不思議な出会い
空から女の子が降ってくる、なんて事はあり得るのだろうか。あるいは異世界から、あるいは未来から、あるいは過去から、あるいは平行世界から。更には記憶喪失なんていうおまけつきで。
その答えは必ずしもNOではない。この世は何が起きておかしくはない。
それは確立の問題であり、絶対的な否定をすることはできないのだ。例え科学的な根拠が無くてもだ。
もしも、この世界が二次元だとしたら、昨今の漫画、ラノベ、アニメなどで多々起きている運命的な出会い、というやつに当てはまるのだろう。
それは主人公にとって転機であり、たいていの場合は巻き込まれつついつの間にか「正義の味方」と言われるような善行に走っている。
俺はこんな展開は嫌いじゃない。むしろ好きな部類に入るだろう。今までも似たような展開をいくつか目にしてきた。しかし、いくら王道、テンプレといわれようが心が躍る。
現実で起きる確率は非常に少ない。限りなくゼロに近いだろう。だが、起きてしまった場合、俺自身は運命的な出会いに歓喜するのだろうか。それとも、当事者となって始めて理解する非現実な出来事に、そんなことやっていられるか、と放棄するのか。
俺は面倒ごとは嫌いだ。だから、後者の人間だと思っていた。故に、今回の出来事に我ながら驚いている。あまりにも冷静でいられた。あまりにも事を受け入れていた。
自身ですでに諦めをつけているのか、それとも、自分自身の出来事を第三者の目線で見ることができているのか。それはまだわからない。
「……! ……はぁ、なんなんだよぉ~、ったく」
目覚めは最悪だった。
窓から射す日差しが眩しい。それもそのはず、今の時刻は午後二時半。授業の真っ只中である。
一番窓側の席に座る俺にとって、この時間の太陽は眠気を誘うもの以外の何ものでもなかった。いつもならばチャイムが鳴るまでは起きないのだが、今日は変な夢のせいで三十分も早く起きてしまった。
余った時間はどうすればよいのだろうか。勿論、授業を受けなさいと言われるのは重々承知だが、この半端な時間に起きた数学の授業ほど訳が分からないものは無いだろう。
みんなも真面目に授業を受けているかと思えばそれはクラスの半分だけで、もう半分は俺と同じように夢の世界に行っている者や、教科書の影に隠れ携帯をいじっていたりゲームをしている者もいる。
後ろの席にいるとみんなが日ごろの授業をどう過ごしているか分かってしまうのである。あの真面目な委員長があんな事を!? 的なことは無いが、皆が思っている以上に授業中は静かに荒れていた。
――――――
朝日市立光陽中学校。2年3組16番、高村月海。
親いわく、海月にしたかったらしいが、そうすると海に浮かぶゼラチン質のアレになってしまうので、さかさまにしたらしい。親に知識があってよかったと心から思う。しかし、「つきみ」にしろ「みつき」にしろ、あまり男っぽくないと思う。最近はそうでもないのだろうか?
季節は春(6月上旬)学生服を着ていると暑いと感じる気温になってきた。
遠足、ゴールデンウィーク、そして中間テスト。春に行われる行事はほとんど終わり、クラス替え後のよそよそしい雰囲気など、とっくの昔になくなっていた。かわりにクラス内にいくつかのグループが出来上がり、そのグループ内だけで盛り上がるという、よくありがちな光景になっている。
決して仲が悪いとかそういうのではない。ただ共通の話題が少ないのである。共通の話題がグループ形成の要因のひとつにもなっていて、自然と同じ話で盛り上がれる人間が集まりグループとなっているのだ。
さて共通の話題とは言ったが、中学生の俺たちがする話なんて大体決まっている。
あるグループではスポーツの話で盛り上がる。中学に入学すると部活動というものを始めなければいけない。クラス内でもその部活動グループが集まるということが多々あり、自分が所属している部活動のスポーツの話で盛り上がる。しかしなぜか、文化部にはそういう現象が起こらない。この学校だけなのか、それとも全国共通なのか。
あるグループはアイドルについて語り合う。男子も女子そうだが、この年頃は何故か芸能界の情報に精通していないとやっていけない。
あるグループはTVについて語り合う。これは上記と似通った部分があるが、こちらのグループは主にバラエティが専門である。
