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魔法少女代行つきみ ~交差する太陽と月~  作者: てらい
第一章 墜ちた太陽と月
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黒い炎

「―――――!」

『な、なんだいこりゃあ・・・・・・』

 少女たちは目の前の光景に息を飲んだ。それもそのはずだった。目の前に写る光景は、彼女たちにとってありえない出来事だったからだ。

 渦巻く黒い煙。

 身体から湧き出るそれは、まるで蒸気のよう。

『魔力が・・・溢れてる・・・? おいおい、冗談だろこれ。人間の保持できる魔力量を遥かに超えてるよ』

 行き場の失った黒い魔力はゆらゆらと揺れ動き、空気へと消えていく。

「はぁ、はぁ・・・・・・っ、はっ」

 息が苦しい。身体は軽いのに、意識が遠のいていきそうだった。

「つきクン! ル、ルース、どうしたら良いの!?」

『わかりません。私にはどうしようも』

「そんな・・・・・・!」

 震える手が彼女を強く握る。

『私には、彼を受け入れることしかできない・・・・・・』

 身体の回りを渦巻いていた黒い魔力は、すっと吸い込まれるようにルースの中へと入っていった。

『い、いったい、何をしようっていうんだ』

 ルースの中に溜め込まれていく魔力。それは彼女の許容量を遥かに超えている。それでも際限無く注ぎ込まれていく。

『・・・・・・グっ!』

 魔力変換機ゲレータの中にあるルースという意識が掻き消されていく。

 ある筈の無い脳が焼き切れる。

 ある筈の無い目が潰れる。

 ある筈の無い耳が破裂する。

 それでも彼女は受け入れた。いや、受け入れざるを得ない。それが唯一の救いの道。


=========================================


『こりゃ色んな意味でやばいよ。ここはいったん離れたほうが・・・・・・』

 目に見えてわかることだ。ここにいてはまずいと。

「いいえ、戦わせてください」

『ちょ、何言ってんだい! 今のあいつはあんたでもどうにもできないよ』

 しかし、ブイオの声は少女に届いていない。

「こんなにも強大なものが目の前にあるのに、それに挑まず逃げるなんてできません」

 少女は不敵な笑みを浮かべブイオを構えた。

 ブイオは深く溜息をついた。強い者を目の前にすると、何よりも戦いを優先する。彼女の悪い癖だ。

『ああもう、どうなっても知らないよ!』


=======================================


 際限の無いと思われた魔力も、ついには底をつきそうになっていた。

『っ・・・はぁ・・・』

「ルース、大丈夫?」

『ええ、なんとか。しかし、本当に危険なのはこれからです。アレス、何があってもすぐに対処できるようにしてください』

 アレスは頷くと二人から離れ、静かに見守った。

『逃げなかったのですか?』

 目の前の、少女の構える剣に、少女自身に、ルースは問いかけた。

『私は逃げようと思ったさ。でもこの子がどうしてもって言うからね』

 ブイオは呆れながら言った。

「その尋常ではない魔力を纏ったあなたを、ここで必ず止めます」

『・・・・・・ふむ、なるほど。では、受けて頂きましょうか。わざと外すなんてできませんよ』

 言うまでもない、と少女は目で合図し剣を真っ直ぐに構えた。

「―――――」

 静かな風が二人の間を抜け、不気味な時が流れる。だが、その時はすぐに切れた。

 紅く燃ゆる、まるで太陽のような輝きを放っていた炎槍は、いつしか黒炎に包まれていた。その構えた炎槍をググっと引く。

 寸刻。

 身体がゆらりと前へ倒れる。

 刹那、引いた槍を前へ打ち出す。唸る筋肉。はち切れんばかりに振るう。

 槍は空を焦がし、風を燃やし、景色を絶つ。

 狙うは一点。ただそれを穿つ。

 軌跡を燃やしたそれは、キン、と音を立て貫かれた。

「・・・・・・っ、う・・・」

 目の前が霞む。身体が全く動かない。まるで鉛のように重く、突き出した槍ごと身体が落ちていく。

 結末はわからない。

 流れていく景色の中、ぼやけた目で前を見る。しかし、そこには少女が立っていることしかわからなかった。

『マスター!』

 ルースの呼ぶ声を最後に、意識がブツリと途切れた。


==================================


『アレス、お願いします!』

「わかってる!」

 落ちて行く少年の体。遥か上空からの落下。いくら下が木に囲まれているからと言ってそのまま落ちて無事な訳が無い。

「ディレーテ!」

 アレスの指先から放たれた朱色の光弾。それは少年目掛けて飛んでいった。

「もう一つ! おまけにもう一個」

 両手から同じ光弾が放たれ、最初の一つを追っていった。

 一つが少年へと追いつき、ぶつかる直前にボンと弾け光の網に変化し少年を包んだ。

 もう二つが少年の横に付き、同じくボンと弾け網に変化する。

「よし、今だ」

 少年の体が下の森へと入る直前だった。

 アレスの掛け声と同時に網と網が絡まり、そして両脇の二つは周りの木々へと絡みついた。メキメキと枝が折れ、音を鳴らしながら少年の体は落ちていく。網がゴムのように伸び衝撃を和らげる。

