パツキン美少女との出会い
「どうした、なんかあったのか?」
朝、教室に入り席に着くなり、高村君がそんな言葉を投げかけてきた。
「それを聞きたいのは私なんだけどなぁ」
彼には聞こえないように呟くと、高村君は首をかしげた。
「ううん、なんでもない」
急に意識がなくなったり、身体が熱くなったり、自分とは違う他人の感情を感じたり、よくわからないことが起きた昨日。ホント、聞きたいのはこっちである。
「で、なんかって何?」
「いや、ちょっと疲れてるなぁ、と思って」
「え、ああ、顔に出てた?」
疲れている、と言えば疲れている。だが、それは肉体的なものではなく精神的なもの。
「昨日家に帰ったら、無断で学校休んだことをおじいちゃんに怒られたんだよ」
自分の記憶では気付いたらあの時間だったわけで、無断で休んだといえばそうなのだが、それは与り知らぬことである。
「千草のおじいさんって相当怖いんだろ?」
「そりゃ人間やめてるからねあの人」
そう、あの人はすでに人間を超越している。徒手空拳は勿論あらゆる武器を持った人たち、あらゆる武術における達人でも、白兵戦で勝てる者はいないだろう。
そして、そんな人に怒られるとか考えたくもない。実際に何度か経験があるが、今こうして生きているのがおかしいと思える。
しかし、今回は肉体的な罰を与えられたわけではなく、精神的な罰を与えられたわけである。それはもう生きた心地はしなかった。帰ってから寝るまでの間、延々とあの人の説教を聞いていたのだから。しかも無言のほうが多い。所謂、無言の圧力である。
「なんていうか、悪いな・・・・・・」
「なんで高村君が謝るのよ」
「そ、それはその、なんていうか・・・・・・」
やっぱり怪しい。なんか隠してるよこの人。でも、教えてくれないだろう。
「はぁ、皆勤賞もこれで取り逃しちゃったし、学校に来るための意義を一つ無くしちゃったなぁ」
「そ、そこまで重要なことなのか?」
「当たり前でしょ。皆勤賞の賞品が何なのか高村君はしらないの?」
「一応、聞いとくけど、何が商品なんだ?」
質問する割にあまり興味なさそうにしている。
「図書券二千円分」
「はぁ」
「なによその反応。高村君にはこの価値がわからないの?」
図書券二千円分といえば、その名の通り二千円と同等の価値がある。しかし、本当の価値はそこではない。今この時代における図書「券」というものの価値は計り知れないのである。カードというハイテクなものへと移行してしまったこの図書券。今はもう存在しているのかも危うい。それなのにこの学校はどんな力を使ったのか、図書券という古の紙切れを賞品として扱っているのだ。
「わかるかい、この価値が!」
「なんとなく「すごいな」ってのはわかった。でも、そこまでのものなのか?」
「そりゃそうよ。結構古いものでも大概残ってる私の家でも、図書券だけはないんだよ。これがどれだレアモノか・・・・・・」
「俺ん家にあるよ」
「!!!」
なんと! 今、彼は幻の図書券を所持していると言ったのかっ!?
「母さんが子供のころに貰ったやつが今も残ってるんだよ。ああいうのってなかなか使えないんだって。それで、使わずにいたらいつの間にかウン十年も経ってたとか」
まさか、古臭いものがたくさん転がってる私の家にも無い図書券を、一般家庭が持っているなんて。
「・・・・・・あげようか?」
「っは! そ、そんな哀れみは、いらないっ!」
「別にそんなつもりじゃないんだけど」
こういうものは自分の力で手に入れてこそ価値がある。他人から譲ってもらうなど笑止千万。
「私は自分で図書券を手に入れる。高村君の助けは借りない」
「普通には売ってないから、結局は誰かから譲ってもらうしかないんじゃ・・・・・・」
「なにか言った?」
「いえ、何も・・・・・・」
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「とは言ったものの、やっぱり譲ってもらうべきだったか」
帰り道。高村君に図書券を譲ってもらわなかったことをちょっぴり後悔する。
「まぁ嘆いても仕方ないか。稽古もあるし早く帰ろっと」
と足を踏み出だしたときだった。
目の前から一人の女の子が歩いてきた。
「・・・・・・綺麗・・・」
絹のように滑らかな金色の髪。
硝子のように澄んだ瞳。
白く透き通る肌。
まさに「美しい」という言葉を体現している。
髪の色からして、外国の子だろうか。
「・・・あ・・・・・・」
すれ違いざまに目が合ってしまった。見ているのがばれてしまっただろうか。
しかし、少女は何も気にしないようにそのまま去っていった。
「はぁ、なんか緊張した」
別段そういう場面でもないのに、何故か心臓の鼓動が早くなっている。やはり、ああいう美人さんを見ると緊張するものなのだろうか。
しかし、彼女のファッションはどうなのだろうか。
「上はライダースジャケットかな。なんかテカテカしてたし」
身体のラインがくっきりと出るタイトなものだったが、堂々と着こなしていた。すごいスレンダーだったし。
「でも、下のアレは・・・・・・袴、だよね・・・?」
確かにあれは袴だった。一瞬スカートかとも思ったが、どこをどう見ても袴だった。そもそもライダースジャケットにスカートなんて合うとは思えないけど。
だがしかし、彼女は見事に着こなしていた。その不釣合いな和と洋のコラボレーション。何故だ、何故彼女はあそこまで着こなせていたのか。
「う~ん、謎だ・・・・・・」
『また、あの子かい。ドディックジュエリは人を選んだりするのかね?』
通り過ぎざまにブイオがファルスコールに話しかけた。
『それともあの子自身が呼び寄せているとか』
二人はドディックジュエリを探し町を歩き回っていたのだが、偶然にも昨日出会った彼女と出くわした。そしてその彼女が再びドディックジュエリを所持していたのだ。
『まったく、こっちは町中這いずり回って探してるっていうのに』
「愚痴をこぼしても、何も変わりませんよ」
『わかってるよ。それで、どうするんだい? あの子の後をつけるか、それとも・・・・・・』
「いえ、先にあちらを優先しましょう。あの不可思議な魔力反応、放っておくわけにはいきません」
二人の目的はドディックジュエリの捜索。しかし、それ以上にこの町の人たちに被害が及ばないようにしなければいけない。彼女の持つそれはまだ何も起きていない。ならば今起きていることを優先しなくてはいけない。
「だからといって、彼女を無視するわけにもいきません。ここは姉上に連絡して、少し手を貸していただきましょう」