そしてもうひとつ、これは主に男子に当てはまることだが、アニメ、漫画、ゲームなどそういった娯楽系の話。現代っ子なら普通であろう。そして皆、厨二病に感染している。
言うまでもなく俺はこのグループに所属している。おそらく俺は邪気眼系だろう。日々妄想に妄想を重ね、何度かこの学校が壊滅状態に陥った。
「ういっす、今日も一日お疲れさん」
六時限目の終了を告げるチャイムが鳴るやいなや、前の席からクルッと振り向き俺に話しかける一人の男。
「で、今日はどうすんだ?」
そしてもう一人。少し離れた席からやってきた男が、目の前の男と親しげに話す。二人とも厨二病グループの一員だ。
俺の前に座っている、背がひょろ高い男が鈴木茂。そして横に突っ立っているちょいとばかし体がふくよかなやつが佐藤翔太。
二人ともノリがよく、知り合ってからはすぐに仲良くなり、一年生の時からの長い付き合いである。
どうでもいい情報だが、日本で一番多い苗字のツートップである。そしてこれもどうでもいい情報だが、おそらくグループ内でも屈指の実力を持つ人間である。
「お前ら準備よすぎだろ」
少し呆れながら言った。二人とも放課の準備はすでに完了しているようだ。
「っていうか、今日は普通に帰るよ」
「なに……? ま、まさか、この俺を裏切るのか!?」
隣に立っていた佐藤が妙な言い回しで聞いてきた。
いつものことである。あまり気にしないでおこう。
「ん~、まぁ色々あるんだよ」
色々とは昨日発売されたゲームをいち早くクリアすることだ。
「なんだよそれ……って、ああ、昨日発売されたゲームをいち早くクリアすることか」
一字一句もらさず正確に言い当てる鈴木。お前は超能力者か。
「だってお前、昨日も予約したゲームを取りに行くから無理、とか言ってただろ」
体をひねりながら後ろを向いていた鈴木が、さらに体をねじらせ言った。
「あー、そういえばそんなこと言った気がする。ならば仕方あるまい。完クリできるよう健闘を祈る」
「お、おう」
こんなことで応援されても困るんだが。
ちなみに完クリとは完全クリアのことで、そのゲームにおけるすべての要素を成しえた時に初めて完クリといえるらしい。全クリはストーリーをクリアしただけとかなんとか。
実際のところその辺の定義はよくわかっていないらしいので、俺としてはどっちでもいいことである。
しかし、こいつらの言う完クリとやらをどのゲームでもやってしまうので、いつの間にやらそれが当たり前となり、逆にゲームをやらなければいけないというある種の脅迫のようなものに襲われている。
まぁ、実際やっていて楽しいので特に問題はないのだが、はずれを引いたときは絶望的である。
「終わったら感想聞かせてくれよ」
「ああ、了解。じゃあな」
話している間に片した荷物を担ぎ、二人に別れを告げた。
あまり都会とはいえない、校門から見える町の風景。目の前には大きな道路があり、何台もの車が行きかっている。
校門の反対側には文具屋がある。ここで文房具をそろえることが、この光陽中に在籍するものの義務である。
校門を出て左に曲がり十三歩行くと十字路がある。今しがたその十字路に設置してある信号が、青色から赤色に変わった。
この信号はちょうど一分で変わる。目の前を通り過ぎる車をボーっとただ見つめる。信号が青に変わったら右足から踏み出し横断歩道の白い部分だけを歩く。渡りきったらそのままずっとまっすぐ歩き続ける。
ずっとずっと。1キロくらいあるのだろうか。さすがに歩数までは覚えていない。
左手には住宅街。右手にも住宅街。途中にはスーパーがある。よく学生が買い食いをしているが、最近は交通の便もよくなり都心に繰り出すことが多い。
ここのスーパーもずいぶん寂れてしまった。しかし住宅街の中にあるので主婦にとってはありがたいことらしい。まだまだ現役で活躍している。
ずっとずっと歩いた先に丘があり、そこからさらに坂道をずっとずっと歩く。
丘といってもたいした大きさではない。緩やかな上り坂と下り坂が何度か繰り返されるだけだ。丘の中は少し木々が多くあまり家は建っていない。
さらにさらにずっとずっと歩くと少しずつ木々はなくなっていき、そこからまた住宅街が続いている。
途中で大きく道が分かれる場所がある。左へ行くと我が家が待っている。右にも家が数軒建っているが、畑が多く農家の家ばかりだ。