「ふぅ、なんとか大丈夫かな」

 伸びた網はゆっくりと元に戻り、少年の体は地面に落ちることなく、木々の間で網に絡まりゆらゆらと揺れていた。

「このまま解いたら落ちちゃうから、これをこうして、っと」

 アレスが網に魔力を送るとそれはスゥと伸びてゆき、地面にゆっくりと降りていった。

「よし、これでオッケーっと」

 最後に指を鳴らすと、網は跡形も無く消えていった。

『ありがとうございます』

 少年の変身魔法は解け、ルースは元の首飾りに戻っていた。

『ところで、行くのですか?』

「もちろん。じゃないとたぶん、向こうから来ると思う」

『わかりました。くれぐれも無茶はしないでください』

 アレスは少年の首からルースを外した。

「つきクン待っててね」

 アレスは眠った少年に届かない一声をかけ、空高く少女のいる場所へと飛んでいった。


====================================


『はぁ~まったく、冷や汗もんだったよ』

 少年が地へ落ちていってからどれ程が経ったのだろう。身体は無事であるはずだが、すでに戦える力は残っていないはずだ。ならば来るとしたら―――――

「・・・・・・っ」

 左腕に鈍痛が走る。

 少年の放った一撃。目では捉えられない疾さ。狙いを定められたらほぼ不可避の一撃だった。だが、少年の狙いはただ一つ。それがわかっていたからこそ、それを防ぐことができた。にもかかわらずだ。この左腕は使い物にならなくなっていた。

 確実に避けたはずだった。僅かに掠りはしたものの、それは炎槍によって服が焼き切れた程度だ。

「それが何故・・・・・・」

 左肩から先は全く動かない。辛うじて指先が動くかどうか。

『暫くしたら治るだろうけど、それよりも問題は』

「そうですね、こちらを何とかしなければ―――――」

 二人の目の前にはあの槍を構えた少女が。防護服は少年と同じ。朱色の髪を二つに縛り、紅の瞳を真っ直ぐに向けていた。

「はじめまして、というべきですか?」

「そのほうが良いんじゃないかな。私はどっちでもいいけど」

 目の前の少女に合わせるように曲刀を構える。

「その左腕、使えないんじゃない?」

「・・・・・・! 気付いていましたか」

「そりゃね、そんな不自然な構え方してたら気付くよ。それで、その腕無しで私に勝てると思う?」

 勿論、それは否だった。片腕無しで勝てるような相手ではない。しかしだ、目の前の少女が本調子でないのは目に見えてわかることだった。

「その身体を保っていることさえ困難なあなたに、負ける要素などありませんよ。あの小動物のような格好は魔力消費を抑えるためのものでしょう?」

「・・・・・・・う・・・」

 どうやら図星のようだ。

 だが、どちらにしろ戦える身体でないことは、二人とも同じである。

「ならばこうしましょうか。明日の夕刻、再びこの場所で相見えましょう。お互い本気とはいきませんが、その方が良い死合いができるはずです」

 少女はすぐに返事はしなかった。しかし、すでに答えは決まっていたように、その言葉ははっきりとしていた。

「―――――わかった。明日の夕方だね」

 少女は踵を返し背を向け

「私の戦う理由もあなたと同じ。ソルの人たちのために戦う。でも、あなたとも仲良くしたい。それはあなたとだけじゃなくて、ルーナの人たちみんなとってこと。私は間違ってるかな?」

 と顔を少しだけ覗かせ質した。

「そうですね、あなたの考えは間違っています。今の状況では、ですけど」

 彼女は再び振り返り

「じゃあ、戦争が終わったら仲良くできるかな?」

 と言った。

「無理ですね」

「あぅ、即答!?」

「良いではありませんか。少なくとも今はあなたに好感をもてています。これはお互いに仲が良いと思っているのではありませんか?」

「私は今だけじゃなくて、この後もずっと仲良くしたいんだけどな~」

 彼女の言葉は理想だった。それが叶うのであれば、最初から戦争など起きていない。しかし、それは誰もが願う理想。誰もが願っているはずなのに叶わぬ夢。

 彼女に返す言葉は無い。返せるはずも無い。

「それじゃあ、明日は正々堂々と」

 少女は手を差し出し私はそれを握る。

「はい、正々、堂々と」


===================================


 少女たちと別れた後は、またいつものようにドディックジュエリを探し続けていた。左腕の痛みは引かず未だに満足に動かせないが、それでも先ほどよりはマシであった。

『結局、あの男を止めることはできなかったね』

 ブイオの声が彼女の脳内へと響いた。

『ああいうのはどうしようもないのかね。好奇心旺盛というかなんというか。なんだっけほら、この星にある言葉であれくらいの年頃がなる病気』

「中二病ですか?」

『そうそれ。まぁわからなくはないよ? ここの人たちにとっちゃ魔法っていう存在は珍しい物だし、興味が湧くもんなんだろうね。んで、目に見えるもの全てを守りたいって気持ちも半分は本当で、半分は仮初の正義感。どっちも本気なんだけど、それが本気なのかわかっていない。そもそも本気かどうかも危うい』

 ブイオの言葉はまるで実体験であるかのようだった。

『実体験といえば実体験かな。ず~っと昔の話だけどね』

「ブイオもそういう経験を?」

『この世の全ての人達が平和に暮らせますように、っていうありきたりな理想を持ってたんだよ。あの頃はね』

 理想。

 この言葉はとても眩しくて、そしてとても軽い、人の夢。夢であるが故にそれは届かなくて、脆い。

 理想が叶う世界であるなら、人は人として生きていない。ある意味でこの世界は完全で不完全だ。だから人は人として生きている。

『ともかくだ。あの夢見る少年を巻き込んじまったのはしょうがない。まずは、あのソルのお姫様を何とかしなくちゃね』

 明日の死合い。それで決着を付ける。そしてドディックジュエリを全て見つけルーナに持ち帰る。

 それ以外のことを考えないようにした。それが自分のやるべきことなのだと暗示をかけるように。

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