。彼女と戦うということは、ただ剣の使い方が上手くなるだけではだめだ。魔法も使えるようにならなければ彼女に勝つことはできない。この間はそれで負けてしまったようなものだ。
『それに、私達の目的が彼女を倒すことではないので、かなりの戦闘技術が必要になります』
「本当は戦わずに終わらせたいんだけどな」
恐らくそれは無理だろう。戦わずに終わらせることも、戦いを途中で終わらせることも。
『ひとまず、ツキミさんには力をつけることに専念してもらいましょう』
「でも、それだとドディックジュエリを探すのはどうするんだ? とてもじゃないが両方をこなすのは無理だぞ」
『ええ、ですから、ドディックジュエリの探索は置いておきましょう』
「いいのか、それで?」
とてもルースの口から出たとは思えなかった。それは何よりも重視すべきことだと、本人が何度も言っていたのに。
『なにも、無視すると言っているわけではありません。今までのような町中を歩き回っての探索をやめるだけであって、場所が特定できるような反応が出た場合は回収に向かいます』
見つかるかどうかわからないものを延々と探すよりは、稽古をしてた方がマシということか。それに空を飛べるようになってからは移動にかかる時間がぐんと減ったから、町のどこで反応が出ても対応はできるはずだ。
「なら、今後の方針は俺の修行がメインということだな」
『そうですね。私は今まで通りドディックジュエリの反応を常時探します。魔法の訓練はアレスお任せしましょう。実践で習ったほうが効率がよいでしょうから』
ルースに任されたアレスは頷いて答えた。
「それじゃ、明日から早速特訓だな。よろしく頼むよ」
「うん、任せて。言っとくけど私の訓練は厳しいよ」
アレスは張り切っているが、頑張らなければいけないのは俺の方である。
こうして、魔法の訓練と剣術の稽古の日々が始まったのだ。