そして、ちょっと奥へ行くと少し大きめの公園がある。といっても見たところ普通の公園と変わりはない。変わっているところといえば、なぜか雑木林が真ん中にありそんなに広いわけでもないのに中に入ると迷ってしまいそうになる。
子供のころはここでよく遊んでいたが、度々帰り道がわからなくなることがあり、立ち入り禁止になるまでの問題に発展した。今はもうそんなことはないが、暗黙の了解で雑木林の中には立ち入ってはいけない、というのが子供たちの間ではできているようだ。
「って、なんで俺こんなとこにいるんだ?」
いつの間にやらその公園の目の前に来ていた。
まったく、そんな説明してるからこんなところに来てしまうのだ。早く帰ってゲームをしよう。
しかし、妙な雰囲気がこの公園内を包んでいる。そんな気がした。ここへきたのも何か運命的なものがあるのでは、と、またいつものように妄想してみたりする。
だが、この妙な雰囲気、違和感。それだけは俺の妄想の中での一人歩きとは違う感覚がした。そして、その違和感は、現実に起こっている「何か」であると、この直後に知ることとなる。
丸い円状の広場。花壇が周りを囲んでいた。
遊具が入り口の横にあるが、滑り台、鉄棒、ブランコの3つしかない。
そして不自然な雑木林。
形で例えるならドーナツ型である。ドーナツの穴の部分が雑木林になっていて、周りの生地が広場となっている。
公園内では小学生たちが元気に遊んでいた。彼らも例に漏れず雑木林には近付かないようにしている。
うん、子どもは元気が一番だな。俺は帰ってゲームをしよう。
言っている事とやっている事が違うのは気にしないでくれ。
家に帰ろうと身体を180度方向転換させる。すると、目の前の公園の入り口に一人の少女が立っていた。
小学生くらいの女の子。おかっぱ頭のロングヘアに赤いカチューシャをつけていた。体のサイズにあっていない大き目の白いTシャツ、それにチェックの入った赤いスカート。実に質素な出で立ちだった。
少女の目は真っ直ぐにこちらを見つめ離さず、同じように少女から目を離すことはできない。少女から感じ取れる妙な雰囲気が、目を離せずにいた。
「太陽が落ちた」
そして、少女は意味ありげに言葉を発した。
「……え?」
「いずれ月も落ちる―――――あなたはどうする?」
「どうするって……」
「あなたの選ぶ道に私は口出ししない。何を選んでも、それはあなた自身に変わりは無いのだから」
少女の言葉は何を意味しているのか理解できなかった。
「……忠告。あなたは絶対に自分を見失ってはいけない。ただ、それだけ」
少女は言い残すとその小さな身体を翻した。
「ちょ、待ってくれ。君は一体何が言いたいんだ」
少女はその場に立ち止まり振り向きもせず、
「二度は言わない。私の忠告を守ればそれだけでいい。私の望みはそれだけ」
と放つように言った。
そして、言い終わると同時に消え去った。それは比喩ではなく、文字通り目の前にいた少女は跡形も無く消失した。
「なっ!」
目の前で人が消えた。何度も目を擦り周りを見渡しても女の子はいない。ありえない現象だった。
いくら俺が厨二病を患っているからと言って、ありえる事とありえない事の区別くらいつく。
「なんだってんだ、わけわかんねぇよ……」
夢、でもない。試しに頬をつねってみたが、普通に痛い。
では一体なんだったのか。
「超能力?」
そんな非現実的なものがこの世にあって良いのか。
俺ならもちろん大歓迎だが、現実というものは時に厳しい。非科学的な超常現象は常の世では存在しないと考えられている。
しばしばテレビで見かける超能力や魔法といった類は何かしらタネが存在するとされる。タネが存在しないのならそれを証明してみろ、という話になるのだがタネが無いので証明不能なのである。
つまり何が言いたいかというと「わけわかんねぇー」ということである。
「……今のは見なかったことにしよう。うん、それがいい」
余計なことに首を突っ込むと良くないことが起きる。これはリアルでも二次元でも同じである。
「よし、早く帰ろう。そうしよう」
再び公園の入り口に向き直り、一歩を踏み出す。すると、
『 』
何かが聞こえたような気がした。
「……?」
踏み出した一歩を戻し公園の中を見回した。しかし、そこには遊具で遊ぶ子どもたちの姿しかなかった。
『―――か――――て――い』
消えるような声。
今度は何が起きたというのだ。
頭の中に響く声。かすかに聞こえる言葉は、直接脳に言葉が刷り込まれていくようだった。
