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魔法少女代行つきみ ~交差する太陽と月~  作者: てらい
第一章 墜ちた太陽と月
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少年の決意

 授業開始5分前の予鈴が学校中に鳴り響いた。生徒たちは皆自分の席へと戻って行く。佐藤も鈴木も席に座り教科書を引き出しから取り出していた。

 さっきまで一緒にいたのに、何を話したのか覚えていない。いや、俺は話していなかったか。でも、あいつらの話も殆どが頭の中を素通りしていた。

「ねぇ高村君、どうしたの?」

 不意に呼ばれた千草の声。横から彼女が覗いていた。

「え、なにが?」

「なんか元気ないな~と思って」

「そ、そうか?」

「そうだよ、毎日顔を合わせてるんだし、そんな顔見せられたら心配にもなるよ」

 そんなに深刻な顔をしていたのだろうか。平静を保っているつもりだったが、そんなことは無かったようだ。

「あ、もしかしてあのパツキン美少女と何かあった? それとも入江さんに密会してるところがバレちゃったとか?」

 千草は昨日と同じテンションで聞いてきた。

「だから密会とかそう言うんじゃないってば」

 別に少女と知り合いであることくらいはバレていようが問題ない。問題なのは少女の正体がバレることだ。まぁ、魔法とかそんな話しても信じないと思うけど。いや、あいつなら逆に興味持ちそうだな。

「じゃあ、何が原因?」

「何って言われてもなぁ」

 実際のところ自分自身でもよくわからない。

 悩んでる? 落ち込んでる? 後悔してる?

