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魔法少女代行つきみ ~交差する太陽と月~  作者: てらい
幕間 狙われた千草凪
33/74

ストーカー?

 商店街を抜け人気の少ない住宅街へと入る。そして、角を曲がり少し立ち止まる。

「やっぱり、ついて来てる」

 かなり距離は離れているが間違いない。誰かが後をつけて来ている。

 学校を出て暫くした後、誰かが後ろを歩いているのは気になっていた。しかし、偶然だろうと放っておいたのだが、それが仇になったか。

「ったく何なの。ストーカー? じゃないよね」

 そう、これがただのストーカーなら警察にでもいって突き出すのだが、どうも様子がおかしい。

 気配を消しているのだ。ほぼ完全に。こんなことがただのストーカー、一般人にできるだろうか。いや、不可能だ。何かしらの武術の心得を持っていたとしても難しい。それに、ここまで気配を消すとなると、それはもうただの人間にはできない業だ。限られた人の中でもかなり特殊な部類。更にこれが必要になる者は暗殺者くらいだ。

「そんな人間がどうして私を・・・・・・」

 誰かに恨まれるようなことでもしただろうか。それも、こんな暗殺者を雇うほどに。

 いや待て、狙いは私ではなくおじいちゃんという可能性はないだろうか。うん、有り得る。あの人なら、なにか恨まれてもおかしくはない。

「・・・・・・いや、それもおかしいか。それなら最初からおじいちゃんを狙うはず」

 わざわざ孫である私を狙う理由にはならない。

「おじいちゃんには適わないから、私を人質にするとか?」

 それも無いか。まずその手段は暗殺として間違っている。

 ならば、この暗殺者(仮)の狙いは何なのか。相変わらず一定の距離を保ったまま、その気配を消して後をつけてくる。

 たとえ、狙いが私であったとしても、何故一向に近付いてこないのだ。先程から同じ場所を何度も周っているにもかかわらず、その距離を保ち続けている。

 いったい、何がしたいのだろうか。ともかく、相手の出方がわからない以上このまま歩き続けるしかないだろう。








 黒い影が一人の少女を追う。町の角を曲がっては止まりを繰り返す。

「へぇ~、気付くんだ。じゃ、ちょっと遊んでみようかな?」

 黒い影は薄ら笑いを浮かべ、執拗に少女の後をつけた。まるで少女の動向見て楽しむように。

「・・・っ・・・・・・!」

 ある曲がり角を曲がった時だった。突如として一人の女の子が現れた。黒い影同様、気配を消していたわけではなく、何も無い空間から現れたのだ。

 腰まで届く、黒く長髪のおかっぱ頭。それを赤いカチューシャで止め、その身体には合わないほどの大きな白いロングTシャツと赤いチェックのスカートが風で膨らんでいた。黒のニーソックスに赤い靴。実に質素な出で立ちで、見た目はただの女の子だ。しかし、その周りには異質な雰囲気を纏っていた。

「誰、あんた」

 黒い影が問うが、それに答えようとはしない。

「千草凪に危害を加えるのなら、私はあなたを止める。あなた達の目的は別にあるはず」

 女児は影の言葉を無視するように続けた。

「私達の何を知ってるかは知らないけど、少なくとも私はあの女に用がある。あんたの言うその目的があの女に関係してるのさ。だから邪魔させてもらうよ」

 黒い影が女児の脇を抜けそのまま去ろうとした時だった。

「死の宝石。あなた達の言葉でドディックジュエリ」

「どうしてあんたがそれを知っている?」

 振り返り女児に問う。

 しかし、女児は再び影の問いを無視して続けた。

「たとえ、それを千草凪が持っていたとしても、千草凪を傷つけて奪うことはさせない」

「ああ、あんた自分のことさえよければ、どうでもいいって奴か。私達、結構似たもの同士かもね」

 黒い影はニヤリと笑った。

「で、あんたはここを通してくれないわけだけど、勿論、通るにはあんたをぶっ倒していけばオッケーってことね」

 影は腰を落とし左手拳を胸の前で構える。右手はだらりと下に垂れていた。

「あなたでは私には勝てないし、勝てても通ることはできない」

 対する女児は構えも何もせず棒立ちだった。

「はっ、ムカつく餓鬼だっ!」

 影は右足で踏み込み、その垂れた右腕を鞭のように打ち出す。それはあらぬ軌道を描き女児の顔目掛け飛んだ。

 だが、その拳は女児を捕らえることなくその直前で止まった。いや、掴まれた。何も無い空間に、その拳は防がれたのだ。

「・・・・・・あ? ああ、なるほど、そういうこと」

 影は一人で納得すると腕をクルリと捻り、掴まれたものから拳を捻り取った。

「ますます、あんたと私って似てるんじゃない?」

「違う。あなたのそれは、ただの搾取」

「へぇ~、それじゃあ、あんたのは何だって言うの?」

 しかし、その問いには答えなかった。

「―――――はぁ、なんか興が醒めた」

 影はわざとらしく溜息を吐く。

「あんたと戦うのは面白そうだけど、時間がかかりすぎる。生憎とこっちも暇じゃないんでね」

 黒い影は女児に背を向けた。

「ああ、そういえば「それ」もうすぐ爆発するよ」

 去り際の一言。

「・・・・・・大丈夫、もう解除した、って」

 女児は目の前の空を見て答えた。

「あ、そう。ホント、ムカつく奴ね」

 黒い影は言い残し、その場を立ち去った。同時におかっぱの女児も空へと消えた。







「・・・・・・何がどうなってるの?」

 先程まで後ろをつけていた暗殺者(仮)が急に立ち止まったかと思うと、すでにその目の前にもう一人の誰かがいた。そこには暗殺者(仮)しか居なかったのに、いつの間にか二人になっていた。何を言っているのかわけがわからないが、つまりそういうことが起きたということだ。

 そして、その二人はすぐに消えてしまった。一人はすごい速さで移動し、一人は文字通り消えた。

「わけがわからない。どうなってんのよ」

 結局、何事も無かった。何も起きなくて良かったと思いたいが、謎は深まるばかりだ。

 突如として現れた謎の人物は何なのか。暗殺者(仮)よりも謎だ。いきなり現れて、いきなり消えてしまった。

「助けてくれた・・・・・・」

 と、思いたいが、実際はどうなのだろうか。

 いや、そもそもが勘違いで、本当は何も関係が無く、私がつけられているというのも思い違いということは・・・・・・。

「それだったらどれだけ良かったことか」

 確かにつけられていたのは事実だ。でなければ、同じ場所を一定の間隔で同じように何度も周ったりはしない。

「結局分からずじまいか・・・・・・」

 つけられた理由も、逃げていった理由も、突然現れたもう一人も、全部わからない。

 考えたところで答えが出るわけでもない。ひとまずは家に帰り、様子を伺うしかないだろう。


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