『誰か! この声が聞こえるのなら、助けてください』
今度は確かにはっきりと聞こえた。今のは幻聴でもなんでもなく確かな声だった。それも「助けて」と。
「行くしか……ないよな」
誰かが助けを求めている。それならば行かないわけにはいかない。それに事実でも幻聴でも、どちらであってもこの先に進まなければいけない、そんな気がした。
そして、俺は言葉に引き寄せられるように雑木林の中に入っていった。
中はたくさんの木々で入り組んでいる。まだ太陽は明るいというのに、中に入ったとたんに、まるで夜のように薄暗くなった。
子供のころはもちろん、今でさえこの中は迷いそうになるのに、今このときだけはどの方向へ進むべきなのかがわかる。自然にその方向へと足が進む。
恐怖心があるのにもかかわらず、好奇心が前へと出る。絶対に厄介ごとに巻き込まれる。そう思うのに、この状況は自身の心を弾ませた。
そして、行き着いた先。そこはおそらくこの雑木林の中心。なぜかここだけは木が避けるように生えていて広くなっている。
『あなた、私の声が聞こえますか!?』
今までで一番はっきりと聞こえたその声。それが女性の声だと今気づいた。それまでは、ただ言葉がそのまま文字として頭に入ってきていたため、声の主が男か女かは判断ができなかったのだ。
「あ、ああ。聞こえてる」
どこにいるかはわからなかったが、確かにここにいるであろう声の主に返した。
『よかった』
ほっとしたのか安堵の声が聞こえた。
『あ、あの、えっと、ちょっとこっちに来てもらえますか?』
「って言われても、えっと……どこ?」
見渡す限りではどこにも人影は見えない。
『え~っと、そのまま前に3歩。左に2歩。そして下を見てください』
「は、はぁ」
と、言われるままに前へ3歩。左へ2歩。そして下を見た。
「えっと……?」
そこにいたのは恐らく小動物。恐らくといったのは今までに見たことのないモノだったから。イヌのような、フェレットのようなよくわからないものである。首には太陽を模した白銀の首飾りがかけられていた。太陽の真ん中には紅に光るガラス玉のようなものが装飾されている。
やはり、一番しっくりくる表現はイヌだろうか。しかしイヌにしては小さい。ティーカップ程度の大きさだろうか。
「……そーいえばティーカッププードルっていたな。それか?」
『違いますよ! 犬ではありません。それともこちらの世界では犬に羽が生えているのですか?』
初対面でいきなりツッコミを入れられてしまった。
「いや、悪い。そういう意味ではないんだ。」
そう、このイヌもといイヌもどきには羽が生えているのだ。これが、今までに見たことの無い生物、と例えた一番の理由である。
「それよりも……イヌが喋ってる?」
いや、見た感じだとイヌもどきではなく首飾りのほうが喋っているのか? どっちにしても普通ではないことは確かである。
「もしかして、喋ってるのってそっちの首飾りか?」
そう思ったのは、イヌもどきはぐったりとしていて気を失っているからであった。
『そうです。その首飾りがしゃべっています』
なるほど、と納得するように頷いた。
『それより疑問に思わないのですか? 首飾りが喋ることに』
「いや。めちゃくちゃ疑問に思ってる」
『では、なぜそんなにも冷静なのですか?』
「たぶん非現実的すぎるから。あと俺の脳がオタクというものでできてるから」
『ごめんなさい、ちょっと意味がわからないです』
そりゃそうだ。理解できるほうがすごいと思う。おれ自身も理解していないのだから。
「いや、別にわからなくていいよ。っていうかお前も結構冷静だな。なんかやばそうなんじゃないのか?」
『確かにやばいといえばやばいですけど、大丈夫ですよ。ほっといても死にはしませんから』
ひどい言われようだな。さっきまで助けて、って叫んでたのに。
「ところで、俺はどうしたらいいんだ?」
この子はホントは人間で、とある怪物か何かに襲われてやむなくその姿になっていて、力が戻るまでその子の変わりに魔法かなんかで戦えとか。と、いつものように妄想をする。
そんな展開になったらかなり燃えるが、正直なられても困る。そういうのは二次元だけで良い。
『マスター……このイヌもどきを安全な場所まで運んで頂けるとありがたいです』
「まぁそれくらいならかまわないけど。―――――よいしょっと」