 いや、どれも違う。俺は答えが欲しい。これからどうすべきなのかの。

「そういう時は俺たちに相談してくれよな」

「そうそう、何のために友達やってるんだって話だよ」

 席に戻ったはずの佐藤と鈴木が、いつの間にか目の前にやってきていた。

「悩みだろうがなんだろうが、一人で抱え込むなよ。俺達に解決できないようなことでも、話すだけで結構楽になれるもんだぜ」

 佐藤の言葉は人並みの言葉だった。でも何故だかとても嬉しくて、そして恥ずかしかった。

「佐藤・・・・・・・・・お前そのセリフ何のアニメから取ったんだ?」

 恥ずかしさ紛れに放った一言。

「俺のセリフだよ!」

 嬉しいのは本当で、でも「ありがとう」という言葉は出てこない。いつもバカやってるこいつらに、そんな言葉は恥ずかしすぎて言えるわけがない。

「昨日の再放送してたアニメでそんなセリフがあったね」

「ちょ、おま」

 おい鈴木、俺の感動を返してくれ。ってかホントにあったのかよ。

「でも、それがどんな言葉だろうと関係ない。俺たちダチがお前のことを思ってる、ってことをわかって欲しいんだ」

「・・・鈴木・・・・・・」

「ってのも昨日やってたね」

「それもかよ! なんか余計にお前たちに話しにくくなった」

 しかし、佐藤も鈴木も俺のことを思ってくれていることが事実であることくらいわかる。そういう奴らなんだ二人とも。

「あーもう、なんかどーでもよくなってきた」

 でも、だからこそ、こいつらには話せない。少しでも話してしまったら巻き込んでしまうかもしれないから。

「なんだよ、折角心配して来たのに」

「でも、どうでもよくなったのなら、それはそれでいいんじゃないか?」

 佐藤も鈴木も俺の大事な友達だから。

 自分で決めなければいけない、どうするのかを。

 答えのない答えを出さなければいけない。


==================================


 それは放課後の誰もいなくなった教室での出来事だった。

 結局、答えを出せないまま一日が過ぎてしまった。嫌でもその答えがすぐに必要になるというのに。

「まだ、迷ってる?」

「・・・え・・・・・・」

 千草は今朝と同じように聞いてきた。それも、確信を持って。

「まぁ女の勘ってやつよ」

 時々思うのだ。女の勘はずるいと。

「で、どうなの。高村君は迷ったままでいいのか、それとも答えが欲しいのか」

「・・・・・・答えが欲しい」

「でしょ、なら話してくれてもいいんじゃないかな?」

 千草の申し出はとても嬉しい。しかし、それではさっきと同じだ。みんなを巻き込まないためにやっていることなのに、みんなを巻き込んでしまう。それじゃ意味がない。

「正直言うと、もう何を聞いても驚かない気がする」

「どういうこと?」

「この間のこともそうだけど、なんか最近周りで変なことばっかり起きるのよ」

「変なこと・・・・・・」

 まさか、ドディックジュエリの影響が出てるとか。千草には前例があるから、なくはない話だ。

「まぁまぁ私の話はいいから、ほれ話してみんさい」

 と千草は催促するが、話せないものは話せないのである。

「じゃあさ、高村君はこのまま悩みっぱなしで、結局何もしないで終わるつもり? そんなの嫌でしょ」

「だけどさ・・・・・・」

「だけど何? 私には関係ないから話せないの? 関係なかったら話せないの?」

 関係無い。それは俺が言われた言葉だ。その言葉に反論できなくて、でも俺はしがみ付いていたくて。そう、関係無いことが関係無い。

「そう、だよな。関係なくてもお前は心配してくれてるんだもんな。だったら話さないと」

 それでもやっぱり、掻い摘んで話すしかない。それ以外のことを話してしまったら、千草も戻れなくなってしまう。

「―――――すごい抽象的でわかりにくいわね。まぁでも、そんなのもう答えでてるじゃん」

 しかし、千草の答えは予想以上に早かった。

「要は高村君は全部を守りたい、ってことでしょ。自分も友達も家族も相手も見えるもの全部。で、それはできない、って論破されちゃったわけだ。そりゃそうよ、できるわけないもの」

 千草は俺が否定された事実をあっさりと受け入れていた。いや、むしろ肯定しているようだった。

「じゃあ、俺はこのまま引き下がるしかないのか?」

「でも、高村君はそうしたくないんでしょ。じゃあ食いつけばいいじゃん。思いが足りない? 覚悟が足りない? そんなのそうよ。私たちはただの中学生で、平々凡々な人間なんだから」

 そして千草は、さっきの肯定を自分からひっくり返した。

「高村君の気持ちはごくごく普通の思いだよ。私も友達が大事で家族が大事でこの町のみんな大事。大きく考えすぎかもしれないけど、それって普通のことだよ。例え知らない人でも傷つくのは嫌な思いをするでしょ。高村君はそれを拡大解釈しちゃっただけ。なにも変じゃない。むしろその相手がおかしいよ。自分の周りを救うために他所を切り捨てる。そんな考え方、より多くの人間を救うことが義務の正義の味方か国民のことしか考えることのできないない王様くらいだよ。だから、一般市民である私達のみんなを守りたいって思いは、ごく普通の思いってこと」

 普通の考え方。確かにそうなのかもしれない。でも、その普通は普通ではなくて、簡単に否定されてしまうもの。

「否定されたっていいでしょ。その思いは何かを背負った人から見たらただの理想で、否定しなければいけない存在。でも高村君は何かを背負ってるの? この町のみんなを守る義務があるの? 違うよね、ただ純粋にそう思っただけでしょ。だからそれでいいんだよ」

「本当に・・・・・・いいのかな・・・?」

「いいんだって。高村君は私と同じただの中学生でしょ? まぁもし、何らかの事情で身分を隠したどこぞの国の王子様なら話は別だけどね」

 千草は笑いながら、でも、どこか真剣に答えてくれた。

「俺はこれからどうしたらいいのかな?」

「それは自分で決めることでしょ。私は高村君の答えを出す手伝いをしただけ。それで、その答えを出した高村君はどうするのか」

「どうしよう」

「私に聞かないでよ。まぁでも、私だったらその正義の味方か王様かわからないけどそいつのトコに行って「俺はあんたと違ってただの学生だ。だから全部を守る。あんたにとやかく言われる筋合いは無い」って一発殴りに行くわね」

 殴るのか。痛そうだな千草の一撃は。口には出せないけど。

 でも、それは俺のやりたいことなのかもしれない。

「ありがとう、千草」

 俺が頭を下げると千草はブンブンと手を振った。

「礼なんかいいって。私が無理やり聞いて、勝手に答えてただけだもん」

「それでも、千草のおかげで答えが見つかった」

「ううん違うよ。高村君は最初から答えを持ってた。でもそれに確信を持てなかっただけ。相手が覚悟とかそんなこと言い出したら訳わかんなくなっちゃうのも当然だよ。それで、どうするのか決まったの?」

「ああ」

 決まった。いや、最初から変わっていないと思う。俺のやるべきこと。やりたいこと。

 あの少女に言いに行こう。それが俺の答えだと。


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