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魔法少女代行つきみ ~交差する太陽と月~  作者: てらい
第一章 墜ちた太陽と月
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少年の行き先

 目を開けると、そこには見慣れた天井があった。朝起きる時にいつも見ている。しかし、今はいつもより少し暗い。壁に掛かった時計は6時を指していた。

 朝? いや、太陽の位置的に夜だろう。

『目が覚めましたか?』

「・・・・・・ああ」

 ルースの機械的な挨拶。最近では彼女の声が起きてから最初に聞く声になった。

「・・・ん・・・」

 何だろう。目が覚めているのに眠い。これ以上寝る必要は無いと脳は言っているのに、身体が睡眠を欲している。

 だが起きなくては。そう、起きなければいけない。

 かけられた布団をはがし、上半身だけを起こす。

「アレスも寝てるのか」

『ええ、少し魔力を使いましたからね』

 アレスは机の上でタオルに包まり、静かに寝息を立てていた。

『聞かないのですか、何が起きたのかを』

「・・・・・・」

 聞くべきなのか、聞かないべきなのか。それとも聞きたくないのか。

 いや、聞いたところで俺には何もできない。戦う理由も守りたい思いも、何もかも中途半端な俺に、できることは無い。

『・・・・・・一つだけ、あなたに伝えておきます。あなたのその心の中にある気持ちは誰もが思うことです。別に気に病む必要はありません』

「慰みか? いや、お前がそんなこと言うわけないか。まぁどっちにしろ俺がお前たちにできることが無いってことだ」

 そう、できない、何も。

『そうですか、ではもう一度眠ってください。あなたの身体は睡眠を欲している。そのお守りの効力も今回は意味を成しませんでしたし、眠って魔力を回復させてください』

「そっか、じゃあもう少しだけ寝るよ」

 このまま眠ってしまっていいのか。何故か妙な不安が襲った。だが、そんなこと考える間もなく、この身体は眠りについてしまった。


=============================


「・・・・・・ぅ、まだ身体がだるい」

 目を閉じて寸刻。その目を開けると朝になっていた。ルース曰く飯も食ってたし、風呂にも入ったらしいが、そんな記憶は無い。

『身体に異常はないので大丈夫だと思いますよ』

 とルースは言うが、やはり記憶がないのはちょっと怖いものだ。

「それにしても、アレスはまだ寝てるのか」

 朝起きたときもまだ寝ていたが、朝飯を食べた後もまだ寝ている。いつまで寝るつもりなのだろう。

『昨日のこともありますが、地球ここに来てから結構な日数も経っています。やはり慣れない土地での生活で疲れもあるのでしょう』

 見たこともない土地で、故郷からどれだけ離れているかもわからない場所で、疲れないわけがない。肉体的にも精神的にも辛いはずだ。

「・・・・・この部屋を貸すくらいなら、今まで通り使ってくれて構わないから。疲れたら休んでくれよ」

 今の自分にはこれくらいしかできることがない。

「じゃ、行ってくるよ」

『はい、お気をつけて』

 ルースに見送られ部屋を出る。

「・・・・・・」

 その足取りは重く、どこに向かっているのかわからない。

 そう、この心の中と同じだった。









『よかったのですか? これが最期になるのかもしれないのですよ』

 少年が部屋を出て暫くの後、ルースは寝ているはずのアレスに話しかけた。

「私はさよならを言うつもりもないし、負けるつもりもない。何よりつきクンを心配させたくない」

 アレスはタオルに包まり目を瞑ったまま話した。

「それに寝てた方が魔力の回復が早いのは本当なんだからいいでしょ」

『それで眠れていないのなら、元も子もありませんね』

 そんなことわかってるよ、と心の中でアレスは呟いた。

「つきクン怒るよね」

『彼が知ったら、何故教えてくれなかったのかと言われますよ』

「だよね。でも、言えないよ。言ったら止められる」

 自分では何もできないと言いながら、間違っているだろうと思うことは止めるはず。それが少年の性格だ。

『私の意見としては、これが最良の選択だと思います』

「なら、ごちゃごちゃ言わなくてもいいでしょ」

 アレスは口を尖がらせた。

『ですがアレス、あなたにとっては違います』

「いいよ別に、私にとって最良である必要性はない。それに、つきクンに心配させたくないのも、ちゃんとした私の思いだから」

 それがすでに彼を心配させる要因のなのだ、とルースは思ったが、それを口には出さなかった。それはルースにとって最良では無いからだ。

『夕刻まであと8時間ほどあります。眠れないのなら外に出てみるのも良いのではないですか?』

「そうだね、ずっと寝てるのも身体に悪いし、ちょっとだけ出て外の空気でも吸おうかな」

 アレスは起き上がるとルースを首にかけ、ルースに問いかけた。

「私の選択は間違ってないよね?」

 それは自分に言い聞かせているようだった。国を背負うものとしての自分に。

『ええ、間違っていませんよ』

 紛れも無い事実。その選択は国を背負う人間にとって正しすぎた。


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