イヌもどきを持ち上げ落ちないように両手でしっかり包んだ。
「とりあえず、ここから出られればいいよな?」
『はい。その後のことは私たちで何とかしますから』
何とかなるのか? そんなことを思いながら雑木林の出口へと向かった。
『ひとつお聞きしたいことがあるのですが、よろしいですか?』
首飾りが話しかけてきたのは、この雑木林を半分ほど抜けた辺りであった。
「ああ、別に構わないけど」
『あなたは魔法というものが存在すると思いますか?』
唐突だった。しかも魔法ときたもんだ。
ついさっき不思議現象を見たばかりでこの質問である。さて、なんて答えようか。
「う~ん……あるんじゃないか? 俺は知らないけど、それは俺が知らないってだけで、この世のどこか
には存在するのかもしれないからな」
『……なるほど、そういう解釈ですか……』
彼女は腑に落ちない返答だ、と言いたそうにした。そして更に唐突に、
『魔法は存在します。私たちの星では、ですけど』
と言った。
彼女の口ぶりからすると、二人は地球の人間(?)ではないのだろう。
これは本格的にファンタジックになってきたぞ。
「でも、何でそんなことを急に聞いてきたんだ?」
『それは……』
彼女は言葉にするのを渋った。
「ま、言い難いことなら別に話さなくてもいいけど」
『……いえ、ただ確認をしておきたかっただけです』
「何か気になることでもあったのか?」
『はい、ですが、それは私の杞憂に済んだようです』
彼女は詳しく語ろうとはせず、そして淡々と続けた。
『ちょっといいですか? 私たち、たぶん迷子になってますね』
「へぇ、そうなんだ……え?」
いやいやいや、待ってくれ。何の脈略もなくいきなり迷子になったとか止めてくれ!
「えっと、どゆこと?」
『言葉のとおりです。途中までは正しい道を歩いていたようですが、少し前からまったく別の道を歩いています』
「まったく別の道?」
どういうことだ。俺は、ただ来た道をそのまま帰っていただけなのだが。そして今もその道を歩いているはずだ。しかし首飾りいわくまったく違う道らしい。
『はい。まったく別の道です。正確には「正しい道」であっているのですが、それが出口に通じていないのです』
「つまり、出られないって事か?」
一抹の不安を感じつつ聞いてみた。
『そうです。出られません』
結構あっさりと言われた。
『この道はあなたが来るときに通った道で間違いないようです。今まで歩いた道もすべてそうでした。しかしどこまで歩いても出られない。恐らく、どこかで道がループしているようです』
ループってまたやっかいな。迷いの森現象か。無限ループって怖いよね。
「それにしても、なんで俺が歩いた道ってわかるんだ?」
『それは魔力の流れですよ。この道からはわずかですがあなたの魔力を感じます』
「魔力の流れ、ねぇ。魔法とか関係ない俺たちにもそういうのがあるのか?」
聞くと彼女は答える。
魔力というものはどんなものにも存在する。植物も動物も、大地も空気も、機械、建造物なんかにも魔力の反応はあるのだとか。たとえこの世界に魔法が存在しなくても、魔力自体がないわけではないという。
「ふぅん、なんか難しそうだなそういうの」
『私たちにとっては当たり前ですから、そうでもないのですけどね。―――――それで、話の続きですが、正直このままではどうしようもありません』
「どうしようもありません、って何か方法はないのか?」
『方法はあります。この無限に続く道を作り出している元を叩けばいいのです。』
「元を叩く……」
なんかいやな予感がしてきた。これは完全に巻き込まれたか? 巻き込まれたのか!?
「なぁ、あんまり聞きたくないけど、その元ってやつは何だ?」
『恐らくそれは、私たちが今に至るまでを作った原因』
今まではスパッと答えていたのに、なぜかここでまわりくどい言い方をする。
「つまりお前たちを襲った怪物ってこと……?」
『えぇ、恐らくですけど』
「もしかしてもしかすると俺が変わりに戦うとかそういうパターン?」
『状況的にそういうパターンですね』
「マジで?」
『マジです』
ついに俺も二次元の世界に来てしまったか。嬉しいやら悲しいやら。
心躍る反面、理不尽な巻き込まれ具合に肩を落とす。まぁ自分から飛び込んだ訳だし、理不尽ではないか。
しかし、不思議と冷静でいられる。それはまだ、自身の命運とやらが理解できていない証拠でもあった。