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魔法少女代行つきみ ~交差する太陽と月~  作者: てらい
第一章 墜ちた太陽と月
24/74

パツキン美少女の来訪

 そして翌々日の放課後。呆気なく終わった朝日市消失未遂事件(勝手に名づけた)のことなど無かったかのような平和な一日であった。

「あれ、今日は部活無いのか?」

 隣の席で早々に帰る準備をしていた千草になんとなく声を掛けた。

「そりゃ毎日練習じゃないしね」

 と答える千草だったが、何で今更そんなこと聞くのかと逆に質問された。

「ん~、何でだろ」

 特に意味は無い。剣道部の練習が隔日の練習だということも知っている。ということも千草は知っているので当然の疑問だろう。

「は?」

 千草の顔が今までに見たことも無い顔をしていた。

「何でそんなこと聞いたんだろな。わかんねえや」

 わからないものはわからない。本当になんとなく話しかけただけだ。話の内容に意味は無かったのかもしれない。

「・・・・・・じゃあ、私帰るね」

 今までの会話をまるで無かったことのようにして千草は教室を出て行った。

 後を追うわけではないが俺も帰ることには変わりないので、千草の後ろを歩き教室を後にした。

「あれ、あの女の人・・・・・・」

 千草の後ろを歩いていると彼女は急に立ち止まった。彼女の目線は校門前に立っている少女に向かっていた。

「・・・・・・!」

 その少女はあの金髪の少女。少し離れていて顔が見えないが、あの髪を見間違うはずも無い。

『何故ここにいるのです』

 ルースは少女とブイオに念話テレパシーで周りに聞こえないように話しかけた。

「ここへ来たのは私個人の意思です。ブイオも、我がルーナ国の意思もそこには存在しません」

『だってさ。ってことで、今回用があるのは姉さんたちじゃなくてそっちの男さ』

 二人は言うと、少女がこちらを見たような気がした。

「もしかして高村君の知り合い?」

「え! な、なんで?」

 千草の言葉は、聞こえていないはずの会話を聞き取ったかのような反応だった。

「なんで、って高村君のほうを見てるから」

「わかるのか? こっちを見てるのが」

 ここからでは表情どころか少女であることがわかるのがやっとであるのに、千草にはこちらを見ているのがわかるのか。いったいどんな目をしているのだ。

 知り合いかどうか聞かれたが、どう答えようかかなり悩む。知り合いであることは確かだが、それ以上を話すことはできないしどうしたものか。千草はこの間も巻き込まれてるし、これ以上はできるだけ関わらせたくない。

 一人で悩んでいると少女の方からこちらに近付いてきた。

「お久しぶりです」

 話しかけたのは俺にではなく千草にだった。

「えっと、覚えてたんだ」

「あなたも覚えているのですから、私が覚えていても不思議ではないのではないですか?」

 二人は見知ったような雰囲気を醸し出していた。

 一体どのような関係なのだろうか。と思っていると、顔に出ていたのか千草がそれとなく答えた。

「この間、学校の前でちょっとぶつかっちゃって・・・・・・」

「うん、それで?」

「それだけ」

「え、それだけ?」

 それは知り合いというのだろうか。いや、二人は知り合いとは言っていないので不思議ではないのだが、何故こんなにも親しげなのだろうか。

「ところで、高村君は彼女とどんな関係なの?」

「う、それはだな、なんと説明しようか・・・・・・」

 千草の問いに戸惑っていると、隣で見ていた少女が助け舟を出してくれた。

「私と彼もあなたと同じで、何度か道ですれ違った程度ですよ」

「そ、そうなんだ。最近よくすれ違うから顔を覚えちゃったんだ」

 ナイスフォローだ、金髪の少女よ。

「強いて言うならば血と血を分け合っただけで、それ以外はただの知り合い程度です」

「そうそう、ただの知り合い・・・・・・」

 あれ、血と血を分け合った? いやいやいや、何言っちゃっているんだこの人。

「えっと、お嬢さん? その血と血を分け合ったって言うのは・・・・・・」

「はい、先日のあの時に少し」

 少しって何だよ! 一体この身体に何をしたんだ!?

