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魔法少女代行つきみ ~交差する太陽と月~  作者: てらい
幕間 狙われた千草凪
34/74

VS暗殺者

「ふぁぁ、ねむ・・・・・・」

 朝起きて、稽古をして、ご飯を食べて、今に至る。

 頼まれた買い物のために商店街まで出向いてきたのはいいが、あまりの睡魔に瞼が重い。

 昨日は家に帰った後、ずっと気を張っていたのですごい疲れた。勿論、原因はあの暗殺者(仮)である。何があってもいいように周囲に気を配っていたのだが、それが朝まで続いてしまった。

「おじいちゃんには不思議がられるし、こっちは眠いし、ったくなんなのよあの暗殺者(仮)」

 家で気を張っていたのは自分勝手なのでなんともいえないが、そもそもの原因を作ったのは暗殺者(仮)である。

 襲うのなら早くして欲しいし、襲わないのなら二度と現れるな、と思っていたらまた現れてしまった。

「正直、現れて欲しくなかった」

 暗殺者(仮)は昨日と同じように私の後をつけている。

 さて、どうしようか。こんな人通りが多い場所では襲ってこないだろう。昨日と同じように住宅街に行けば何か進展があるだろうか。

 ともかく人通りの少ない場所に出てみよう。そうすれば向こうも動くかもしれない。


=============================


 予想は的中した。さっきまで動きの無かった暗殺者(仮)が徐々に近付いてきている。

 さて、ここからどうする。このまま迎え撃つか、それとも逃げるか。

 勿論、迎え撃つ。

 相手もこちらが気付いていることに気付いているはず。ならばどう出る? 暗殺者が暗殺の対象に気付かれるなどあってはならないこと。だが昨日は、気付かれたうえで私を追い回していた。まるで遊んでいるかのように。

 ということは、暗殺者(仮)は私を暗殺の対象ではなく、違う用事があるということか。

 だが、なんにせよ、相手が相当の手だれであることに違いは無い。そんな奴がわざわざ気配を消してつけ狙うということは、お話しにきただけ、なんてことは無いだろう。

「さて、どう来る、暗殺者(仮)」

 角を曲がったところで人がいないことを確認する。後ろを振り向き暗殺者(仮)を向かえた。

 相手もこちらが止まったことに気付いたのか、その足を少し早めた。

「・・・・・・」

 買い物袋を脇に置き拳を構える。竹刀が無いのは心許ないが、迎撃くらいならできるだろう。

 あと少しで目の前に現れる。あと少しでその角を曲がってくる。

「・・・っ・・・・・・」

 乾いた唇を舐る。

 さぁ、どう来る?

「・・・・・・あなたが暗殺者(仮)さん?」

 角を曲がって現れたのは、暗殺者にしては実に無防備な人間。しかも、同じ年頃少女だった。

「勝手に変な名前付けないでくれる。千草凪さん」

 相手は嘲るように笑みを浮かべていた。

「じゃ、なんて呼べばいい?」

「メイ=ルナ・ユニバーサレ。それが私の名前」

 メイと名乗った少女は仮面で顔半分を隠し、身体全体も黒の服で包んでいた。まさしく暗殺者といった雰囲気だ。唯一、首の赤いリボンチョーカーが、その黒に馴染んでいなかった。