 千草はさっきよりも引きつった表情をしているし、何よりちょっと面白そうな感じにしているのがなんとも言えない。

「た、高村君! ちょっと面白そう・・・・・・じゃなくて、聞き捨てならないわね」

 と言う千草の声はものすごく裏返っていた。

「そ、その血を分け合った、って言うのは、つ、つまりどういうことなの!?」

 それを聞きたいのは俺なんだけど。

「別に大したことではありませんよ」

「たたた、大したこと無い!? ―――――外国の人にとっては・・・大したこと・・・無いの・・・・・・・?」

「何を驚いているのかわかりませんが、ただ単純に説明するにはその言葉がふさわしいかと」

 いや、だから何をしたのだと具体的に聞きたいのだが、という旨を念話で少女に伝えると彼女はこう答えた。

「私の魔力とあなたの魔力を少し入れ替えただけです」

 魔力は血液中に多く含まれるので、人から人への魔力譲渡は血液の交換が一番手っ取り早いのだとか。血液型とかそういうの気にしなくていいのかと聞くと、厳密な血液の交換ではないらしいので大丈夫なのだそうだ。

 真実を知り心の中で胸をなでおろす。どうやら人前では言えない様なそんな関係にはなっていないようだ。

「たた、高村君! こ、このことは入江さんは知ってるの!?」

「し、知らないけど?」

 と言うより、知っているはずがないだろう。

「な・・・・・・そんな、まさか・・・・・・禁断の二股!」

「ちっげーよ! だいたい、舞はただの幼馴染だっていつも言ってるだろ」

「じゃ、じゃあ本命はこっちのパツキン美少女!?」

 その時代遅れな言葉のチョイスは何なのだ。

「いえ、私と彼の関係は、あなたの思っているような恋仲ではありませんよ」

「じ、じゃあ恋人でもないのに、その、えっと、あの、やっちゃったの!?」

「やってね~よ! なんも! これっぽっちも! 千草の思うようなことはしていない!!」

 断固、これだけは言える。

「ぅう、じゃあ、血と血を分け合うっていうのは?」

 それを言われると何も説明できないのが悔しい。潔白であると証言できるのに、それを説明することはできない。

「それは所謂比喩というものです」

「比喩?」

「はい、実は私と彼は血の繋がった姉弟なのです。母を同じくする同胞はらからというやつです。しかし、紆余曲折あり二人は別々の人生を歩んでいたのです。そして、その事実を知った私は、はるばる海を超えこの地にやってきたのです」

「・・・・・・」

 絶句している。俺も千草も。

 なに言ってんだこの人、と千草も心の中で思っているはずだろう。

「という冗談をかましたほうが面白いと、どこかの本で読みました」

 どこの本だよそれ。

 千草も口が開いたままである。

「そういう冗談はもっとわかりやすくないとダメなんじゃないか」

 ただでさえ冗談を言いそうもない人柄なのに、その真顔から放たれる言葉が冗談に聞こえる訳が無い。

「ははは、面白いねそれ」

 まったく感情のこもっていない、お世辞にもならない言葉を返す千草。

「そうですか、ありがとうございます」

 そしてこちらはとても感情のこもったありがとうだった。

「ねぇ、どこからどこまでが冗談なの?」

 千草は少女に聞こえないように耳打ちした。

「えっと、殆どが冗談かな?」

 と、千草は俺の言葉を聞くと、がっかりしたように肩を落とした。

 なぜ肩を落としたのかは聞かないでおこう。

「なんだ、そうなんだ。てっきり高村君が入江さんを裏切って浮気したのかと思っちゃったよ」

「う、浮気って、んなことするかよ。それに、俺と舞はそんな関係でもない。みんなが思うように、幼馴染ってのはそんなに特別な関係じゃないんだよ」

 しかし、毎度説明するのは良いが、何度言っても聞いてくれない。すっかり慣れてしまったが。

「ところで、そろそろよろしいでしょうか」

「ああ、そうだった、俺に用があるんだったよな」

 少女の言葉で本来の用事を思い出した。

「ここでは話し難いことですので、あまり人目のつかないところへ行きましょう」

「そうだな・・・・・・・・・・って千草、そんな目で見ないでくれ」

 疑いが晴れたのも束の間、少女の一言で千草の目が疑いに満ちていた。

「やっぱりな~んか怪しいよね」

「あ、怪しくないって。至って、極普通の関係だから。千草にだって人に聞かれたくない話はあるだろ?」

「そりゃそうよ。でも、見るからに怪しいものを見て、興味を持たないわけないでしょ」

 当然でしょ、と千草は言ったがごもっともである。だがしかしだ、人間誰しも興味を持つのは当然だが、それを抑制するのが理性なのではないのか。理性を無くせば本能のままに生きる獣となってしまう、とかなんとか。

「じゃあ、私帰るから」

「え!?」

「なによその反応。せっかく人が気を利かせて帰ろうとしてるのに。もしかして聞いて欲しいの?」

「いや、そういうわけじゃないんだが」

 気を利かせている、のか? すでに他人の事情に踏み入り問い質しまくってたのに。

「まぁいいんだけどさ。あ、そうそう、女の立場からの意見だと、入江さんには見つからないほうが良いよ」

「・・・・・・どういうことだ?」

 千草に聞き返すと呆れたような顔をし、怒りとも取れるような声で言った。

「つまり・・・・・・早く学校ここから出てけってことよ!」

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