「じゃあメイ、なんで私の名前を知ってるの?」

「さぁね、どうしてだろう?」

 更にメイは嘲笑した。

「私に何の用?」

「なに、あんたが持ってるあるものが、私たちに必要ってだけ」

「あるもの?」

 それは一体どういったものなのか。私が持っているもので、この子に必要なもの。

 それに「私たち」という言葉も気になる。単独ではなく複数で狙っているということか。

「まぁ、気にしなくていいよ。勝手に持っていくからさっ!」

「・・・・・・!」

 メイは言葉と同時にその拳を突き出した。

 拳の掌で受けるが、あまりの衝撃に身体が後ろへと飛ばされる。

「がっ」

 後ろの塀にぶつかり口から空気が漏れる。

「へぇ~やるじゃん。受ける直前に身体を浮かし、腕をバネにして身体への衝撃を抑える。普通の人間には無理な芸当だ」

 メイは拳を突き出したまま腰を落とした。

「・・・・・・」

 今のは中国の拳法? 発勁のような力の入れ方だった。

 だが、その構えや拳の突きは、どの武術にも当てはまっていない。

「じゃあ、こいつはどうだ!」

 後ろ足を蹴り出し、一息で間合いを詰めた。

「それこそ、普通の人間じゃ無理でしょ」

 拳をかわし横に飛ぶ。

 有り得ない跳躍力に瞬発力、そして攻撃力。どれも人間の限界を超えている。

 だが、その攻撃はあまりにも単調で見えすぎる。

 恐らく、武術は勿論、戦い自体をあまり経験していない。その有り余る能力を活かしきれていない。

「・・・・・・なんかムカつく。何で避けるかな?」

「そりゃ避けるでしょ。痛いのは嫌いだから」

 彼女も恐らく私と同じ、どの型にも当てはまらない武術家。相手に攻撃を当て、相手の攻撃を避け、防ぐ。ただそれだけしか知らない。

 この中国の拳法みたいなものや日本の武術のようなものは、より効率の良い攻撃方法を求めた結果ということか。

「あ~あ、人がせっかく手加減してるのに、それじゃあ本気を出さなくちゃいけなくなるじゃん」

「やっぱり、本気じゃなかったんだ」

 すべての力が常人のそれを遥かに超えているにも関わらず、これだけ戦い方が下手なのはおかしい。いや、実際に戦い方は下手だが、その力を出し切っていない。戦い方が上手い下手ではなく、もっと根本的なもの。それが彼女から出し切られていないのがわかる。

「当然でしょ。私が本気出したら、あんた死ぬから」

「っ!」

 メイの目の色が変わった。

 身体を突き刺す鋭い闘気。

「本当は一般人を巻き込むのはダメなんだけど、そこまで抵抗されちゃ本気出すしかないよね?」

 右の拳をだらりと下げる。

 ゆらりと倒れたかと思うと、その刹那、目の前に拳があった。

「―――――!」

 避けられない。

 拳が迫る。

 身体を動かす暇も無い。

「・・・・・・・」

 紙一重。

 その拳は頬を掠め、抜けていった。

「はっ、そこまでできるなんて思わなかったよ。以外に楽しめるんじゃない?」

 頬がじりと痛む。

 楽しみたくは無いが、この戦い、本気でいかなければやられる。

「・・・・・・・」

 目を閉じ精神を集中させる。深呼吸をし、息を整える。

 この空間の支配。

 全てを見る。そこに存在するもの全てを。

「―――――!」

 全てを見る。彼女の全てを。

「何しやがった」

「何も。ただ、あなたを見てるだけ」

 目を開け彼女を見る。

「なるほど、この変な感じはあんたの視線ってことか。しかも、見ているのはその目じゃない。どんな魔法を使いやがった」

「魔法でもなんでもない。私はただ、あなたを見てるだけ」

「っ、むなくそわりぃ」

 メイは再び拳を突き出した。

 防ぐことはしない。それを防いだら、恐らく骨が砕ける。

「ちっ、ちょこまか動き回りやがって」

 彼女の拳は疾すぎる。目で認識することができない。

 私は彼女を見ることしかできない。だから、彼女の初動で全ての行動を把握する。

 避けて、避け続けて、彼女の隙を見る。その行動の先が隙になるのを待つ。

「何故、避けれる! あんたの目には見えないはずだ」

 メイは常人には追いきれない疾さで拳を打ち続ける。

 単調だがその疾さの前には戦い方など意味は無い。そう、見えていなければ、どんな攻撃だろうとかわすことはできない。

 彼女の強さはこの圧倒的な力。何者にも劣らない力。何者にも捉えることのできない力。故に彼女は強い。強さのベクトルをただの力だけで他を圧倒する。

 故に―――――彼女は脆い。力だけが強さの彼女は、その力に追いつかれた時点で崩れる。ほんの少し見えるだけで、彼女は崩れる。

「だあぁぁあ!」

 僅かに振りかぶる拳。

「見えた!」

 拳が届くであろう場所を掴む。

「な・・・に・・・!」

 腕を引き彼女の身体を背負うようにする。

「でりゃああ!」

 足をかけ彼女の身体を浮かす。

 身体は宙を舞い、地面に叩き落ちた。

「ぐぅっ!」

 メイは戦い方を知らない。一番の致命傷は防ぎ方を知らないことだ。

 防御においては、型にはまっていなければ受けきることができない。それが一番の受け方だからだ。

 しかし、彼女はそれを知らない。避けることができても、受けることができない。

「・・・っ・・・・・・!」

 彼女の身体が起き上がると同時に、下段回し蹴りを入れる。

 身体はその瞬発力で上へ跳び上がり、その蹴りをかわした。

「そこで跳び上がるんだ」

 やはり彼女は防御の手段を知らない。

 蹴り入れた足を軸に、逆足からの後ろ回し蹴り。

 宙に浮いた彼女の身体は、その蹴りを避ける手段がない。いくら瞬発力が高くどんな攻撃をも避けられても、空中の彼女にはその瞬発力を活かせない。

 そして、防御の手段を知らない彼女は、その蹴りをまともに受け横の塀に叩きつけられた。

「がっ!」

 攻撃はまだ終わらない。

 足を踏み込み掌底を入れる。見よう見まねの発勁。しかし、その威力はただの張り手より威力はある。

 彼女はそれを腕で防ぐが、衝撃に耐えられず腕が開く。

 逆足を踏み込み、続けて掌底。それは腕の間をねじ込み、胸を衝撃が貫いた。

「がっ、はっ!」

 メイは貫かれた胸を押さえる。

 恐らく息をすることさえ難しいだろう。

「もう、やめたほうがいいよ。あなたじゃ私には勝てない」

「こ、の、糞野郎・・・がッ!」

 メイは鋭い目つきで睨みつけた。

「マジで・・・・・・ぶっ潰す!」

「―――――!」

 大気が震える。

 殺気、闘気、どちらでもない。目に見えない何かがこの地を震わしていた。

「塵一つ残さない。そうすれば、証拠は何も残らない」

 彼女は首のリボンチョーカーを外し、それを腕に巻きつけた。

「世を統べる四大の理。その力を貸しやがれ!」

 腕に巻きついたリボンが光輝く。

「な、に・・・これ・・・!」

 わからない。何が起きているのか。

 目の前の光景が異常だとわかるのに、そこで何が起きているのかわからない。

「痛みは無い。その前にあんたの身体を消してやる」

 メイが拳を構えた。

 駄目だ、逃げなければいけない。ここにいては駄目だ。

 逃げる? どこへ? どこへ逃げれば良いというのだ。逃げ場など無い。

「爆ぜろ! サラマンデル―――――!」

 目の前が爆発する。

 目の前が真っ赤に燃える。

 思わず目を瞑るが、瞼越しでもその光が目を刺す。

 凄まじい熱気。

 皮膚が焼かれそうなほどに熱い。

「・・・・・・?」

 目の前で起きたのは爆発だった。にもかかわらず、この身体は無事である。

 焼けそうなほどに身体は熱いのに、身体のどこも焼けてはいない。

 次第に熱も光も収まっていった。

 瞼を開き前を見る。

「・・・・・・」

 そこには一人の小さな少女がメイの前に立っていた。

 メイの突き出した拳が空で止まり、そこに少女が平然と立っていた。あんな爆発があったのに、少女は何も無かったようにそこにいた。その長い黒髪をなびかせて。

「千草凪」

「・・・え・・・・・・」

 少女が名前を呼び、この手を掴んだ。

 瞬間、周りの景色が変わった。

「なに、どういうこと・・・・・・?」

 一瞬わけがわからなくなる。目の前にいたメイの姿は無く、周りの風景はどこもかしこも変わっていた。

「ここは、家の前」

 そう、先程戦っていたあの場所から、一瞬にして家の前まで来てしまった。

「怪我は無い?」

 小さな少女は無表情に問う。

「え、うん・・・・・・」

 答えると、少女は何事も無かったかのように、その場を立ち去ろうとした。

「ま、待って。いったい、何がどうなってるの?」

 少女は立ち止まったが答えることはせず

「あなたを助ける。それだけ」

 と言って、消えてしまった。それは文字通りの意味で。

 夢でも見ているのではないだろうかと疑ったが、どうにも現実らしい。

「なにがどうなってるの」

 まさに、その状況は意味不明であった。

 夢でないなら彼女たちの後を追うこともできた。しかし、そうする前に彼女たちの気配は消えていた。

 追ったところで何もできない。ならば追わなくてよかった。だが、心の中がモヤモヤする。全くすっきりしない。

 終わった? 何が? 何が始まっていたかもわからないのに、終わったなどと片付けてよいのか。

「でも、どうしようもないんだよねぇ。だーもう、わけわかんない!」








 そして翌々日。心の中のモヤモヤは晴れないまま、学校に登校した。

 あの後も何か起きるのでは何かと気を張っていたが、結局何も起きなかった。疲れ損である。

「ふぁぁ」

 横では高村君が欠伸してるし、この間のことが嘘のように感じられた。

「ん、どうした。俺の顔になんか付いてるか?」

 私の視線に気付いたのか、高村君がその顔をこちらに向けた。

「ううん、なんでも。ホント平和だなぁ、と思って」

 そう、平和。何事もなかったように、今は平和そのものである。

「・・・・・・そうだな。平和だな~」

 高村君はもう一度欠伸をすると、机の中から理科の教科書を取り出した。

「高村君、一限目は数学の授業だよ」

「え、ああ、そうだった。教科書が似てるから間違えたよ」

 教科書のデザインも色も、二つとも全然違うのは言わないでおこう。

「ホント、平和だなぁ」

 高村君は噛み締めるように言った。

 そう、本当に平和である。今というこの時は・・・・・・


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